第5話  最大規模の作戦

                         『 中点同盟 参画作品 』 


 ホワイトキャッツ隊本部、ブリーフィングルーム・・・


 在籍する全てのあるホワイトキャッツ隊が集められていた。その数総勢は179名。


 部屋一杯に椅子が並べられ、まず前方に横10席×縦10席を配置し、1m程間隔を空けてモニターが配置され、更に横10席×縦8席と席が続く。


 全ての隊員数分がギリギリ配置されていた。そのためか、前方にあった演説台は取り除かれていた。


 これから行われる大きな作戦に向けての作戦会議だ。アイは一番先頭を陣取り、ウキウキした表情で回りを見渡していた。後方に仲間の姿を見ると、元気かの合図を送った。上機嫌である。それには理由があった、何故なら隣にリザが座っているからである。


 事の成り行きは、前回の作戦引き上げ時まで遡る。





 滑走路脇に着陸するホワイト・ワン・・・


 

 そして重い足取りで後部ハッチから乗り込む5人。何か途中で切り上げられた感じの本作戦の終了に、満足感がある訳がない。ヘリの中は外から入ると暗く、目が慣れるまではやや時間が掛かる。その間に待機場所に移動し、そこで、Dパック、ヘルメットを外しに掛かった。


 その時である。5人は銃口を頭に突き付けられているのに気が付いた。暗さに慣れた目は、ライトベージュの軍服を着た兵士達を映していた。腑に落ちぬ顔をする5人。





 ホワイトキャッツ隊本部、取り調べ室・・・


 部屋にはアイとリザが白い拘束着(注1)を着せられ、2人並んで椅子に座らされていた。部屋の明かりは少し明るく設定されているのか、彼女の髪が漆黒である事に気付かされる。食堂では軍帽を被っていたため気付かなかったようだ。こんな事でもなければ、アイが彼女を近くで観察する機会は無かったであろう。そして、その前には白いテーブルを挟んで同色の椅子が2脚用意されていた。そして、一人仏頂面をするのはアイ。お世辞でも機嫌が良いと言えまい。


 1つしか無い出入り口にはライトベージュの軍服を着た兵士が2名、小銃を肩から下げ直立して見張っている。例の軍服を着た兵士と言うのは、ホワイトキャッツ隊の兵士では無い。また、憲兵隊でもない。軍服と階級章から空軍である事は判る。


 そして最悪な事に、この部屋には窓は1つもない。この状況では逃げるのも無理そうだとアイは思案していた。


 暫くすると、部屋の扉が開きジャクソン司令官が副官と共に中に入って来た。部屋にいる見張りがサッと敬礼をするが、それに気を掛けるでもなく、アイの前に移動した。ジャクソンはアイの眉間に右人差し指を付き立てる。


「アイ、まさか・・・ お前が噛んで来るとは思わなかったぞ」


「自分も驚いてますよ。 味方のフェイクとは、考えもしなかった」

「今回の命令者は自分です。 全責任は自分にあります」


 いつか上官として、『全責任は俺が取る』と言うセリフを言いたかったアイ。心の中で言ってやったぞとガッツポーズをしたに違いない。だがジャクソンは、普段は目立たない存在であるアイの、意外性を称えたつもりだったのだ。アイには嫌味にしか受け取られなかったのは、さぞ残念であったろう。

 ジャクソンはアイの前の椅子に腰掛けると足を組んで座った。副官はその横に手を前で組み立ったままだ。


「あぁそうだ、他の3人だが・・・ 安心しろ、一応お咎めなしとなった」


「じゃぁ、リザも解放してくださいよ」


 子供の様なふくれっ面のアイ。ジャクソンとも目を合わせようとしない。上官に対してその様な態度は許されるものではないが、それが彼の唯一の抵抗だったのであろう。


「いや、彼女はそう言う訳にはいかんのだ」


 その言葉に、何故?と言う様な顔をするアイ。何も知らぬ者がそう意気がるものではない。そう思わせる様な冷笑いを見せるジャクソンは、リザの前の椅子に移動した。

 ジャクソンは無言で彼女の目を見つめる。耐えられなくなったリザは、視線を足元に落とす。


「大統領から何か言伝ことづてでも託されていないかと・・」


 そう尋ねるジャクソンに、リザの口角が僅かに動き唾を飲み込んだ。大統領と言うキーワードに引っかかたようだ。だが、俯きながらも精一杯平静を装うが、何処となくソワソワ感を隠せないでいる。

 

「大統領からD.F隊のエンジンに細工をする指示があった筈なんだが?」

「ま、君が喋らなくともいづれ判ることだがな」


 ジャクソン司令の睨みを受け、キリッと眉を吊り上げ、唇を少し噛みしめ、精一杯の気丈さを見せるリザ。それを不安そうな表情で見守るのはアイだ。指令官は明らかに彼女をスパイとして尋問していると感じた。

 

 そこまで知られているのであれば、観念すべきだろう。そう思った彼女は、目を瞑るとゆっくりと頷いた。


「なるほど、それで、実際にエンジンに細工を?」


「いえ、それは未だ・・」


「ホワイトキャッツ隊への入隊は、それが理由と言う訳かね?」


 ジャクソンがアイへ目でサインを送る。解放しない理由はこれだと言わんばかりに、口の端を少し上げる。嘸かしアイは悔しい思いをしたことだろう。彼のへの字に曲がった口がそれを語っている。暫く黙っていたリザは、回答に迷いを見せながらも、ようやく質問以外の事を話し始めた。


「違うわ・・ 私がここに来た目的は、自爆した反乱兵の調査のためで・・ それだけ・・」


「え! ジェ、J(ジェイ)の事か?」 


 アイの思わず口走った言葉にリザが目を泳がす。リザの言うのは、ブラックフォックスを道連れにした、自爆したホワイトキャッツ隊の兵士の事だと言うのは容易に判る。あのボウヤと呼ばれていた、元ジャックベレー隊の兵士が、J(ジェイ)と言う名と言う事だ。


「J(ジェイ)の何を調べている?」


 話からすると、アイとジャクソン司令官の二人はその人物を知っている。だが、ジャクソンが眉根を寄せるのを見たリザは再度沈黙してしまった。それを見てジャクソンに何か閃いた様子が伺えた。


「リザ・ファントマイヤー曹長、1つ提案がある」

「大統領との連絡を今後一切遮断するのであれば、J(ジェイ)の情報提供しても良いぞ?」


「え?」


「悪くない条件だと思うがね。 どうだ?」


「え? ええ・・・」

「そう願いたいところだけど」


 ジャクソンからの予測できない提案に、少々の戸惑いを見せたものの、彼女には断る理由もない。その彼女の快諾に安心したのか、ジャクソンは右手で頭を抱えると、溜口を洩らす。


「実はな」

「近々大きな作戦がある、私も兵達の命を預かっている身だ。 そこでのエンジントラブルは、是が非でも避けたい」

「それも同意したと思っていいかな?」


 リザが隣を見ると、口を大きく開けて唖然としたアイが見える。その視線を一旦外し、リザは再度頷く、否、2度頷いた。ジャクソンは立ち上がると。直ぐ様、出入口に向かおうとしたのだが、見張りの兵の前で上半身のみ振り返えった。


「J(ジェイ)の件については、これ以上の独自の詮索は止めてくれ。 あまり噂にはしたくない事案でね」

「では・・ リザ曹長の身柄はアイ・クラウド曹長預かりとし、2人は解放する。 以上だ」


 ジャクソンが2人の見張りに合図を送ると、アイとリザの拘束着を外すため、鍵の解除を始める。それを確認したジャクソンは部屋を出て、アイに聞こえるような声で言った。


「アイ、リザ曹長の保護観察よろしくな!」


「ええっ! そういう事?」


 頭を掻きむしりながら、アイは顔を赤らめていた。矜恃も大事だが、部下への指導も大事だと司令官は言いたいのだと、アイはそう悟ったのである。




 そして今・・・




 司令官のジャクソンが演説台に現れると、何処からとなく威勢の良い掛け声がかかる。


「敬礼!」


 ザザッ・・


 一人の兵士の叫び声で、兵士達は一斉に立ち上がり、右ひじを肩の高さに上げ手のひらを少し外側に向け、人差し指と中指をこめかみに当てる。そして、司令官の返礼。


「諸君、ご苦労!」


 ジャクソンは右手にマイクを持つと最前面のモニターの前に立ち塞がった。D.F隊ディセントフォースの結成以来最大規模の作戦が展開される。



             ― つづく ―




(注1)丈夫な生地で作られた両腕を後ろに固定する上着

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