第4話


                  4




 まさに全員ビックリである。


 特に莉子に至っては、全くもって事情が掴めないと言った状況に、困惑している。




「茜先輩、何を言ってんですか? 優先輩が、私の事を?....ですかぁ?」


「そうよ」


 茜にきっぱりと言われた咲彩は、正に困惑の極みである。




 このやり取りを咲彩の隣で聞いていた莉子は、今まさに涙腺崩壊寸前である。




「ちょっと、先輩。 莉子、泣き出しそうですよ」


 この莉子の姿を見て、咲彩は若干の罪悪な感情を覚えた。




「おい、そこ。 僕を置いて、勝手に話を進めないでくれ」


 ここにも困惑した男子(優)が居た。


 今まさに、周りで勝手に話が進んでいるが、その内容は正直言って、全くの的外れでは無いので、これまた恥ずかしくも困惑している優が居た。


「優、私が言った事って、あながち外れでは無いでしょ? ここ暫くの、あなたの視線を見ていると、分かるのよ」


 これには何も言えず、少し咲彩の顔色を少しばかり見た。 その時に咲彩と目線が合ってしまった。


 それを見逃さなかった、莉子の表情が、涙目なのに固まった。




「そう言う事なの? 咲彩」


 コレに慌てて、否定する咲彩。


「ま、待て、莉子。 私は初耳だぞ、この事情は。 しかも、恐れ多い優先輩と、そんな関係になろうとは、思いもしないぞ」


 咲彩のこの発言に、莉子は若干の安堵が見られたが、優にとっては、否定されたものだから、表には出さないものの、少し凹んだ。






 この状況に、参加したメンバーは、只々聞き入るしか無く、無言のまま、この修羅場までには至らない揉め事に、そのまま行方を見守るしか無かった。




「先輩。私の事好きなんですか?」


 咲彩がハッキリと、優に伺いを立てる。


 困った面持ちの優が、発した言葉は。


「この際だから、ハッキリ言おう。 僕は確かに君に対して、茜が言う様に、好意は抱いている。だが、まだはっきりしてはいない。これが僕の今の心境だ」


「じゃあ、まだ間に合うんですね?」


「何が?」


 不思議そうな優の表情に、自からの断りを含めた言い回しを返す咲彩。


「莉子が先輩を好きになる事です」


 沙耶が申し事を言った後、莉子の様子を見ると、少し驚いた様子で、咲彩と目線が合った。


「安心しな莉子。わたしはまだ暫く、恋愛はしないからな」


 キッパリと断言した事に、莉子は頬が緩んだ。....が、反対に、優が若干だが、気落ちした様に見えたのは、咲彩だけでは無いみたいだった。


 この時、優は何かを悟ったのか、気持ちがすっきりしたのか、突然笑い始めた。




「あははははは........」


 全員が優を見て、ポカンとしてしまったが、すぐに茜が察したのか、つられて茜も笑い始めた。


「「あははははは........」」




 それにつられる様に、一人づつ笑い声が重なり、最後は他のテーブル席から、? があちこち見られる様になった。




             △




 ひとしきり笑った後に、優が何かを理解したかのように、言い出した。




「分かったよ。 咲彩ちゃんにそれだけキッパリと言われるとはなぁ....。でも、気分がいいかな、かえって」


「ごめんなさい先輩。 わたし、まだ恋愛はしたくないんです。 しっかりと自分がコレだと思える人以外には、まだ会えていませんから」


「わ!そこまで言われたぁ....。じゃあ、君が理想の人に出会える事を僕は祈るよ。 ちょっとキザだったかな」


「まぁでも先輩なら、その言い回し、似合いますよ」


「ありがとう。で、もういいかな? この話は」


 恥ずかしいのもあり、早くこの話を閉じたい優。 だが、そんな事はさせじと、茜がいまだにモヤって居る事案を、蒸し返す。




「優。 莉子はどうするの? この一途な女の子の思い、まさかだけど、避けて終わらせようとしたんじゃない?」


「う!!」


 折角いい感じで終れると思った途端の、茜からの指摘を、やっぱり忘れていなかったなと思う優だった。


 そして、莉子を見ると、なにか瞳をウルウル・キラキラさせて、優を見ているのに、気が付いた。


 それを、優は <かわいい> と、思ってしまったのは、優の心の奥底に沸いた感情である。




「で、どうするの? 優。決めないと、今日はこのまま解散しないわよ」


(わ! ヤベ―....。 茜がこうなると、本気だから、まずい事にならない様に早いとこ解決しよう)


 そう思い、この茜の若干苛立った発言に、終始をする。




「じゃ、じゃあ、莉子ちゃん。良かったら、友達からでもいいかな?」


 想い人からの理想に近い言葉に、莉子は漫勉の笑みを見せながら。


「よ、よ、よろしくお願いします」


 若干のどもりを可愛く思ってしまう優が居た。




 メンバーから拍手が起き、フードコートに座っている他の客からも、数人から拍手をしてもらった。




              △




 その後、そのままフードコートで食事を取り、今日の取材の成果を各人から聞き出す。  のだが、何と言っても、今日は恋愛絡みで、それどころではない事情だったので、例の、地産の果物ジュースのみが、今日の収穫になった。


「いったい誰のせいで、こんな成果の乏しい結果になったんだか....」


 このリーダーである優の声に、莉子以外の一同は。




(あんたの色恋沙汰のせいだよ)




 と、心中でぶつける様に、無言の苦情を思った。






 時間も大分過ぎて、そろそろ帰宅しようと、全員で駐車場に向かうと、先ほどの工事中の関係車両のダブルピック車が、優の家の車の隣に止まろうとしていて、今まさにバック駐車の最中だった。


 そのバックしている車に向かって、誘導している大柄の人物が居る。


 丁度そのタイミングで、咲彩たちが車に乗ろうとしていたものだから、その工事車両がちゃんと駐車スペースに収まりきるのを確認してから、乗車するつもりだった。


 ダブルピック車が駐車を終え、運転席からドライバーが出てきたので、メンバー達はもういいかなと思い、咲彩も後部座席に乗ろうと、若干前かがみになった時、まさにその工事車両の後部座席のドアが開いた。




 運が悪いとはこう言う事なのか、なんとその車両のドアに、咲彩の顔面の右側面が当たってしまった。




 後部座席に乗っていた大柄の人物が、すぐに気が付いて、ふたたびドアを閉めようとしたのだが、すでに結構強めに当たってしまった後なので、咲彩は右手で痛む頬を撫でた。


「す、すみません。大丈夫ですか?」


 そう言う声が聞こえたが、次第に何か滴って来る感覚がしたので、顔から手を外し、手のひらを見たら、赤い血痕が付いていた。


 事の顛末の一部始終を見ていた、まさに同乗しようとしていた優と莉子が、顔を引きつらせ、莉子はその鮮血を見て叫んでしまった。




「きゃーーー!」




 その声に他のメンバーも、その駐車場に居た人達も、その声の下に注目する。




 コレは一大事と、そのトラックの後部座席に乗っていた当人が、急いで反対から降り来て、咲彩を見た後、トラックに入っていた奇麗なタオルで、咲彩を抱えて、傷口を押えながら、現場監督を呼び、咲彩の流血を見ながら。


「ごめんなさい。すみません。 いま救急車を呼びますから。本当にごめんなさい」


 そう言って、タオルで押さえていた反対の手で、スマホを取り出し、救急車を呼んだ。






              ◇






 病院での処置をした後、咲彩はそのままその日は、検査(CT)を受け、傷口以外に異常が無い事が分かったが、傷口がパックリと4針分も開いていたものだから、その処置は女性の顔と言う事もあって、少し時間が掛かった。そして、そのままこの日から2~3日は入院するように言われた。


 隣に乗っていた男性も病院まで来てくれて、後に到着した咲彩の両親に、深々と謝罪していた。








 次の日、殆ど痛みは無く、ネット包帯で患部を覆っているので、鏡を見ても良くは分からないが、どうやら右耳の前部分、蟀谷こめかみから鬢びんにかけての部分を、ドアの縦部分でぶった時に、出来た傷みたいだ。




 朝の病院食の後、暫くスマホを弄っていると、ドアノックがして、どうぞ と言うと、ガタイの良い、若い男性が入って来た。


 するといきなり、謝って来た。




「本当にすみませんでした。 私、市内にある建設会社、MRエムアールコーポレーションの、杉本すぎもと 祥太しょうたと言います。この度は、私の不注意で、いきなりドアを開けてしまい、このような事故に合わせてしまい。しかも若い女性だというのに、見える部分で....、大変申し訳ありません」


 そう言うと、力なく深々とお詫びをし、持って来た手土産を咲彩に渡した。




「わざわざありがとうございます、私は市内の大学に通う一年で、大橋 咲彩と言います。 それに、わたしにも若干の過失があります。 十分トラックは見たつもりで居たのに、無理やり車に乗ろうとしたのも、私の過失だと思います」


「いえ、あれはどう見たって、私の過失度は高いです。なので、退院するまでは、毎日状況を見させていただきたいので、朝夕と、寄らせてもらいます」


 ハッキリとした物言いに、咲彩は、この人は多分嘘なんかつけない性格なんだろうと、第一印象で思った。


「そんな、いいんですよ、毎日なんて。 お仕事忙しいでしょ?」


 すると、祥太は苦笑いをし、言い辛そうにして、事情を話した。




「あれから実は、あの現場、三日間の作業停止になってしまいまして、今こうやってこの時間に来られるのは、そんな事があっての事なんです。ま、会社からも、お見舞いに行って来いって言われてますが」


「えぇ、じゃあ杉本さん、上司に怒られたんでしょう? 私のせいで」


「滅相もない、大橋さんのせいでは決してないですから。 気に病まないでください」




 そうしているうちに、咲彩の母親が付き添いに来た。




「あ、お邪魔しています。 MRコーポレーションの杉本 祥太です。 この度は....」


 と、言おうとしたら、母親が口を挟んだ。


「まあまあ、この度は昨日に続き、こんな朝早くからお見舞いに来ていただき、ありがとうございます。私、咲彩の母親の 大橋おおはし 淳奈じゅんなと言います」


 キレイな40代前半の女性だった。


「いえいえ、この度は本当に申し訳ありませんでした」


 祥太は、また深々と、今度は母親に頭を下げた。そんな律儀な所作に、淳奈は感心した。


「まあ、ホントに律儀な方ね、好印象だわ。あ、でもあまり気にしないでね。きっと、ウチの娘も ボーっとしていたんだと思うから」


「い、いえ、そんな....」


「うふふ、いいのよ、堅苦しいのは」


「重ね重ねすみません」






 堅苦しい挨拶が続く中、暫く喋った後、祥太は 『また明日来ますから』 そう言って、病室を後にした。




 病室に母娘二人きりになった時、咲彩と淳奈は、祥太の事を、礼儀正しく律儀な人物だと、好印象を持った。






          □






 この小説をお読み下さっている方々、ありがとうございます。




 この回から、咲彩と祥太が出会いました。


 コレからは、さらにひと悶着ありますが、最後はハッピーエンドですので、安心してお読み続けてください。


 なお、この小説は “おまけ” を入れて、全10話ですので、気楽に読んでやってください。




 いつも来て下さる方々、ありがとうございます。












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