第11話 ファイター強襲

                         『 中点同盟 参画作品 』 


 大統領専用機と共に上空に上がったホワイトキャッツ隊、大統領専用機はそのまま上昇を継続するが、途中アイがリザにこのまま高度を維持するようにハンドサインを送り、無線連絡を入れる。


「キャッツ・2、済まないがチャーリー・1をレーダーで捕捉しておいてくれ、絶対に見失わないように!」


「えっ? ええ!? チャーリー・1って?・・・」


 現在の状況で味方を補足しておけなどと、奇想天外な事を言われ理解出来ずに理由を聞こうとするリザ。しかし、アイは直進しながら聞こえないフリをする。そして空中に静止すると、またハンドサインを送り無線から次の命令を出して来る。


「いいか? 前方1kmに罠を張る。 EE3爆雷型EPM弾をワンタイムトラップで使用する準備を、高度は7,000mで」


「りょ、了解」


 アイとリザはDパックのホルダーからショットガンを取り出し、手際よく青いカートリッジをセットした。それを前方に射出すると、発射口を飛び出した2発の弾は白い軌跡を残し弧を描いて降下して行く。暫くすると爆裂し、細かな粒子が散らばり空に幕るかのように展開した。その粒子は空中に静止しているのが肉眼で辛うじて判るぐらいで、レーダーには映らないため航空機からの察知は不可能と思われる。


 空に張られた幕の四つ端には、赤く光るボールが配置しその中に浮かぶ粒子を空中に固定している。そして、それらに電源を供給しているようだ。


「でも、ここを通るとは限らないのでは?」


 罠を張ってもそこを通って貰わねば意味を成さない。前方から迫る敵機、それより下に張られた罠にはどう見ても掛からない。リザがそう思っていた。その言葉にアイは嫌な笑みを浮かべる。


「追い込むんだよ」


 その言葉を聞いて、リザにもある事が頭を過った。しかし、もう確認している時間はない。レーダーからはまだ敵機と思われる4機の機影は消えず、それが、もう目前に迫っている。そして、距離が5km割った時だ、4機の後ろに更に2機の機影が追加された。敵機は全部で6機だ。よくある事ではないが、機の位置によっては、他の機影に隠れてレーダーに映らない場合もあるのだ。


 前衛の4機はダイヤモンド編隊(菱形の編隊)で飛行、そして距離を置いて、2機が並んで迫る。

 



 6機は明らかに高度を上げた大統領専用機を狙っている。共に徐々に上昇し出し後ろに回り込もうとする。だが、こちらには気付いていない。そして、編隊飛行を継続していてまだBREAK散開していない。


「6機か、距離2,000mでガトリングポッドで攻撃する。 リザは前衛の左舷、俺は右舷を撃つ!」


「は、はいッ!」


 敵機接近の逼迫した状況でキャッツ2をリザと呼ぶアイ。無線非使用時の私語ならまだしも、とっさに無線で発してしまうのは何か特別な思いがあるのであろう。


 レーダーからは、敵機の接近を知らせる高い電子音が断続的に鳴り響く。まだ、敵機は目視出来る範囲ではないが、目視可能になってからでは攻撃は遅すぎる。レーダーと照準システムだけを頼りに目標を狙う。


「来るぞ・・ っ撃っ!」


 D.F隊の照準システムはレーダーの情報から捕捉した標的位置を知らせるのみだ。ガトリング弾は誘導弾ではないので、レーザーロックオン(標的追尾固定)はしない。故に相手機はレーザー掃射がないため捕捉を感知する手段がなく、自機が狙われている事すらも解からない。


 そんな状況の標的に目掛けて、2基のガトリングポッドが大きく唸った。無数の赤い閃光が、照準システムが捉えた目標に吸い込まれて消える。そして、爆炎を上げ砕け散った。


 突然の僚機ウィングマン(注1)の爆発に敵機は驚いたのは言うまでもない。そして我に返り、慌ててBREAK散開の指示をするが・・・



 次の瞬間、先頭の1機は上昇し難無く離脱出来たものの、その後ろの機は降下と同時に青い光に包まれ、キリモミ状態となりそのまま落下して行った。1瞬にして、3機が消失された。




 ダイヤモンド編隊とは1番機が先頭で2番機が右舷後方、3番機が左舷後方に配置し、4番機が1番機の後方に着く。しかし、4番機は1番機の排気を受けないように少し高度を下げて飛行する。


 編隊中の緊急BREAK散開する時は必然的に1番機は上または直進、2番機は右、3番機は左、4番機は下に回避するのである。アイはその衝動的な回避行動を利用したと思われる。



 だが、先頭の機と後続の2機の計3機が残った事になる。後続の2機に対しては、それぞれ背後からチャーリー・1、2が狙うが、アイ達の攻撃を躱し上昇した1機はの姿は目視出来なくなった。大統領専用機へ向かったと思われるため、アイとリザが専用機の援護のため上昇する。




 一方、大統領専用機の援護にあたっているチャーリー・1、2は、各々後続機である2機の背後を取っていた。機の照準システムが、レーダーロックオンを完了し長い電子音が鳴り響く。操縦桿の赤い発射カバー開け、発射ボタンに慎重に触れた瞬間である。チャーリー2が大爆発を起こした。無線連絡する暇が無かった事からパイロットは気付くのに遅れたとみられる。撃墜したのは大統領専用機へ向かったと思われた1機だった。そして、チャーリー2に狙われていた機と合流すると、素早く反転しチャーリー1へと向かった。


 敵機は西側の古い機体であるF5EタイガーⅡと見られる。最新の機体からすれば、装備に多少の制限はあるものの運動性能は良く小賢しい機体である。




「チャーリー・2がやられた!」


 チャーリー・2の撃墜を知らせる無線連絡で、アイの顔色が変わる。護衛機が後続の2機を落とすと思っていたからだ。チャーリー・1が落とされれば、形勢は一気に逆転するだろう。



「キャッツ2は専用機護衛へ、俺は、チャーリー・1を援護する!」


「了解!」


 アイはリザにそう告げると、チャーリー・1の位置情報をリザから受け取り、頭を下にして一気に落ちて行った。下では3機対1機の攻防戦が行われており、チャーリー・1の周りを2機がコークスクリュー(注2)しながら舞っている状況だ。戦況が有利になったためか、遊び半分で絡んで揶揄っている風にも取れる。

 


「後ろに2機付かれた、振りきれない!」


 レーダーのロック音がコクピット内に断続的に永遠と続く、


 サイドワインダーやスパローを敵機2機が順次発射して来るが、それを何度も避けるチャーリー・1の腕は流石と言う感じだ。機体を左右に揺らしそれを躱そうと必死のチャーリー・1にキャッツ1から入電。


「こちらキャッツ・1、上昇出来るか!?」


「やってみる!」


 チャーリー・1がアフターバーナーを蒸かしエンジンの出力を瞬時に上げる。 機首上げと同時に、後ろを追撃していた1機の翼に幾つもの風穴が空く。アイが落下しながら上空から狙い撃ちしたのだ。そしてその穴はコクピットへ直撃する。残った2機は反転し間合いを取るため大きく旋回、そして体制を立て直し、そのまま正面から突っ込んで来る。すれ違いざまに双方機銃掃射するが、お互いに相手には致命傷は与えられなかった。その後、敵機はそのまま戻って来ず、退散した。


「なんとかやり過ごせたな」


 大きな溜息つくアイ達だが、これで終わりと言う訳では無かった。この後、思いも寄らない展開が待っていたのである。



             ― つづく ―



(注1)ウィングマン

  僚機(wingman)広義には自機と編隊を組む友軍機を指し、

狭義にはその編隊内において指揮官(隊長)が搭乗する長機とペアになる機のこと。



(注2)コークスクリュー

 直進する機体の飛行するルートを「軸」として、周りをバレルロール機動すること。 



(注3)バレルロール

(barrel roll)は、航空機(戦闘機やアクロバット機)が空中で行う機動(マニューバ)の一つ。

横転(ロール)と機首上げ(ピッチアップ)を同時に行うもので、仮想の樽の胴(バレル)をなぞるように螺旋を描くことからその名がある。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る