第8話 戦いの後

                         『 中点同盟 参画作品 』 


 ジャクソンが指揮する作戦会議室。部屋の明かりを落とし中央に水平に配置されたモニター。それを作戦台として上空からの地形図と各分隊の識別信号が青色で示されている。それがリアルタイムに動く様子から、全分隊のデータがオンライン処理で集約されているのが判る。


 標的目標である敵基地はT1~T7で示されている。全隊の個別識別を中央で行っているため、敵味方信号もここから発信している。


 しかしながら、作戦の指揮のため全分隊のデータをネットワークリンケージしているが、ネットワークに接続できない状況下にある隊は情報共有が出来ない。


「13分隊からの連絡が途絶えただと?」


「はい、15分隊全滅連絡があり、その後ケージ内侵入の入電直後です」


「やられていなければいいがな」


 自分に対して悪態をつくアイは、ジャクソンにとって鬱陶しい存在な訳だ。でも、出来の悪い者程なんとかと言うではないか、何処かで彼を贔屓目に見ているのかも知れない。


 彼らが位置する筈のT3ポイント、依然と13分隊の個別識別信号は現れない。


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 セキュリティルーム内には恐らくメインフレーム(注1)が置かれていたのであろう。ガトリング弾を撃ち込んで火災が発生しなかったのは、不活性ガス消火設備が備わっていたものと思われる。しかも、酸素濃度低下させるタイプで3分以内に退避が必要な程、人体には非常に危険は代物。アイはこれを想定して、直ぐに引き上げたと思われる。


「現時刻2200ふたふたまるまる。 リザ達はまだ戻って来ないな」


 腕時計を見ながら考え込むアイ。暗闇の中、出入口の真下を確保する彼らはそこを動くことは出来ない。待っている6人が戻ってきても出口を塞がられると脱出できなくなる。それは是が非でも避けたいからだ。


 ヘルメットをコンコンと何度も小突くアッシュ。通信機の不調に苛立っているようだ。


「隊長、またです。 ケージのせいでしょうか? 無線もネットも役に立ちませんね」


「そのためのケージだと思えば腹も立たんさ」


「でも、このままじゃ敵味方識別信号が使えないです」


 確かにアッシュの言う通りだ。ネットワークへの接続が出来ない今、味方の識別信号を確認する手段がない。こんな時に味方同士が鉢合わせして銃撃戦になるのは最悪だ。これは、何でも彼んでも中央で管理しようとする、体制の欠陥とも言うべき事案だろう。改善の余地はありそうだ。

 

「隊長! 9時の方向に敵です。 こちらに向かってます」

「センサーが調子悪くて、人数は不明」

 

 敵は此方の動きは把握済だろう。しかし、この暗闇をどれ程克服出来るかで、勝敗は決まる筈だ。マップがサーモグラフィの映像キャッチしたが、アイ達に転送しようにも、ネットワークが繋がらないためデータ共有は難しそうだ。後は、各々のサーモグラフィで判断するしかない。


「よし、俺が行こう! ベンとマップはこの場を死守。 アッシュは援護を頼む」


 アイは立ち上がると、廊下の左側に張り付き、暗視スコープを確認しながらゆっくりと敵兵を迎え撃ちに行く。その後をアッシュが続いた。


 左右に分かれる分岐に差し掛かろうとした時だ。アイはその場にそっと腰を落とし、そして、ガトリングポッドを水平に構え先端を左に向ける。暗視スコープである程度は目視出来ているが、可視距離は2mもないため様子を伺う。近づく足音で、距離を測る。駆けて来るは数名なのが判る。


 隣で中腰に構えるアッシュに手招きの合図を送ると、2人は飛び出す。アイは腹ばいの状態から、アッシュは中腰で壁影から乗り出すと一斉に掃射した。唸りを上げるガトリングポッドから、赤い閃光が連続で発射され暗闇に吸い込まれて消えて行く。先頭集団はその攻撃に呑まれ、もはや跡形もない程吹っ飛ぶ。後衛の兵はさっと左右に散ると、姿勢を低くし左右より反撃の発砲をする。


 5.56mm口径の高速弾だ、それがアイの左肩に命中、痛みを耐える顔面には溢れるばかりの汗が流れる。敵兵の足元には無数の薬莢が転がり、その跳ねる音が鳴り響く。弾を撃ち尽くし、掃射音が無くなると、今度はマガジンを交換する音。第2掃射が来る。


 再び左の壁影に隠れるアイとアッシュ。ハァハァと息切れを起こしながらも壁に張り付いたまま再び様子を伺う。そこから一息も付かぬ間に、アイはガトリング弾の交換を行う。彼は先陣を切って突入しているので、一番多く弾を消費している。だが、まだ弾は十分残っていた筈だ。アッシュは隣で思わず関心する。


「それ、特殊部隊が良く使う方法(注2)ですね」


「良く知っているな」


「自分も銃マニアですからね」


 アッシュの銃マニアと言う言葉に笑みを溢す。実は、あのベレッタM92をベルトの後ろに挟んでいた時点でアイはそれに気付いていたのだから。


「もう1度行くぞ! アッシュは左、俺は右だ!!」


 2人顔を合わせて頷き、それを合図に一気に飛び出すと、それぞれ左右の標的にガトリングポッドの銃撃を開始した。敵兵と共に壁がなくなり、爆炎で火災が発生するが、EMP攻撃の影響で消火設備は働かない。煙で視界がどんどん悪くなっていく。


 火災による炎と煙と熱気が原因でサーモグラフィの熱源の識別が不可能になって来ている。敵の銃撃が静かになったと思った途端、今度は左背後にもサーモグラフィの反応が・・・ アッシュはとっさに背後へガトリングポッド向けた。


「待て!」アイがその前を遮って叫んだ。


 その言葉と同時に、アッシュは引き金に当てた人差し指から力を緩める。リザ達だった。後少しタイミングが遅れたら、ガトリング弾は発射されていたかも知れない。また、銃口を向けた相手がアイだと分かったリザ達も驚いたに違いない。


 ホワイトキャッツ新人の一人が足に銃撃を受けて負傷していたが、弾は貫通しており深手には至っていない。他の者達も全員無事だ。


 一気に緊張の糸が切れたのか、アッシュが大きな溜息を出し、その場に座り込んでしまった。


「持ち場を離れて、ごめんなさい」


「と、兎に角、無事で良かった、直ぐに引き上げるぞ!」

 

 一人一人背中をタッチして皆を出口に向かわせる。そこでアイは座り込んだままのアッシュに気が付いた。腹部から結構な量の出血がある。それは最後の銃撃戦の時のものだと判った。


「隊長、済みません、腹に1発喰らいました」


「大丈夫か? 動けるか?」


「は、はい、なんとか・・」


「肩を貸せ!」


「す、済みません」


 アッシュの呼吸は荒いが、自力呼吸が出来ているのでそう深刻な状態にはまだ陥っていない。地下ケージ出入口からは煙が上がって来ていた。


  

+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+



 第13分隊は、丘陵の陰へと来ていた。アッシュをそっと横にすると、リザが痛み止めのモルヒネを用意した。だが、アッシュはそれを断った。


「意識が飛んだら、自力でヘリに乗れないだろ」


「でも、弾を摘出しないと」


「それなら、隊長も左腕に喰らってる・・」


 アッシュがアイの受けた銃弾のことを言うと、リザは直ぐにアイを見る。


「ちょっと見せて!」


「敵は西側の銃を使っていた。 恐らく弾もそのままフルメタルジャケット弾(注3)を使用している」


「じゃあ?」


「ああ、ヘリに乗ってからやってくれ・・」


 アイは笑顔で頷く。ヘルメットのバイザー内のデータは復活している。ネットからのデータで画面内が埋まっているのを確認すると、実に満足げだ。


「こちらM隊! ファラデーケージ内でのEMP攻撃に成功。 メインフレームの機能を奪う事に成功した」


「こちら本部ジュークボックス。 M隊? 悪いがフォネティックコード(注4)使ってくれないか?」


 アイの顔が渋くれた。なんで?と言う様な顔をする。


「こちらマイク隊! ファラデーケージ内のメインフレーム機能を破壊した」


 すると、無線の向こう側で冷笑う声がする。


「済まない! 今のは冗談だ! 作戦成功おめでとう! 無事の帰投願う!」


 わが軍では、作戦コンプリート時は冗談が許されている。まさか、ここで返されるとは思っても見なかったが、第13分隊全員清々しい顔をしていた。




 出撃数

 輸送機4機、攻撃機6機


 帰還数

 輸送機3機 攻撃機4機


 損失

 第15、第17、第18分隊が全滅。負傷兵23名、戦死者38名



 今回の作戦としては、それなりに被害は大きいものであった。


 戦果

 T2、T4ポイントを除くT1~T7の5カ所にて作戦は成功した。



             ― つづく ―



(注1)大型コンピュータを指す用語


(注2)タクティカルリロードと言う。弾倉が空にならないうちに次の弾倉に交換する事。特殊部隊が良く使う方法だ。

   メリットとしては下記3点がある。

    1.チャンバー内に弾が残っているので、コッキング状態の継続

    2.残弾がフルになる事。

    3.敵に残弾数を誤認識させられる。


(注3)弾頭を真鍮や銅等で覆い、体内での変形による、

   必要以上に深手を負わせない弾。

    ハーグ陸戦条約で戦争時はフルメタルジャケット弾を通常弾としている。


(注4)フォネティックコード

   NATO同盟国の海軍同士で使用するために規定されたコード。

   現在は一般無線でも使用される。

   AはAlfa(アルファ)、BはBravo(ブラボー)、CはCharlie(チャーリー)

   等とする。

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