第48話 三者懇談

「今日は由美が先だったね」


「だって、何処にいても落ち着かないんだもん。だったら自分のクラスの前でお兄ちゃんを待ってる方がいいや!って思ってね」


 俺が三者懇談の為にS高校へ到着したのは、予定時間の4時半より早目の4時過ぎだったが、既に由美が体操服にジャージという姿で、3年2組の前で待っていたのだ。下には水着を着ているようだ。


「何処にいても落ち着かないって言うと、やっぱりインターハイのせいで色々聞かれたりするの?」


「んーっとね、まず朝よ。高校に着いたら、見たことない生徒からキャーキャー言われて、誰あんた?って男子から、前から好きだったとか言われて、大変だったよー」


「インターハイに出るってのは、それくらい凄いことなんだな」


「で、その後は月曜だから朝礼だったの。そこで校長先生に、インターハイ出場が決まった生徒がいますって呼ばれて壇上に上がったら、またキャーキャー言われて」


「ま、そうなるよな。でもその時は他の2人も一緒に壇上に上がらされたんだろ?」


「うん。呼ばれたのは男子も含めて3人だけど、代表してアタシが一言言うことになってね。アタシが喋ったら、お祭り騒ぎ」


「なるほど…」


「なんか、疲れたよ〜。インターハイに出るのって、余計な付録が一杯付いてくるんだね」


「余計な付録とか言うなよ。出たくて出たくて堪らなかったインターハイだろ?」


「そうだけど…」


「今日も家で洗濯してたけどさ、次々にマスコミから取材依頼の電話が掛かってきて、大変だったんだから」


「それ本当に?高校では朝と昼休みにちょっと騒がれただけだけど…」


「本当だよ。全部本人に聞いてからお返事します、で通したけど」


 そんな会話をしていたら、由美のクラスメイトの男子の番が終わったようで、男子とその母親が出て来た。

 男子は由美にお疲れ〜とだけ言っていたが、その男子の母親が、声を掛けてきた。


「あの、インターハイ出場を決めた伊藤由美さんと、お兄さんですか?」


「あっ、はい、そうです。いつも由美がお世話になっております」


 俺が挨拶した。


「おめでとうございます〜。由美さんみたいに凄い女の子と同じクラスってだけで、光栄です。お兄様もご両親の代わりに由美さんの親として頑張っておられるんですよね。頑張って下さいね」


「はい、ありがとうございます。そんなにお褒め頂いて恐縮です」


 まだ母親は何か話したそうだったが、男子生徒が、迷惑だから帰るよ!と、引っ張っていった。


「ふぅ…。なんとなく由美の大変さが垣間見えたぞ。この次が由美だっけ?」


「アタシは、今入っていった女子の次だよ」


「もう少し待たなきゃいけないんだな」


 と言って俺と由美で並んで椅子に座り直したら、由美の後の番の母親が来られた。


 どうも…と頭だけ下げておいたが、何も言われなかった。由美のことを知らない母親なのだろう。


 しばらくそのまま無言で待っていたら、由美の次の番の生徒が部活を中断してやって来た。


「あ、由美ちゃん!アタシの前なの?」


「そうみたいだね、恵美ちゃん」


 由美が恵美ちゃんと呼んだ女子は制服姿だった。


「あっ、由美ちゃんのお兄ちゃんですか?こんにちは」


「あぁっ、はじめまして、由美の兄の正樹と言います」


「アタシ、由美ちゃんと3年間同じクラスの、谷口恵美と言います。よろしくお願いします」


「こちらこそ…」


 そう言うと、谷口恵美と名乗った女子生徒は、先に来ていた母親と思しき女性に対して


「お母さん、由美ちゃん凄いんだよ!水泳でインターハイ出場を決めたんだから」


 と、喰ってかかる勢いで言った。


「えっ、そ、そうなの?お母さん、知らなかったから…」


「じゃあ今日を機に、名前を覚えて応援してね。伊藤由美ちゃんだから」


「はい、分かったわよ」


「恵美ちゃん、いいよ、そんなに無理に…」


 由美がそう言った。だが谷口恵美の母は、


「貴女が由美さんなのね。インターハイ、頑張って下さいね」


 と言ってくれた。


「あ、ありがとうございますっ」


 由美は椅子から立ち上がって、照れながらお礼をしていた。


「すごいでしょ、アタシの自慢の親友なのよ」


「恵美ちゃんだって凄いじゃない。吹奏楽部の部長なんだから」


「凄くないよ〜。コンクールでゴールド金賞取れたら、凄いって言って〜」


 女子高生の戯れを、俺は座ったままで眺めていたが、たった3年しか年が離れていないのに、思わず若いっていいな…等と思ってしまった。


 その内、由美の前の女子が終わり、教室から出て来た。


「由美ちゃーん、順番だよっ」


 そう言って出て来たのは、由美と同じジャージ姿で、由美に聞いたらソフトボール部で夏の大会を目指している白石晴香という生徒だそうだ。


「ハルちゃん、お疲れ〜。どうだった?」


「ウフッ、ヒ・ミ・ツ」


「何か、感触良さそうじゃーん」


「ウフフッ、ソフトボール部のね…あっ、でも今は秘密にしとこうかなっ」


「えっ、何それ〜。今は秘密なの?じゃ、明日聞こうっと」


 教室の中からは、市村先生の伊藤さーんと呼ぶ声が聞こえる。


「由美、ほら、行くぞ」


「分かってるよ。じゃあね、ハルちゃん」


「頑張ってね、由美ちゃん」


 由美と仲良しな生徒が似た時間帯に集中しているようだ。


「失礼します、伊藤です」


「あ、お兄さん。久しぶりですね。さ、由美さんと並んで座って下さい」


 市村先生は相変わらず体格が良く、夏休み直前だからか日焼けも凄かった。


「まず伊藤さん、由美さんのインターハイ出場決定、おめでとうございます」


「ありがとうございます…」


 由美は朝イチで既に祝われているのか、今は黙っていたので、俺が返事をした。


「えーっと、期末テストや進路の話の前に、そのインターハイ関係なんだけど…。お兄さん、ご自宅にマスコミから電話とか来てないですか?」


「あー、そりゃもう凄かったです。今日の午前中、10社ほどから掛かってきたかな?」


「やっぱり」


「と言いますと?」


「高校にもマスコミから水泳部への取材依頼の電話が結構掛かってきてですね…。実は昼休みに急遽臨時職員会議を開いて、由美さんに関する対応、まあ今後他の競技での全国大会やインターハイへ出場を決めた生徒に対するマスコミ対応を話し合ったんですよ」


「へぇ…。急遽会議を開くほど、電話対応が大変だったんですね」


「一言で言えばそうですね。で、ご自宅に掛かってきた電話には、お兄さんはどのように返答されました?」


「本人がいないので、本人に確認してから改めて返事します、と答えてます」


「おぉ、流石お兄さん。模範解答。じゃ、取材を受けます、って返事したマスコミは…」


「どこも保留中って感じですね」


「なら良かった。会議で決めた高校としての対応を説明するので、是非同じ対応をしてもらえたら…助かります」


「はい…」


 由美はキョトンとした顔で、俺と市村先生の顔を交互に見ている。


「まず高校としては、インターハイや全国大会の事前の取材はお断りするという方針になりました」


「はあ、なるほど」


「高校に掛かってきた電話は、比較的マトモなマスコミが多かったけど、ご自宅に掛かってきた電話だと、怪しそうなマスコミとかなかったかな?」


「そうっすね…。朝イチの電話が週刊文夏で、その後も週刊新夕、週刊チューズデイ…よく考えたら、雑誌社ばかりだなぁ…」


「多分、あるスポーツ新聞に載っていた由美さんの写真が、まあ、担任の教師の私が言うのもナンですが、凄いタイミングで可愛く写っていたので、これはイケる!と思ったんじゃないかな」


「それなら俺も見ました。我が妹ながら可愛いなぁ…なんて思ったりして」


 由美がここで割って入った。


「お兄ちゃん、スポーツ新聞なんて買ってきたの?」


「ああ。朝イチの週刊文夏の人が、スポーツ新聞で由美を見て、是非取材したいと思った、って言ってたからさ。どんな写真だ?と思って」


「肝心のアタシが見てないのにぃ!」


 由美がちょっと拗ね始めたので、市村先生が軌道修正を図った。


「まあまあ由美ちゃん、今日帰ったらお兄さんに見せてもらいなよ。とりあえずマスコミ対応は、インターハイ本番が終わるまでお断りということで…。理由をもし聞かれたら、練習に支障があるというのを一番にしていこう。じゃ、本番の話に入ろうかな」


 由美の取材依頼が高校にも来ていたとは驚いたが、逆に言えばその方が筋が通っているとも言える。電話番号案内から我が家の電話番号に辿り着く方が、怖いと言えば怖いのだ。


「さて、由美ちゃんの成績からだけど…」


<次回へ続く>


@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@


更新が滞り、大変申し訳ございませんm(_ _)m

自分の体調不良や家庭の事情で、なかなかカクヨムにじっくり取り組めず、ちょっと書いては保存、ちょっと書いては保存の繰り返しでした💦

今後も更新が不定期になるかもしれませんが、投げ出したりはしませんので、由美と正樹のこれからを見守って下さいませ!

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