第38話 妹として、彼女として
「ただいま…」
俺は咲江とのデートを終え、何とかその日の内にアパートへと帰宅した。
中華街で食事をした後、初めてラブホテルに入り、システムに戸惑いながら咲江と久々に肌を重ねた。
咲江はあまり良い下着じゃないのが恥ずかしいと言っていたが、それは俺も同じで、そんな事を気にする関係じゃないだろ?と咲江を抱き、最後は横浜駅で別れた。
いつになく咲江からの攻めが激しかったが、もしかしたら咲江なりに色々調べたりしているのかもしれない。
そんな余韻に浸りつつも、由美は無事に帰宅しているか、どうしてもそんな事が頭によぎってしまい、咲江と別れた後は本数も少なくなっているというのに、何故か相鉄線の改札へと自然と早足で向かい、少しでも早いいずみ野行きがあればそれに乗りたいと、気ばかり焦っていた。
「お兄ちゃん!」
アパートの電気が点いていたので、まだ由美は起きていると思っていたが、玄関に飛び出て来た由美の顔を見たら、安心すると同時に愛しさが湧き出てきた。
「帰ったよ、遅くなってゴメンね」
「良かった…。お兄ちゃんが帰って来なかったらどうしようって思ってたの。アタシ1人じゃ寝れないし、寝る以前にお風呂も1人じゃ入れなかったの。怖くて…」
由美の顔は安心したと同時に、瞳が潤んでいた。
「じゃあ由美、まだ風呂には入ってないの?」
「う、うん…」
照れて顔を真っ赤にしながら、由美はそう答えた。
「だからまだパジャマじゃないのか。遅くなっちゃったけど、今からでも入りなよ」
「そ、そうね。女子高生がこの暑い時期に風呂に入らずに、次の日高校には行けないよね?」
「ま、まあ、そうかもしれんけど、部活の後にシャワーは浴びてるんじゃないの?」
「一応浴びてるけど、頭しか洗わないし、体は丁寧に洗わないもん。一気に女子が来るから時間もないし」
「そうなんだ。じゃ、俺も帰ったし、安心して風呂に入りなよ」
「うん…」
由美はそう言ったが、何かモジモジしている。
「どうした?なんか照れてないか?」
「あのね、お兄ちゃん…。お帰りの…チューしたいなって…」
そこには女子水泳部主将の顔ではない、昔から知っている、俺に何かをねだる時の顔をした妹の由美がいた。
「由美…」
「あのね、アタシの気持ち、お兄ちゃんに伝えたよね。サキ姉ちゃんとの仲は邪魔しないけど、アタシと2人でいる時は…少しでも…彼女みたいなこと、したいなって」
「そっか、由美、可愛いよ」
俺は由美の頭を撫でた。
途端に由美の顔に笑みが浮かんだ。
「じゃ、チューしてくれる?」
「うんっ!」
由美は俺の両肩に手を置くと、そっと唇を合わせてきた。
咲江との濃厚なキスとは違う、唇を合わせるだけのフレンチキスだが、由美の思いは十分に伝わってくる。
「エヘヘッ、これでアタシの充電完了!また明日も頑張れるよ!じゃ、お風呂に入るね」
由美は着替えを取りに行ってから、浴室に入って行った。
俺は四畳半の共用スペースで、やっと寛ぐことが出来た。
テレビを入れたらもうニュースステーションは終わっていたので、ニュース23にチャンネルを変えて、冷蔵庫に入っていたアイスを食べていた。
帰りに買ってきた東スポを読むと、天龍新団体にまた全日本プロレスから移籍する選手がいるようだった。
(全日、ヤバいんじゃないの?)
冬木や鶴見は別に応援するような選手でもなかったからどうでもいいが、若手が抜けるのは痛いんじゃないか、特に折原とか北原とか…。小橋が抜けたらオシマイだろうなぁ。
(また今週の週プロがボロクソに書くだろうな)
「お兄ちゃん、お風呂空いたよ〜。入る?」
由美がバスタオルを体に巻き付けた状態で、浴室から出て来た。
「えっ?由美、バスタオルの下はどうなってんの?」
「ヘヘッ、知りたい?」
「って言うか、ブラは着けてないよね?」
「どうだろう?確かめたい?」
何時もの由美なら、風呂上がりには下着もパジャマも着てから、浴室から出て来るのが当たり前だった。
偶に俺がバイトで遅い時は気が抜けるのか、下着姿のままという時もあるが…。
こんな挑発的な感じで俺の前に現れたのは初めてだった。
「い、いや、いくらアパートの中では彼と彼女だとしても、妹の発展途上中のオッパイを見るのはイケナイ事のような気がする…」
「アハハッ、やっぱりお兄ちゃん、アタシがノーブラだと思ってる!違うよ〜。見てみて」
由美はそう言うと、バスタオルを思い切りよく取り去った。
俺は思わず目を瞑った。
「お兄ちゃん、大丈夫だから、目を開けてよ」
「え、大丈夫なのか?」
俺は恐る恐る目を開けた。
「ね、大丈夫でしょ?」
「へぇ…。そんなブラジャーがあるのか?」
大胆にバスタオルを取り去った、風呂上がりの由美の体には、肩紐のないタイプのブラジャーが、胸を覆っていた。勿論、下にはパンツを穿いている。
「そう。この前買ったの。でね、見せる相手は水泳部の仲間かお兄ちゃんくらいでしょ?だからデビューは、お兄ちゃんにしようと思って、今日初着用したんだ」
「良かった〜。由美の胸が見えたらマズイと思って、思い切り目を瞑ったからさ」
「なんかお兄ちゃん、そんな所は可愛いね!」
「下着姿の妹に可愛いって言われる俺って…」
「でもこの一見お洒落なブラジャーも、欠点はあるんだよ」
「欠点?やっぱり肩紐がないから、ずり下がってくるんじゃないのか?」
「もしかしたらそれもあるかもだけど、実は胸が大きくなったら使えない…。精々でCカップの女の子用までしかないの」
「なるほど。由美は今は…」
「んもー、お兄ちゃん!アタシのブラのカップなんて、覚えなくていいの!」
「だって、洗濯してると嫌でもタグで分かっちゃうってば。でも由美、2人暮らしを始めてから、少しは胸が大きくなっただろ?」
「…うん。前にお兄ちゃんに抱き着いた時に、胸が当たるって言われて、ちょっと嬉しかったんだから。それまでは洗濯板とか、ブラジャー要らずとか言われてたからさっ」
「まだ由美は18歳なんだから、25歳までは諦めるな!」
「なっ、何それ?」
「いや、人間の体って、25歳までは成長するとかいう話をどっかで読んだんだ。だから由美はまだあと7年もある!」
「なんか複雑なんだけど…」
「でも俺は、由美の胸の大きさなんて、気にしてないから。由美は由美らしく、頑張ってくれよ」
「本当に?」
「ああ。だからさ、そろそろブラとパンツの格好は止めないか?パジャマを着てくれよ」
「あっ、ブラジャーについて熱く語ってたら、すっかり忘れてたじゃん!ま、お兄ちゃんにパンイチの格好なんていつも見せてるからいいけど」
由美はやっとパジャマを着た。
「じゃあ俺も風呂入るから。待っててくれる?」
「うんっ!早く上がってね、お兄ちゃん!」
俺は着替えを手に、風呂へ入った。実際は咲江と入ったラブホテルでお互いに体の洗いっ子などしたから、無理に入る必要はないのだが、今夜咲江とラブホテルに行ったなんて由美に言ったら、ショックで気を失うかもしれない。だからじっくり体を温める方をメインにして、入浴した。
やっぱり由美は、明るく元気な由美でいてほしい。
今日みたいな急用といって咲江と突然デートするのはもう止めよう…。
由美も咲江との仲は邪魔しないと言っているし、敢えてかどうか分からないが急用が何だったのか聞いてこないし。
最後に頭だけ洗って、風呂から上がった。
(あれ?パンツが入れ替わってる?)
風呂に入る前に俺自身が用意した着替えの下着等の内、パンツだけがトランクスからお洒落なブリーフにいつの間にか変わっていた。
「おーい、由美ー!」
「はーい、何?お兄ちゃん」
由美が脱衣所まで顔を出したので、全裸だった俺は慌ててタオルで前を隠した。
「あっ、あのさ、俺のパンツ、もしかして由美がこっそりコレに変えた?」
「うん」
あっさりと由美は犯行を認めた。
「まあどうでもいいけど、なんで?」
「えっ…。それはね…」
急に由美が照れる。何を考えているのだろうか?
「しかもこの柄、初めて見るよ。新品じゃない?もしかして」
「そっ、そうでしょ?あのね、アタシが紐なしブラジャーを買った時に、お兄ちゃんにも…と思って、カッコ良さそうなパンツを買ったの」
「なんでまた。パンツは十分にあるのに」
「…アタシが買ったパンツを穿いてもらえたら、次の日に着替えるまでずっとお兄ちゃんと一緒にいられる気がしたから…」
「由美…」
俺は由美の考えが可愛いと思うのと同時に、まだ由美が自覚してないだけで、深い女の業も隠れているような、そんな気がした。
だがここは素直にありがとう、だけを言って、着替えるからちょっと待ってろと言った。
「着替えたら、アタシにお兄ちゃんの下着姿、見せて」
「俺の?もう俺、バレーボール辞めてから体なんて鍛えてないから、ガッカリするだけだぞ?」
「ガッカリなんてしない。大好きなお兄ちゃんだもん」
そう言い残し、由美は四畳半部屋へ戻った。
(ジワジワと由美も距離を詰めてくるな…。咲江との仲は邪魔しない、ってのは本当なのかな)
とりあえ由美が買ってくれたブリーフを穿き、バスタオルを羽織って四畳半部屋へ入った。
「ど、どうだ?由美…」
「わあっ、お兄ちゃん、やっぱり似合ってる!うん、アタシが選んだパンツだけのことはあるね!」
「似合ってるか?なら良かった…」
由美の視線が、ずーっと俺の股間を捉えている。流石にいくら妹でも恥ずかしい。
「由美、もうそろそろ上を着てもいいか?」
「うっ、うん…」
何故か名残惜しそうに由美は言う。
俺はパジャマを着て寝るよ、と言ったが、由美は8畳部屋の俺のスペースと由美のスペースを区切るカーテンを閉めなかった。
「カーテン、閉めないでいいのか?」
「…お兄ちゃん、これからは寝る時、手を繋いで寝て?お願いなの」
「へっ?ま、まあ、良いけど…」
「エヘヘッ、お兄ちゃんの手の温もり、アタシには懐かしくて、安心出来るんだ」
まだ子供部屋が俺と由美で一緒だった幼い頃、いつも俺と由美は手を繋いで寝ていた。
大抵、なかなか眠れなくてグズる由美を慰める為に手を繋いでいたのだが…。
布団に入った俺の手に、由美の手が伸びて来る。
「お兄ちゃん…大好き。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ。いい夢を見れたらいいな」
「うん…」
由美は落ち着くと、眠りに落ちるのが早い。今もあっという間に眠りに就いた。
俺はこの先、どうなるのやら、色々考え出し、逆に寝れなくなってしまった…。
<次回へ続く>
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