第10話 要人警護

                         『 中点同盟 参画作品 』 


 TVのニュースでは、フ軍の新部隊の所属が詳しく公表されていた。その詳細は、以下の通りだ。

 6月13日の正午付けで、ブラックフォックス隊、イエロースネーク隊、ブルーシャーク隊は海軍、第7艦隊、第7空母航空団に編入され、ホワイトキャッツ隊は空軍、空挺飛行部隊に所属となり、命令書が発布されたとの事だ。


 そして、Y国のウェイツで国際テロ対策会議が3日後に控えていた。


 この国際テロ対策会議にアトラン国の大統領も出席する事になっていた。世界中から40か国の国の首脳が集まる。今回の作戦は、正にそれに合わせて計画されたと考えるのが正しいだろう。


 だが、事はそう穏やかには進まない。今回の作戦に勝利したことにより、テロ組織側の怒りの矛先が大統領に向いていたのである。正式に、国際テロ対策会議に向かう大統領機を狙う声明が発表されたのだ。


 その、警護にアイとリザが加わる事となったのだ。



 ジェイの墓の近くのヒーローリー空港、そこに民間機を改造した大統領専用機がハンガーから出されて運航準備を始めていた。食料、飲料の詰め込みと同時に燃料の補給も行われる。


 空軍の大統領専用機は民間機の最新型のボーイング787-8を改造したもので、機体色は通常通りの磁気蒸着塗装となっており、色は淡い水色となっている。


 

 そこから程近いハンガーには、2機のDF-36TX戦闘機が待機されている。日本のF-2戦闘機に似た機体で、ステルス機としては初めてのカナード翼(注1)を装備した機体だ。大統領専用機を護衛する護衛機として今回は任務に参加だ。複座型のその機体にはAIR FOCE(注2)と書かれている。


 そしてこちらも、戦闘時用にサイドワインダー(注3)4本、スパロー(注4)2本、そして増槽タンクを3本追加搭載されているのが見える。


 目的地のウェイツ空港までは約2、400マイル(約3,862km)、東京<->グアム間が約2、500kmなのでそれよりも約1,000km遠いと言う感覚の距離だ。平均的に戦闘機は、機種にもよるが内部タンクの燃料のみだと、4,000km程が航続限界距離だと言われる。万が一途中で会敵した場合燃料が尽きるため、無給油で飛ばそうと言う事だろう。増槽タンク3本で1,600ガロン(注5)の燃料を追加する事で、途中戦闘があっても航続が可能になる。



 以上の経緯を作戦事情も色々と考慮しながら見ていたアイ。ヘルメットを未装着の状態でハンガー脇でボトル形式の水分補給をしていた。リザもその隣で水分補給中である。まだ休憩中とあってか、2人共6連装の小型ミサイルランチャー、175連装40mmガトリングポッドは未装着状態だった。



 空港のロビーでは何処もマスコミで溢れており、軍人や政府関係者が通る度にカメラのフラッシュの光が連続する。その混沌とした状況に気が滅入る。


 ふと、空港ターミナルに続く通路で窓に張り付く幼い少年を見たアイとリザ。不思議そうに見つめる少年に笑顔になり手を振って見せる。それに反応し少年も大きく両手を振り返し大喜びだ。


 アイはヘルメットを被り、腰のダイヤルを回し50m程ゆっくりと上昇して見せた。そして、空中バク転をして見せ、少年にVサインを送ると、少年は目を丸くして燥いでいた。少年へのサービスプレイだったのだろう。


 ところが、歓声と共に通路にメディアが押し寄せ、次々にアイにカメラを向け撮影を始める記者達。アイはそれを見るとゆっくりと着地し、再びハンガー脇の物陰へと隠れた。



「やれやれ。連中の被写体になるのはごめんだな」


 ヘルメットを外すと、アイはそう言って再び水分補給に専念し、リザはさっきの子供にまだ手を振ってる。


「アイ君、子供には優しいのね」


「リザ、どうでもいいけど、トイレは大丈夫か? 4時間は休憩なしと思った方がいい・・・」


「りょうかい!」


 握り拳から親指を立て、大丈夫とハンドサインを送る。だが、呑気な態度のリザに、どうもアイは調子が出ない。リザがジェイに思いを寄せていたと判り、それが気掛かりとなって、どうもやり取りにぎこち無さが出て来ているためだと、アイは気付いていた。



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 米国空軍においてエアフォースワンと言うコールネーム(注6)があるのは映画にもなる程有名な話だ。そのコールネーム自体は任期期間中のしている機に付けられる名で、大統領専用機だとか輸送機だとかは本来関係ないのが運用上のルールだ。


 また、副大統領の場合は、エアフォースツーのコールネームが使われる。この国においても同じコールネームが使われている。


「こちら、管制塔グランドコントロール。 エアフォースワン、チャーリー・1、チャーリー・2、離陸を許可する」


 平行した2本の滑走路、通常時は離陸用と着陸用に使用しているのだが、本日は大統領専用機離陸に伴い滑走路は2本とも現在は封鎖中だ。そのA滑走路に専用機、B滑走路には護衛機2機が横1列に並んでいる。管制官からの許可により3機とも滑走を始める。


 護衛機2機が速度を専用機の速度に合わせて滑走する。専用機の機体が少しずつ浮き出すと護衛機もそれに合わせて浮上、そして、3機は大きく左に旋回後に専用機の右舷後方、左舷後方へと護衛機がピタリと就いた。そして、3機の高度が安定しだした頃に上空よりホワイトキャッツ隊が2名降りて来た。アイ達だ。


 速度は800km/h、ホワイトキャッツ隊はD・F隊の中でも唯一高速飛行が可能なのである。2人は護衛機の外側にそれぞれ就いて5機V字編隊Vic formationを完成させた。


 護衛機の長機のパイロットがコクピットから辺りを見渡し、目視しようとしている姿がキャノピー越しに映る。コクピットには後方確認のミラーが3枚ついている。それに空飛ぶ白い人間を見つけると、パイロットの顔が笑顔になった。



「こちら、エアフォースワン。 ようこそ! キャッツの諸君」


 先頭を飛行する大統領専用機の機長から無線が入った。アイとリザは思わず手を振って答えるが、大統領専用機からそれが確認できたかと言うと、無理と思われる。





 そして、ゆったりとした遊覧が小一時間程経過した。これで、敵が来なければを楽しい旅行気分を味わえたのだが、そうはいかぬようだ。


 キャッツ1のレーダーに機影が映り出す。ホワイトキャッツの装備しているレーダーは、通常の航空機や戦闘機よりも2倍弱の感度を持つレーダーを装備している。感度を上げるとノイズを拾いやすくなるのだが、その除去を最新のコンピュータ処理で除去している。


 機影の数は4機、1機の大きさは約20m、識別信号なし、1224km/hマッハ1でまっすぐこちらに向かって来る様子は明らかに敵機だ。アイはエアフォースワンとチャーリー・1に連携する。



「こちら、キャッツ・1、機影を4機捉えた。 多分敵機だ。10分で交戦エンゲージ!」


「此方は機動性の関係で、ヒット・アンド・アウェイ(注7)戦法になる事を了承願いたい」


「了解」


「「「「全機! BREAK散開!」」」」


 その掛け声と共に護衛機2機は左右に散開、大統領専用機、アイとリザは上昇した。



             ― つづく ―



(注1)カナード翼(先尾翼)

   機体の不安定な動きを制御する役目がある。

   カナード翼は強度を考えると金属製部品となり、

   ステルス性が失われるとのことでこれまで敬遠されていた傾向がある。


(注2)NAVY(ネイビー)は海軍機、ARMY(アーミー)は陸軍機、

AIR FOCE(エアフォース)は空軍機、

MARINE CORPS(マリーンコープス)海兵隊

となっている。


(注3)サイドワインダー(AIM-9)

短距離空対空ミサイル(赤外線誘導方式)


(注4)スパロー(AIM-7)

中射程空対空ミサイル(レーダー誘導方式)


(注5)ガロン

 体積の単位 1ガロン=3.785 412リットル


(注6)各部隊別、大統領搭乗時コールサイン

  ネイビーワン:海軍機

  アーミーワン:陸軍機

  エアフォースワン:空軍機

  マリーンワン:海兵隊機

  コーストガードワン:沿岸警備隊機

  エグゼクティブワン:民間機


(注7)ヒット・アンド・アウェイ

 有効射程と索敵能力の許す限り遠くから攻撃を仕掛け、即座に撤退する戦術。

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