ディセントフォース
影武者
第1話 再始動
『 中点同盟 参画作品 』
「
「勘違いしてもらっては困ります。もう結論ありきなのですよ」
「では、D.F隊は、ホワイトキャッツ隊以外は3部隊を統合し、大統領権限直下に・・・ホワイトキャッツ隊は参謀本部直下で運用する。ご賛同頂けますね? 大統領・・・」
山岳別荘地にある一見普通に映る施設。周りには3階建て以上の建物は全く無い。ここは普段はあまり使用される事のない隠れ軍施設で、会議室では軍上層部と思われる年配陣達が8つの頭を連ねて問答していた。長い会議が必ずしも有意義かと言えばそうでもないのだが、会議は終了予定時刻をかなり超過していた。
大統領と呼ばれた白髪交じりの男は、何やら不服そうな顔をしている。
「参謀総長・・・」
「で? 残った
「大統領・・・その件については新司令官がご説明を・・・」
「ジャクソン君・・・」
参謀総長が大統領に経緯を説明すべく、ホワイトキャッツ新司令官の名を呼んだのだが、大統領が怒声を被せて来た。
「そもそも論として、D.F隊は大量殺戮・破壊兵器としてではなく、ピンポイントの軍事施設破壊がコンセプトだ!」
「エンジンに核を使用しているなど、あわよくば、人間核爆弾にでもするつもりかね? そうなると、これはもうテロ行為の何者でもない!」
大統領の言葉通り、世界を破滅させる恐れのある核を使わない兵器として導入された経緯があるD.F隊。昨年に平行導入されたEMP兵器(注1)と共に、大量殺戮は目的としない部隊として発足。敵国の軍事力無力化の一環として、新たな抑止力の地位を築こうとしている。
彼の怒声を聞きながら、若い将校が資料を片手に大統領の向いに立ち、大統領が話し終えるのを待っている。
その者は、面長の顔にパイロットサングラス、ロン毛、と言う出で立ちで、若いと言ってもアラフォー世代。他の要人達が年齢を重ね過ぎていると言ってもいい。
「では、よろしいですか?」
割って入って来た大統領の話を無視するかに見える若い将校の対応。そして彼はメンバーに睨みを利かせ、自身の発言の場であることを悟らせようとしていた。
「ホワイトキャッツ新司令、ジャクソン・ニエス・テチスです」
「エンジンの話題が出ましたので、ご説明を・・・」
「エンジンには、拡散核分裂併用型の高オメガ核融合を使用しておりますが、プラズマを完全シール(密閉)したダーク方式(注2)が採用され・・・」
「待て待て、そんな事が聞きたいのではない、今、
ドンッ!
大統領の言葉に、テーブルを激しく殴打する音が響く。ジャクソンだ。サングラスのブリッジを人差し指で支え、ズレを戻しながら大統領を睨みつけた。大統領の言葉に聞き捨てならぬ言葉が存在したからだ。
「失礼ですが大統領、ホワイトキャッツ隊を
大統領に噛み付くジャクソンに一瞬凍り付いた場。呆気に取られていた老将達は暫く返す言葉もない。
「まぁまぁ落ち着いて・・・」
「ジャクソン君、続け給え・・・」
大統領補佐官が額の汗をハンカチで拭いながら、場の収拾に努めていた。その言葉を聞いて、冷静さを取り戻したのか、ジャクソンは資料のページを捲った。
「では・・・」
「今回のホワイトキャッツ残部隊の処分について、ご報告を・・・」
「関わった反乱分子については、すべて逮捕、反乱したテリー中隊、カーマ中隊は全員死亡しており・・・」
「この反乱の鎮圧に当たったイエロースネーク隊、ブラックフォックス隊共に全滅」
「軍事機密は守られていると、情報部の調査結果が出ています」
「よって、調査の為に拘束したホワイトキャッツ残部隊の処分は解除とします」
ジャクソンの言葉に異論在りきの表情をする物が若干いた。それを垣間見たジャクソンは大統領への回答を即、示した。
「D.F隊のエンジンのプラズマシールは遠隔によって解放(自爆)可能です。次に反乱があれば、躊躇なく反乱者のエンジンを個別に強制開放します!」
「一人のD.F隊員で、半径10kmは消失しますので、後始末の方はお願いしたい」
それを聞いた老将達は口籠もるも、はっきりと反論する者は居ないが、小言程度が所々で漏れていた。
「10kmって・・・街1つ無くなるのかね・・・」
「シール機能の働きにより、破壊力は1/40に抑えられております」
「呆れたもんだ、核兵器に替わる兵器が、また、核兵器になりうると・・・?」
「ま、反乱は抑えられるのだな・・・」
「後始末に掛かる費用と手間も少しは考えて欲しいものだがな・・・」
大統領のその言葉も少しトーンダウンしているのが判る。
会議は予定の時刻を4時間もオーバーして終えたが、要人達は疲労感を漂わせながら、スゴスゴと部屋を出て行った。
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「フウッ・・・」
ブリーフィングルームで、少し長めの煙草へと火を着けるジャクソンに、横から湯気の上がるマグカップ差し出された。
「ブラックでしたよね・・・?」
「・・・随分と長い報告会でしたね」
副官だ。会議の延長の原因を心配し、会議が終わるのを待っていたのであろう。カップを受け取ると、その副官は右隣へと座った。彼もまたジャクソンと似たような風貌で、軍人も今風になりつつあるのかと思わせる。
「連中は回りくどくていかん・・・」
「で、ホワイトキャッツ隊の処遇は決まりましたか?」
「ああ、明日から武装解除・謹慎共に解かれる。ホワイトキャッツ隊の連中に知らせてやってくれ、喜ぶだろう・・・」
早速スマートフォンをポケットから取り出した副官を見て、ジャクソンは少しフッと笑顔を見せた。
「言っておくが、ここはセキュリティーエリア内なのでな」
「こ、これは、失礼・・・」
副官は慌ててスマートフォンのアンテナを確認すると、ポケットに戻し苦笑いをした。
「ところで司令、今回の案件が、軍法会議に至らなかった理由とはなんですか?」
「判らん・・・組織図にない部隊だから、議事録も残したくないのだろう?」
「ほほう、それは・・・あるあるですな」
副官はそう言うと鼻筋をクンと引っ掻く仕草をする。それに気づいたジャクソンは横目で副官を凝視する。彼のこの癖を知っていたからだ。
「で、何かあったのかね・・・」
「君が鼻筋を書く時は、何か言いたい事がある時だろ?」
「実は・・・」
「謹慎期間中の入隊者の中にスパイが居ります」
「何!」
「本部は仮にも軍の重要セキュリティーエリア内だぞ、そう簡単に・・・」
「それなんですが、大統領筋の内通者が関わっており、あまり表沙汰には出来ないと判断し、ご報告すべき事案かと考え、参上いたしました・・・」
「なんだと・・・?」
ジャクソンはサングラスのブリッジを人差し指で支えると、右目を大きく見開き眉根を寄せた。
― つづく ―
(注1):Electromagnetic Pulseの略で”電磁パルス”での電子機器攻撃を言う。
(注2):故にバックパックは略してDパックと呼ばれている。
(注3):water closet:つまりトイレを意味する表現。
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