第2話 索敵青年

                         『 中点同盟 参画作品 』 


 ホワイトキャッツ隊本部・・・


 幽閉されていたホワイトキャッツ残部隊は「副官から連絡があった当日中に開放された。半年間と言う長期間の幽閉にストレスの発散を目指す隊員達。


 人間の三大欲望とは「良く食欲・睡眠欲・性欲と言われている。この内「監房で望めないのは食欲と性欲だろう。言うまでもなく「性欲を満たしたい者は基地近くの遊女を求めて早々に出かけて行った。


 案の定「基地内の食堂はフル回転状態で「談笑しながら食事を楽しむ光景があちらこちらで伺えた。


「おおっ! やっぱ「肉だぜ「肉とビール!」


 筋肉隆々たる兵士が4人集まり肉とビールを貪るシーンは「まるでCMでも観ているかの様で豪快だ。


「お前らなぁ「野菜も喰えよってんだ「ったく・・・栄養のバランスってものがあるんだから・・・」

「檻房の飯のことを思えば「野菜だって美味いでしょうに・・・」


 その隣に1人座る小柄で中肉中背の眼鏡は「浮かない顔をしてさっきからボヤき倒している。


「おいI(アイ)!」

「冗談きついな「檻房の飯ならまだ戦闘食の方がましだぞ」


「残念でした「あの不味さでも「カロリー・栄養素の計算はしてます」

「戦闘食なんて「1枚800キロカロリーで主成分タンパク質のみ・・・何が1日分の栄養素だ・・・詐欺だよ・・・」


 なんでも分析するのが好きそうな「I(アイ)と呼ばれる青年。一見オタクと思わしき風貌と相まって「作戦では索敵部隊に所属する。結構「研究熱心な青年だが「そのせいか25歳で彼女いない歴は25年だ。


「お前ねぇ「数値で物事決めるの止めた方がいいぞ・・・」

「それだから「女が寄り付かないんだよ・・・」


「言わせて貰いますが「カップルがゴールする確率は40%「そのうち一人目の彼女でゴール出来る人は更に20%・・・」

「相手が出来ても「ゴールするには難しいって事でしょ・・・」

 

 本当か嘘か不明だが「彼の分析論は仲間内でもかなり不評だ。しかし時には作戦時に有意義なデータとなる事もある。だからと言う訳ではないが「仲間は出来る。確かに彼女ができないのは否定しない。ふくれっ面になると「何気なく厨房へと目をやる彼・・・


 厨房前で列を作る5人を見て「お得意の索敵中であった。暫くすると「早速疑問が湧きだす。



 新入りかな・・・?


 5人は見かけない顔ブレで「内一人は髪をショートにした女性だ。テキパキとトレイに皿を載せ「食事を皿に盛るとこちらに向かって来るのが見えた。I(アイ)は目を反らすフリをする。が「全神経は集中している。そこへ「何かが床に転がったのだから「見逃しはしない。


 

 うん? なんだ・・・?


 拾い上げて見つめるI(アイ)「食堂の調光に照らしてみる・・・白い1cm程のオブジェ「それがピアスに加工してあった。それの観察に夢中になっていると。突然声が掛かった。


「ちょっと「何してんの? 返してよ?」


 さっきのショートの女性だ。I(アイ)の手からそれを奪うと「一番奥まったテーブルに着いた。そして「さっきのピアスを右に取り付ける仕草が目に入った。それを何気なく見つめる。左側のピアスはつけていないのを確認した。



 ・・・なんで「怒られるんだ・・・うん・・・? 


「ヒックス「お前ピアスの事詳しいよな? 右ピアスはだっけ?」


「馬鹿「それは男の場合でだよ!」

「・・・I(アイ)「お前「あの女に惚れたか?」


 そう言うと「それをネタに野郎共4人でまた盛り上がる。I(アイ)の事となるとネタは尽きないらしい。

 

 ・・・勝手に言ってろ

 ふ~ん・・・じゃ「右ピアスは女は関係なしか・・・


 I(アイ)と女兵士はその後顔を合わす事はなかったが「妙に彼女の事が気掛かりとなっていた。同じ隊にいるので「いずれ再会することは必至なので「慌てる必要はないと思っていた。


+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+


 コンッコンッコンッ・・・

 

 ホワイトキャッツ司令官の執務室がノックされた。中ではジャクソン司令官が書類のチェック中だった。


「入れ!」


 ドアがゆっくりと開くと「忍び入って来たのは副官だ。

 

「実は司令「次に反乱あれば「D.F隊を自爆させると言ったとの噂を小耳に挟みましたが・・・」


 副官は他の者に聞かれまいと「恐る恐る司令の耳元で囁いた。


「ああ「あれか? 奴らの武骨な顔が観たくてな「脅しただけだ・・・それより君の小耳機能は敵に回したくないものだな・・・」


 司令のその返答を聞いていたのか否か「分厚いA3判の封筒を抱え「なんだかスクープを見つけた記者の様に「副官の顔が笑っている。司令官席の前に座ると「その封筒を差し出した。

 

「それと・・・お見せした資料が出てまいりました」

 

「殉職されたブリングス少将は「ガン・クラウス・ユーナー社の株を40%保有していました」

「そして「大統領夫人が「ユリス・カイザル社の株を45%保有」


「・・・どうです? 何か気付きませんか?」


 そう言ってジャクソンに流し目をよこす副官。封筒の中から資料を取り出し開くと「その資料に目を通す。ジャクソンはそれを見ながら唸った。 


「どちらも「D.F隊のエンジン候補に上がったメーカーだな」

「ユーナー社はDパック・・・カイザル社はアモルファスエンジン・・・」

「どちらか一択だった・・・」


「結局はブリングス少将の推しが利いて「ユーナー社に決まったそうです」


「互いに私欲に目が眩み「メリットばかり追い続けたか・・・? 馬鹿げているな・・・」


 ジャクソンは更に資料を捲り「読み漁るが「その読み加減を予測しながら副官が説明を都度入れる様子は。


「ブリングス少将は過去にも6回「新兵器開発でユーナー社へ便宜を図っています」


「ユーナー社とはズブズブの関係って訳だな」


「しかも「カイザル社のアモルファスエンジン不採用に大統領が激怒したとの事です・・・」


 ジャクソンは顔を一旦上げると「サングラスのブリッジを人差し指で支え「ズレを戻す。彼のお決まりのポーズ。そして「宙を見て何やら考え事をしていた。


「すると「前回煮え湯を飲まされた大統領としては「D.F隊のエンジンをカイザル社の非核エンジンに替えたい訳だ・・・」


「反乱兵が自爆して「討伐隊と共にブリングス少将は殉職・・・」

「スパイを送り込んで「作戦遂行中にエンジンが故障でもすれば・・・」

「エンジン差し替えの話が挙がらなくもない・・・」


「どれ・・・ニース副官「奴らに鎌を掛けてみるとするか・・・」


 サングラスのブリッジを人差し指で支え「ズレを戻す。ジャクソン司令の細まった目がキラリと輝いた。



- つづく -

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