第11話
広場全体がざわざわと騒ぎ出し、俺とアリアの会話に視線が集まる。
「年増好きかい?」
アリアは淡々とした口調で話す。
「わからない。なにぶん、経験が少ないんだ。ただ、今まで会ってきた
「私はもう400を過ぎてるよ」
「ならあと、100年は生きられるだな。それにエルフはゆっくりと老いると聞いた」
「エルフでも300歳過ぎたら立派な『行き遅れ』だよ。ヒューマンも20~30くらいで結婚するんだろう?」
俺がいた世界ではもっと早い。女性となればなおさらだ。10歳頃に成人とみなされ15歳に満たずに嫁ぐ娘も珍しくはなかった。
でも、俺を育ててくれた武昌様の正室である#松姫__まつひめ__#様は教えてくれた。
「セツ、若さに惑わされてはいけません」
それは松姫様を見れば誰もが納得する事実だった。最後の戦に旅だったときの松姫様は50を過ぎていた。しかし、女としての魅力は失われることなく、むしろ、出会ったときよりも増していたように思う。
「関係ない」
俺はそう言い切って強く尋ねた。
「俺じゃ駄目か?」
おぉーっ
周囲が静かに盛り上がる。俺たちはすっかり注目の的だ。
「埒が明かないね。すまないが今日中に片付けたいことがあるんで、ここで失礼するよ。……クルク!後は頼んだ」
アリアは近くにいた男に声をかけて、呼び寄せる。
「甥のクルクだ。何でも聞くといい。勝手ながら異世界のことは話してある。こいつは信頼が置ける。私が保証しよう」
そう言って、アリアは小屋の方へ言ってしまった。ルシアはペコリとお辞儀をして元々いた集団の元へと戻っていく。ここぞとばかりにルシアを慰める男の声が聞こえる。
俺に対する男たちの目線は暖かいそれに変わっていた。愛しの娘を奪う敵ではなくなったようだ。
「セツは勇者だな」
そう言いながらクルクは、アリアがいた俺の隣の席に座る。
「褒め言葉として受け取っておこう。俺は振られたみたいだな」
俺はそう答えながら、クルクのコップにエールを注ぐ。
「そうでもないさ」
クルクの声は真剣だ。からかっているようにはみえない。
「アリアが会話の途中で席を外すことはほとんどない。動揺している証拠だ」
俺はほんの少しの光を見い出した。
「アリアに相手はいないよな?」
「いないよ。早くに族長を継いだからね」
「族長に恋愛はご法度か?」
「いいや、そんなことはない。ただ、族長は集落で一番強いものが継承する決まりなんだ」
つまり、アリアより強くて魅力的な男はいないということか。
「やはり弓矢がうまいのか?」
周りには護衛用なのか、弓矢を近くに置いたエルフたちが多い。アルクの矢もかなりのものだった。
「矢もそうだが、何よりも魔法だな」
「魔法?」
「精霊……」
クルクは言いかけて言葉を止める。
俺が異世界から来たことをクルクも知っているのだろう。他のエルフに悟られるのを気にしたのかもしれない。
「かまわない。この世界のことをもっと知りたいんだ」
アリアのことももっと知りたかった。
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