第7話 カムフラージュ

                         『 中点同盟 参画作品 』 


 満月の夜と言うのもあり、月が出ているとかなり明るいのだが、雲が月を覆うと途端に闇となる。月明りが頼りの闇の中を、1列になって滑空する13分隊の10人。昼間の灼熱が嘘のように温度が下がる夜の砂漠帯だ。その夜を狙って行動する生き物も数多い。


 D.F隊は標準機能である暗視スコープを使っているため、ヘルメット内のモニターに映る景色は意外と明るい。そこにブラックフォックスがスキャンした断層データが合成され敵基地までの進路が淡い赤色で表示されている。


 パシュウ!パシュウ!パンッパパーン! 


 空に打ちあがった灯火、彼らの為に花火を放ったのではなさそうだ。上空を丸く照らす光が、煙の筋を引きながらゆっくりと風下に流れていく。照明弾だ。更に、サーチライトが2基展開した。目標をまだ掴めていないため、まだ水平にしか向けられていない。


 基地まで後50m程手前の丘陵の陰に入るとそこで動きを止める。後ろから追いついてくる他の分隊はまだいない。


「よし、一旦ここで待機だ 」

「どうやら、うちが先頭を確保したようだな 」


 休む間もなく、アイは基地周辺のサーモグラフィ画像を撮り始めた。 


「マップ! 来てくれ!」


「お呼びですか?」


「ホワイトキャッツのLv2サーモグラフィ(注1)では何も反応はないんだ」

「悪いけど、君のLv10サーモグラフィを試してくれないか? 音波の方も確認したい」


「少々お待ちを」


 マップはアームバンドの操作盤に触れ、キーを4度程操作をすると、敵基地方向に顔を向ける。そして、慎重にそのままゆっくりとPAN(注2)する。


 その結果を待つ間、部下達の様子も見る。後ろで安心しきって座り込むリザ達を見てアイが言った。


「お前達、座る前によーく確認したか?」

「この辺りはサソリが多いから注意しろよ、特にクリーム色の奴だ」


 砂地を指差しながらそう言うと、座り込んでいた隊員達はとっさに足元や尻の下を確認している。そのおかげで緊張の場はかなり和んだろう。


 そこへ、後方から追いついた分隊がやって来た。13分隊を見つけると、彼らも丘陵の陰に入る。早速隊長らしき人物が先頭を陣取るアイを見つけた。


「15分隊のバッカスだ。 13分隊か? 随分速い到着だな」


「降りたら後戻り出来ませんし、やる時はやりますよ」


「クラウド曹長、その意気込みだけは買ってやる」

「17、18分隊がメリースリーと共に喰われた。 T4ティーフォーポイントが手薄だからそのつもりでな」


「え!? そんな情報こっちには入ってません!」


「入ってなくても、現実はそうだ!」

「15分隊行くぞ! 前方の建屋を包囲する」


 バッカスのその言葉に、アイが驚く。状況が把握し切れていない今、迂闊に動くのはまずい。情報は出来るだけ収集し判断したいものだ。


「少尉、待ってください! 迂闊過ぎます!」


 アイの言葉など気にせず、サッと丘陵を出るバッカス。他の15分隊の隊員達もそれに続いて出て行った。それに不服そうな表情を見せるアイだが、アイはマップの方が気になっていた。


「マップ、どうだ」


「前方の建屋とその奥の建屋には、反応は見られません。 地下も反応ありません・・・」

「むっ!!」


 マップが何かに反応したのだが、気付いた時には建屋から強烈な光が飛び込んだ。大音響と共に眼前の建屋が大爆発を起こしたのだ。状況からして、トラップが仕掛けられていたようだ。


「トラップか、15分隊、やられたな」

「敵の目はもうこっちを向いていると思っていいな」


 揺らぐ前方の爆炎の中に、先程出て行った15分隊の姿を求めるが、それは叶わない。爆炎の熱を受けながら、次なる作戦を考え出すアイ。万事休すかも知れない。一瞬だがそれが頭をよぎった。


「隊長!」

「僅かですが、音波に反応が・・・ 」

「10時の方向20m先、地下10mの地点です」


「それだぁ!」


 ノイズがあったとする方角を、ヘルメットのズーミング機能で直ぐ様確認する。被弾した1台のトレーラが置かれている。かなりの間放置していそうだが、砂地の真新しいタイヤ痕に違和感を感じない訳がない。アイはニヤリと笑った。


「全員、ヨクを収納しろ!」

「ガトリングポッドはレバー(注3)をSEMIセミでコッキング(注4)!」

「ベン、アッシュ、マップ、行くぞ!」

 

 丘陵の陰から飛び出すと、身を低くして走り出す4人、サーチライトの光を避け、廃トレーラーの下にダイブする。そして転がりながら車台の奥に潜り込んだ。ふと、アッシュが一生懸命手で砂を払い除け出した、何かを見つけたようだ。


「隊長、ハッチがありました」

 

「ベン、EMP弾を装填しろ、使うぞ」


「イエッサッ」


 ベンはガトリングポッドを右肩に掛けると、Dパックのホルダーからショットガンを取り出す。EMP弾の一弾目を装填し、ケーブルをDパックの外部出力に接続。そして、コッキング状態にすると、アイの顔を見た。


「ケージ内はアースは要らないと思う・・・ 多分」


 アイはそう言うと、ベンはそれに恐る恐る頷いた。アッシュが直径1m程のハッチに手を掛けると、アイは叫んだ。


「全員、EMPシールド!」


 勢い良く開けられたハッチに、アイがガトリングポッドの先端を突っ込んだ。そして、ガトリング弾5発を中へ見舞うと、ほぼ同時に振動と共にハッチからは爆炎が上がる。彼らの使用するガトリング弾は、爆裂弾で中に火薬が仕込んであるので、着弾すると発火するのである。たった1弾で戦闘機でも落とせる代物だ。


 もう銃に詳しい読者は気づいているだろうが、ガトリングポッドからは薬莢は出ない。弾を撃ち出すのに火薬は使用していないからだが、ではどうやって40mmの砲弾を打っているかというと、磁力射出機能(注5)を採用しているのだ。


 中からの反撃の様子がない事を確認したアイが、真っ先に中へと突入した。そしてベン、アッシュ、マップと続く。


 中に入ると、明かりは点いておらず非常灯の緑と、火災報知器の赤の光が所々に灯っている。そして、本部とのデータ連携が一瞬にして途切れた。非常用モードに入り、情報セキュリティと警報機能のみが作動している状態なのだろう。モニター内のデータが全て”NO DATA”と表示された。アイには想定内の事態だったにせよ、これは一気に心細くなる事案だ。


 ケージの影響で無線のアンテナゲージは半分以下ではあるものの、使えなくはない。早速、廊下の物陰にしゃがみ込むと、無線を使う。


「こちらM隊」


「M隊か? 良く聞こえている」


「バッカス少尉の隊が建屋の爆発で全滅した」

「それと、こちらは敵のケージ内部の潜入に成功した」

「これより、主要機能の破壊活動に」


 ザ、ザザーーーッ


 耳さわりな音に、頭を振るうアイ。何処まで伝わったか分からないが、その後無線は使えなくなった。そこへ、丘陵に残っていた6名も中に入って来たのだが、取り合えず6名はその場に待機させると、アイ、ベン、アッシュ、マップの4名が通路の左側を伝い奥へと進む。


 そして、4人は前方にセキュリティ付のドアのある部屋を見つけた。暗闇の中、扉のセキュリティーキーの光がぼんやりと白く光っている。マップが右手を広げ、まずは人差指を立てる、続いて開いた手から親指を曲げるとそれを顔面に上げた。中に14人いると言う事だ。頷いたアイは廊下の壁に背中をピタリと付けると、ガトリングポッドを下向きに構える。


 ガトリングポッドの重量は弾倉カートリッジを入れて6.3kgもある。だが、重いから銃口を下に向けたのではない。上に向けた銃口を平行に構えるよりも、下から上げた方が安定して撃てるからだ。


 前方の扉に視線を向けたまま、手元を目視せずにアイはセレクトレバーをFULL AUTOフルオートへと切り替えた。そして、素早く正面を向くと引き金を引いた。ガトリングポッドが狼の低い唸り声の如く唸り、赤い閃光と共に扉と壁にボーリング玉大の大きな穴を次々と開けて行く。壁は紙のように破れ去った。


 それでも、それを躱した敵兵2名が部屋から飛び出して小銃を構えた。ガトリングポッドは重くて嵩張るので、俊敏には対応出来ない。撃ち漏らしたかと思った時、とっさにアッシュが腰からベレッタM92(注6)を抜いた。


 そして、全弾を撃ち尽くすまで引き金を引き続けた。薬莢が次々と床を跳ね、独特の金属音を鳴らす。倒れる黒い軍服姿の敵兵。持っていた小銃は西側のM16A4アサルトライフル(注7)だったが、1発も発射される事は無かった。


「さすが、イタリー製!」


「それより、ベン、EMP弾!」


 アイがその場に屈むと、後ろで構えていたベンが1弾目を発射、青白い閃光がセキュリティルーム内で乱反射した。


 軽いガス爆発のようなボンッと音がすると、一斉に非常灯が落ち真っ暗になる。EMP攻撃は成功したようだ。ガッツポーズをする4人。


 後は非電子武器を持った敵兵がわんさかとやって来る姿が目に浮かぶ。できれば避けたいと言ったところだ。


「よし! 俺達の仕事は終わり、引き上げる!」


 姿勢を低くしながら、後ろ向きに後退りする4人。入って来た出入口には直ぐに辿り着いたのだが、そこには激しい銃撃戦の痕跡があり、待機してる筈だった6人の姿も見えない。アイは立ち尽くした。



             ― つづく ―



(注1)熱戦探知装置のこと、

   ホワイトキャッツ隊はレベル2相当(5mm厚鉛板)、

   ブラックフォックス隊はレベル10相当(20mm厚鉛板)、

   の透視可能なサーモグラフィ(熱戦探知装置)を装備している。


(注2)水平方向の撮影技法を言う。カメラを固定し動く被写体を追う、または静止した被写体をスクロール撮影すること。


(注3)セレクターレバーのこと。銃の発射モードを設定する。

    SAFE   (セーフ)  :安全モード

    SEMI AUTO(セミオート):手動撃ちまたは単発撃ちモード

    FULL AUTO(フルオート):連撃モードのこと。

         ガトリングポッドは1分間に100弾の掃射が可能。


(注4)弾を装填し、撃鉄を起こし、引き金を引けば打てる状態のこと。


(注5)レールガンと同じく強力な磁力を発生させその力によって弾を撃ち出す機能。

   ガトリングポッドは大量の電力が必要なため、Dパックから無線充電されるD.F隊専用の武器。

   装弾数175発。


(注6)ベレッタM92:イタリア・ベレッタ社製、口径9mm、装弾数:15発、ブローバック方式拳銃。


(注7)M16A4アサルトライフル:アーマライト・コルト社製、口径5.56mm、装弾数:20-30発、系列ではM16A1がベトナム戦争で有名だ。

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