第58話 もういちど、ふたりで。
あと5ヶ月ほどで卒業式。今日は入学説明会の振替を使って、愛央とふたりでまた君津へ行った。
あお「今日はふたりなの?」
たく「あいちゃん、来年から幼稚園だから」
あお「たしかに。だからふたりなんだね」
前とは違い、快速電車のグリーン車でふたりっきり。あいちゃんはプレ幼稚園で久しぶりにパパとお出かけ。俺らは君津バスターミナルからコミュニティバスで3つ目のところで降車。前乗り方式なので都営バスと乗り方は似ている。そしてばあちゃんちにつくといつものように出迎えてくれた。
たく「んちゃー」
祖母「あらこんにちは。あじした?」
あお「たっくんとふたりで、入社試験前に来ようかなって!」
たく「おらたちゃそろそろ就職試験受けなきゃおいねぇからその息抜きがてら来たわけだ」
祖母「そうかい。そういえば、今日はあいちゃんあにした?」
たく「プレ幼稚園っつっていわゆる体験入学みてぇなもんでな、んでそれに親父とあいちゃんが行かなきゃおいねぇからおらと愛央で来た」
あお「3日間いるよ!」
たく「あんか買って来んもんあんか?」
祖母「ふたりで食べておいで。おばあちゃんはいらないから」
たく「んだあんもいらんのか。んじゃ愛央行こか」
あお「うん!」
息抜きとはいえ、生活リズムは完全に田舎モード。愛央は何を言ってるのか分からないらしいが、俺がちょこちょこ教えてるのでちょっとずつ会話ができるようになってたのがよかった。
あお「たっくん」
たく「あに?」
あお「また木更津行こっ」
たく「またぁ?」
あお「今日は本物のデートだよ」
たく「あれそいえば・・・今日の愛央の服、見たことねぇな」
あお「たっくんがバイトでいないときに買っちゃった。マフラーとか、スカートとか」
たく「あーんかみたこたねぇからあじしたんかなとは思ったけどそういうことなんね」
あお「かわいいでしょ」
たく「ま、まぁ・・・」
とは言いつつも、愛央はいつものように甘えたり、色々行きたいところに連れてってほしいって言った。まぁまず木更津に出なければ話にならないんですけどね。
毎度君津の話をすると1度は必ず出てくる君津駅南口。今回はちょっと話が違った。バスロータリーまさかの使用禁止。よって、木更津まで電車で行かないといけなくなった。
あお「畑沢の坂登りたかった・・・」
たく「仕方ねぇよ。バス使えねえもん」
あお「帰りは乗ろうね!」
たく「だな」
あお「ねぇたっくん。案内に木更津行があるんだけど・・・君津に木更津行っていう列車あったっけ?パー線なら分かるんだけど・・・内房線の木更津行って千葉からでしょ?」
たく「あー、これな。ばあちゃんがちんちくりんって言ってたやつ。実は今年のスジ改正でE131が走り始めてよ、ほんで2両でちびっかいからばあちゃんがちんちくりんって言ってる。外房の上総一ノ宮から内房の木更津まで3時間かけて走るんだぜ?」
あお「そうなの!?すっごーい!」
たく「車掌いなくなった分だけの金浮かせる気なんだろ。
スジ改正とはいわゆるダイヤ改正のこと。この前のダイヤ改正で新型車両が走り始めたのだが、それのことである。愛央は乗るのが初めてで、かつ君津に来たのが久しぶり。生まれが君津の俺と愛央にとっては改革とも言えるダイヤ改正であった。
あお「短いね」
たく「第一印象それかよ」
あお「あと普通電車なのに自動放送ついてる!」
たく「まるきゅーじゃ肉声だからなぁ。すごい進化だよね」
あお「うんっ!」
たく「それにしても高いよな」
あお「えっ?」
たく「木更津から君津まで200円」
あお「確かに・・・」
たく「木更津西口から君津駅南口までだいたい500円・・・バス代は高いのに、ハーゲンダッツは安い逆転現象が起こってるよね」
あお「うん。たっくんあっためて」
たく「既に暖かくしてるだろお前」
愛央は寒そうにしながらくっつく。こんなんでよく彼氏作らんなとは思ったが愛央は彼氏=俺と思ってるとのこと。このあたりは30話で語ったことか。
あお「まだかなぁ」
たく「まだだなぁ・・・ん?中央病院のあたりか。じゃあと少しだな」
あお「3分くらいかなぁ?」
たく「そんくらいだな」
それから少しして、木更津の駅についた。愛央が朝髪巻いてって甘えたから今日はかなりふわっとなっている。そんな愛央が木更津について最初に言ったのはカメラを貸してと。あにする気だと思ったらパー線、もとい久留里線の気動車を撮ってきたのだ。
あお「たっくん見てっ!」
たく「あに?おー、こらうめぇ」
あお「帰ったらあいちゃんに見せてあげようよ!」
たく「そうだね」
あお「ところで、次のイオンモール木更津行きって何時?」
たく「1030。港南台一丁目経由君津駅南口行か」
あお「今が10時20分だからまだ来ないのかなぁ」
たく「あと5分もすりゃあ来るだろ。ってか南口って入れないはずだよなぁ?陽光台から高坂通すのか?」
あお「入れない現象終わってるって」
たく「ほへぇ、んだぁけえれんのか」
あお「でも愛央寒いよ〜」
たく「来なよ」
あお「ぎゅーっ。あったかい・・・」
たく「それはよかった。って、おいあれ・・・QKG-MP37FKのはずなのにQKG-LV234L3が来やがったじゃねぇか」
あお「どういうこと?」
たく「木更津運輸営業所運用だってのに富津運輸営業所の野郎が来やがった」
あお「でもあんま変わらないんでしょ?」
たく「変わんねーこたぁ変わんねぇ。だけんが俺と愛央が初めて乗ったバスの車両がLKG-MP35FKこと、三菱ふそうのエアロスターってバスなんだよ。その一つ新しいのが今のQKG-MP37FK。ってやつなぁ」
あお「そうなんだね。だからなの?」
たく「だからだな」
少しして乗車扱いが始まった。愛央が先に乗って俺も続くが、愛央はやっぱり甘えん坊。ずーっと甘えてくる。それからようやくしてついたのだった。
あお「ふたりで来るの、何年ぶり?」
たく「3じゃね?」
あお「あいちゃんとこの前来たときより前だよね」
たく「んだなぁ。今日はどこ行くべ?」
あお「せっかくたっくんとふたりっきりだし、まずはご飯食べようよ!」
たく「イキナリデスカ」
何にするか非常に迷うが、やっぱりここはファミレスで済ますことにした。とはいえ、俺はファミレスに来ると50%の確率で一品しか頼まない。愛央もそれに便乗して、少なくしているのだ。
あお「いただきまーすっ!」
たく「食ったらどこ行くんだ?」
あお「今日は服買わないから・・・いっしょに巡ろっ」
たく「はぁ・・・」
あお「ぎゅっ♡」
俺が疲れてるのを察して、愛央はぎゅって抱きついた。少しでも楽にしてほしい愛央の気持ちが伝わってくる。
あお「私ね、疲れてるたっくんを見ると応援しちゃうでしょ?」
たく「するなぁ」
あお「でもね、それだとたっくんが逆に頑張っちゃうって思ったの。だから、ぎゅって抱きつくことにしたの」
愛央の気持ち、変わった?と思っていたがどうやら彼女が変えてどうなるか試したかったようだ。ぎゅーってしたら愛央は楽になるって思ってるらしい。
あお「フレフレって応援するのもいいんだよ?でもね、最近の頑張り屋さんたっくんは休まないから・・・」
たく「悪いね。ほんとに」
あお「たまにはふたりいっしょ。だよっ♡」
たく「量産型女子やんけ・・・」
あお「ふふっ。・・・果てしなく続くこの道に」
たく「ひとつだけ決めたことがある・・・だろ?」
あお「うん!」
その後の愛央は手を繋いで、店内を回ることにしたようだった。
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