第6話


                  6




 咲彩が退院してから、3週間が経った。




 先週から学校にも復帰して、通っている。 通院もあと数回で終わりそうなので、気持ちが楽になって来た。


 ただ、やはり傷口は若干だが、痕が残ってしまった。 まだ事故から約一ヶ月なので、傷痕は濃いピンク色なので、その事だけが、残念だと思う、咲彩だった。 


 病院側から、美容整形での、傷痕の手術を行えば、そこそこは奇麗になると言う事は教えてくれたが、またも学校を休むのは、単位取得の影響が出てくるので、咲彩は美容整形を行わず、傷痕メイク技術の美容師を紹介してもらった。


 そのメイク技術の腕前は、見事なもので、通院が終わるまでには、傷隠し以外にも、そこそこのメイクが出来る様になってきた。


 咲彩の髪型も、傷口を隠せるようなセミロングなので、普段人と会う時も、髪で隠れるものなので、普段は心配していないが、やはり、女の子と言う事で、最終的に、腫れがどの程度まで引くのか、完治するまで分からないと言うのが、不安だった。




              ◇




 さらに月日は流れて、咲彩も大学3年になった。早い人では就活に動きだす者もいた。 


 咲彩もあの入院から、ほぼ二年が経ち、学業も大分落ち着いて来て、そろそろ就活に向けなければと思っていたところだった。




「莉子。 そろそろ就活を考え始めているんだけど、あなたはどうなの?」


「あー。わたしはそろそろ始めてるよ、大学にあるパンフレットとか、HPを見て、採用状況なんかを最近見始めたかなー」


 一足先に就活を始めた莉子だが、ほんの先日から始めたばかりなので、それを聞いた咲彩も、その気になって来た。




「私も今日から始めようかな。 職種はまだ決めて無いけど」


「今から始めて、いろんな職種を見てから、絞ればいいんじゃない?」


「そうだな....、うん、そうするか。 で、莉子は今日はどうなんだ?予定は」


「もう今日は終わったからね、このまま帰るだけだよ」


「じゃあ、学食行かない? そこで、スマホで就活のチェックしよ」


「はは....、そう言う事か....、いいよ咲彩、付き合ったげる」


「うふふ、いい女だな、莉子は....」


「今頃気が付いた?」


「言ったな~....」




 莉子を見て、この日から、就活を始める咲彩だった。 だが、この就活に、再びの出会いが待っていた。






              △






「う~ん、やっぱ事務職だよねー、でも、毎日事務所に居るってのも、息が詰まるし、でも屋外で業務をするってのは、天候に晒されるんで、それもな~....」




 莉子と共に、就活を始めて約一月が経った。 自分のしたい事、自分に向いている事など、何かを目標に今まで決めて来なかった咲彩は、若干の後悔をしている最中である。


「外回りがある事務職ってのもあるけど、結構前から勉強しておかないと、社会に出てからじゃあ、多分同じ新入社員と比べても、一歩遅いスタートかもよ」


「やっぱそうかぁー。だよねー、私の今からだと、職種が限られてくるんで、決めるの楽だな」


「何を気楽な事言ってるの、うーん、でも、そうかぁ。そう言う考え方もあるんだなー」


「感心して頂いて、ありがとうございます。 莉子さん」


「褒めて無い!」


「あっちゃ~!!」




 全然心配していない咲彩だが、莉子は、もうじきに、4年生になる事を考えると、咲彩の事も含めて、本腰入れてやらなきゃと思う、若干の焦りがあった。




「ちょっと咲彩。 気楽すぎ! ウロウロしてると、就職難民になっちゃうから、そうならない様に、お尻に火をつけ始めなさい」


「は~~い」


 呑気な返事であった。




 咲彩は、別段、大手企業ではなくとも構わないと思っている。 特に意識しているのは、のびのびと業務をしたいのが、性格から来る希望であった。




「まあ、何とかなるでしょう。 莉子、メシ行かないか?」


「あらやだ、もうそんな時間....って、お昼過ぎてるじゃない。 お腹空く訳だ」


「だろ? どこにする? 学食でいいかな?」


「う~~ん、折角だから、外行かない?」


 咲彩がニマっと笑って。




「中華だな、ラーメンだ、ラーメン」


「えぇ? そこは学生の味方、ファミレスでしょ~」


「いいじゃん、女二人なら中華。ラーメン・ラーメン」


 は~....と、溜息をついて、諦める莉子。


「まあ私もラーメンは好きなんだけどね。 ま、いいか....」


「じゃあ、決まりー!っと、餃子も食っちゃお~っと」




 大学から出て約数分のところに、中華の店がある。 ここは学生に優しく、リーズナブルな価格なのに、美味しいと評判の店だ。


 学生だけでは無く、ランチに来る近くの会社員も来る。 だが、今は午後1時半過ぎ、若干の空席が出来始めていた、ランチタイムは2時までなので、間に合った。


 店に入ると。


「「「らっしゃいませー!」」」


 と言う、威勢のいい声が店内に響く。


 空いている席を探すと、4人が座れる座敷席が3つある内の、一つが空いていたので、そこに咲彩と莉子は陣取った。


 ランチを注文後。


 咲彩の目は、ラーメンと言う《ワード》で、目が キラッキラ☆ としていた。




 座敷席に座ると、若干隣とは離れているが、作業服を着た二人の男性が、すでに定食を食べ始めていた。 だが、二人なのに、何故か定食は3人分があった。


 この二人の内、どっちかが二人分を食するのだろうかと、莉子と咲綾は、ヒソヒソ話で。


『どっちかの人が大食家なんだね~』


 などと、話していた。




「「「らっしゃいませー!」」」


 と言う例の威勢の良い声が聞こえたかと思ったら、隣の席と一緒の作業服を着たガタイの良い男性が、入って来て。


「すみません、お待たせしました。 あ、注文ありがとうです。」


 と言って、隣のテーブル席に着いた。






 着いた。








 着いた....?。










 のだが........。






「あぁぁぁぁー!!」


 っと、店内に轟く “あ” のロングトーンだった。


 そして、咲彩の次の言葉に、莉子と、隣の作業服の男性たちが、目を見張った。




「祥太さん!!!」






             △








 後から入って来たその男性は、紛れもなく、例の“道の駅”での事故から、およそ2年経ってはいたが、まさしく 祥太 だった。




「咲彩さん、こんなところで、遅めのランチですか?」


 同僚の目があるが、例の女の子という事は、同僚も気が付いたみたいで、祥太に気を使った同僚が。


「祥太。ランチそっちに持っていっていいから、その娘たちと一緒に食えば?」


 この言葉を発した祥太の同僚の声に、莉子が赤面した。




「な....咲彩。 この人なの? 例の2年前の人」


「うん、そうだよ。 『カッコいいでしょ?』」


 後半は、小声になった。


 それを、聞こえたのか聞かずか。






「あ、ごめーん、咲彩さん。 迷惑だよな、すまない、同僚たちが」


 咲彩が莉子と一度、祥太の同僚に頭を下げ、祥太に対して咲彩が。


「いいですよ、私たちなら。 な、莉子」


「........、い、いいよ、別に」




 そんな会話を割る様に、店員が、咲彩たちのランチを持ち、配膳してくれた。




「一緒に食べましょ、祥太さん」


 と言われるが、躊躇してしまう祥太、それを見ている同僚の二人は、右手を シッシ....と犬でも追い払う様にしてきた。


 それを見た咲彩が。


「ほらね、いらっしゃい翔太さん、ね?」


 同僚にも言われたし、祥太は女子大生のテーブル席に着き、一緒にランチをする事になった。




 咲彩が気さくな事もあり、意外に緊張する事も無く会話が出来、若い女性とのランチを楽しむ事ができた。


 そして、祥太の勤める MRエムアールコーポレーションは、この近くにあったという事、しかも、咲彩の家からだと、通学の道筋になり『あ~、あそこの2階建てのビルが....』と言う、今まで知らずに自転車で通り過ぎていた事に、今更ながら、知ったのだった。




 今回のこのランチも、たまたま祥太たちの現場の都合で、昼食がズレたためであって、それに、ラーメンが食べたいと言う、咲彩の偶然な気まぐれから出くわした出来事だった。


 その後、会社に帰った祥太は、同僚たちに揶揄されたと言う事は、言うまでも無い事だった。




 ちなみに、咲彩と祥太は、ラーメンをすすり中に連絡先を交換した事は、同僚たちには内緒で、桜が咲く直前の、寒の戻りの日の出来事だった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る