第3話 ミッション

                         『 中点同盟 参画作品 』 


 ホワイトキャッツ隊本部、ブリーフィングルーム・・・


 約半数の兵士が反乱を起こし、討伐された経緯のあるホワイトキャッツ隊。それでも、隊員は200名近く在籍している。


 ブリーフィングルームの前方には演説台が置かれ、その前には兵士が座るであろう椅子が50席設けられていた。横8席×縦6席、その後ろに2席並ぶ。


 今回の作戦で集められたのは40名。隊員達はダークネイビーの軍服を着用していた。この作戦会議の選出基準は不明だが、参加者はある程度絞ったのであろう。でないと、ホワイトキャッツ隊全員着席できない。

 

 招集された隊員達が思い思いに席に座ると、若干の空席が所々に出来る。



 I(アイ)は50席設けられた中段右側の席に着席した。周りには食堂で行動を共にしていた仲間達の姿もチラホラ見える。そして彼はあの女性を探していた・・・



 居た・・!


 丁度彼の5席間を置いて左に座っている。アイは目だけ動かし、横目で恐る恐る何度も確認する。他の新兵が居たのかどうかは不明であるが、そんな事はどうでも良かった。今は、気になるのは彼女一人である。


 招集された全員が着席する頃合いを計って、司令官のジャクソンが演説台に現れた。


「敬礼!」


 ザザッ・・


 一人の兵士の叫び声で、兵士達は一斉に立ち上がり、右ひじを肩の高さに上げ手のひらを少し外側に向けると、人差し指と中指をこめかみに当てる。そのまま幾秒か静止し、先程までの雰囲気とは明らかに空気が変わった。


「諸君、ご苦労!」


 ジャクソン司令官は右手を軽くこめかみに当て答礼をする。それを合図に、兵士達は一斉に着席した。


 ザッ・


 そこで、少しザワついた雰囲気になるが、部屋の明かりが少し落とされると、それはやがて鎮静化する。次に、後方の壁全体が下部に移動していき、背後に巨大なモニターが現れ、画面に明かりが灯る。初期表示用に、ホワイトキャッツ隊のシンボル、ネコの横顔シルエットが画面いっぱいに表示された。ジャクソン司令官はモニターの端へと移動する。


「復帰後初の作戦だな、皆、心を引き締めてくれ・・・」


「この度、我が海軍の海兵隊が捕虜奪還作戦を実行することになった」

「救出する捕虜は4名だ」


「・・敵基地内にはステルス型攻撃機5機が確認されている。 3機が運用中、2機は保守パーツ用でノンアクティブ飛行不可能だ」


 司令官の説明と連動し、壁面の画面にはCGによる地形断面図が展開した。目標地点を中心に上空視点で360度回転後、基地内部がズームアップされた。ターゲットの基地周辺を含めて、透視化映像はリアルタイムレンダリング(注1)で作成されており、可視化し易いようにポリゴン(注2)の陰面処理(注3)は省略してある。


「海兵隊は南西の海上にNBAー400潜水艇で南西の海中から接近する」

「作戦には7名の海兵隊員が参加する。 上陸後速やかに基地内に潜入予定だ」


 画面では赤い矢印が海上から上陸する地形へと伸び、上陸後の侵入経路を更に進む映像が示される。捕虜投獄地点に赤い×印が数秒点滅した。


「ホワイトキャッツ隊はその前に、敵基地にEMP弾(注4)攻撃を仕掛ける」

「参加人数はこちらは5名だ。 敵基地上空まではヘリで接近し、レーダ捕捉を回避するため上空40,000フィート(約12,000m)から10m間隔で降下する。 敵基地の北東側に降下後攻撃を加えろ」

「EMP弾は着弾と同時に発砲パルス発生するタイプEE1を使用する。 間違ってもEMPシールドを忘れるな、動けなくなる」


 ホワイトキャッツ隊の進路は青い矢印で表示され、画面右上から伸びると降下場所で×印が点滅。


「電子機器が無効になったところで、海兵隊が上陸を開始する。 捕虜救出後、速やかに潜水艇に収納・脱出する手筈だ」


 映像を見ながら説明する司令官は、ここまで説明すると、部下達に振り返った。サングラスが少しずれ落ち、その表情は少し陰りがある風にも見える。サングラスのブリッジを人差し指で支え、ズレを戻すと少し間を置いて口を開いた。


「だが・・・」


「EMP弾攻撃を回避した電子機器、電子機器を使用しない武器の存在も否定できない」

「また、北40kmの地点に別基地があり、そこからステルス型攻撃機2機が4分以内に到着する」


 今度はオレンジ色の矢印が上部から一気に基地に辿り着き、交戦想定地で少し大きめの×印となって点滅した。ジャクソン司令はその点滅点を見つめると、暫く考え込む仕草をしている。通常の作戦ではないと言う事か?


「本題はここからだ・・・」

「敵の気を引くべく、出来るだけ密集し上空へスナップアップ急上昇しろ」

「高度40,000フィート(約12,000m)まで引き付けたら、散開だ」

「D.F隊回収はオー地点で行う」


 画面の青い矢印が90度まがり上空へ伸び、最後に四方へ散開した。その後、矢印が集まりO地点に集結した。敵を引き付ける囮作戦に一瞬ざわつく室内。その冷めた空気の影響か、あまり良い顔をする者はいない。


「本作戦は、最小単位での行動が要となる。 規模拡大は想定していない。 以上だ」

「命令コードはメンバーが決まり次第知らせる」


「この作戦への参画者は希望者を募ることにした・・・」

「希望者は挙手されたい」


 モニターは下から上がる壁で次第に隠されて行く。と同時に部屋が明るくなるが、挙手する者はまだいない。中には挙手を迷っている者も何人かいるようである。アイもその一人だった。彼は周りをキョロキョロと見渡し何か落ち着かない様子だ。


 なんとなくこの作戦にあの彼女が参画するのではないかと、アイは予想していた。その間にも、後方部で3名の兵士が挙手する。残り2名を待つ間、アイは神妙な面持ちであの彼女を眺めていた。その彼女の右手がゆっくりと挙がった。他に挙手する者はいない・・・後一人枠・・・思わずアイは手を挙げていた。


 ブリーフィング解散後、部屋を出たジャクソン司令は、サングラスのブリッジを人差し指で支え少し冷笑したかに見えた。


+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+


 真っ青な空に眩しい太陽、昼間の作戦とは言え穏やか過ぎる。ここは大西洋洋上、高度40,000フィート(約12,000m)の上空。その下には雨雲らしき黒い雲の塊が敷き詰められていた。その下は嵐らしい。


 1機の大型ジェットヘリが飛行中だ。機内にはホワイトキャッツ隊が5人搭乗しており、装備、ヘルメットは装着済でフォール準備完了状態である。


 各隊員の装備しているヘルメットのシールド内部には、モニター機能が備わっている。現在ヘリと本部とは無線接続中で、その内容は音声と映像で全隊員にも送られている。


「こちらホワイト・ワン了解した」


「では本部より命令コードを連携する!」


「ロベルト・アーニィ、キャッツ・ファイブ

「はいっ」


 名前が呼ばれると、本部とデータ連携が行われるようだ。ヘルメット内部のモニターに、作戦情報と部隊情報が表示される。返答をするのは音声データを最新に更新するためだ。

 ヘルメットの内部では網膜のスキャンと両手の装具内での指紋を自動スキャンする音も聞こえる。そして、個人データは最新に更新され、コールネームと個人データの紐付け作業は完了する。


 ヘルメット内部のモニターの中央に顔写真が表示された。その右横に点と線で構成された全身立体映像、更に右横に属性値(性別、名前、身長、体重、階級、褒賞・懲罰歴)が表示される。


「リザ・ファントマイヤー、キャッツ・フォー

「はい」


 アイの気になる彼女がの名が呼ばれた。モニターには彼女の顔写真、そして全身立体映像がゆっくり回転しながら表示される。その右横には属性値が順次表示される。それに興味深く目を通すアイ。

 彼女の名前はおろか3サイズまで判ってしまう。夢中で彼女のデータを読み取るが追いつく前に次のデータが来る。


「アッシュ・グラマン、キャッツ・スリー

「はっ」


「ベン・ホーキンス、キャッツ・ツー

「イエッサッ」


 次々にデータ連携されて行く隊員達。その度にシールド内のモニターにデータが表示される。 


「次、アイ・クラウド・・・ キャッツ・リーダー」


 コールネームにリーダーが付与されるのは、隊長のみである事は容易に想像出来る。アイの心の中では己が、隊長として任命された事の驚きと嬉しさが同時に込み上げてくる。意識して平常を装おうとするのだが、小さくガッツポーズする自分がおり、返答に少し間が空いた。


「アイ・クラウド・・・ 返事が聞こえない」


「あ、はいっ」


 本部からの淡々とした事務的な再コールにより、慌てて返答をするアイ。頼りない所を見せてしまったかと、リザを見るが特に様子は変わらない。


 作戦開始まではまだ20分程あった。5人は個々に作戦内容のVTRを確認する等してその時を待った。



- つづく -




(注1)逐次コンピュータで計算されて作られた立体物映像

(注2)多面体の事

(注3)肉眼で隠れていて見えない部分をCG上見えなくする事

(注4)Dパックの核を使った電磁パルス波を発生させる有線型クラスター弾

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