第51話 愛央が初めて応援した日とは

体育祭の振替休日。ふと愛央がいつものようにぎゅーっと抱きついて、昔のことを聞いてきた。


あお「ねぇたっくん」

たく「どしたの」

あお「愛央が初めてたっくんを応援した日って覚えてる?」


俺はこれを聞いて、すぐさまアルバムに手をかけた。そしてアルバムをめくって愛央とふたりで思い返したのだ。


たく「これかな?」

あお「そうそう!愛央ってこのときまだ慣れてなかったんだよね?」

たく「そだなぁ」


遡ること今から7年前の5月。運動会で愛央が応援団を初めてやったときのことだ。その時の写真を俺は愛央と見ていたのだが、その当時教室でめちゃくちゃ負けて悔し泣きをしていたクソガキの俺に愛央が話しかけていたときの写真らしい。


たく「ぐすん・・・・」

あお「たっくんっ。すっごい頑張ったじゃん。わたしが恥ずかしがって応援してたのに」

たく「え・・・?」

あお「すっごく頑張ってた!」

たく「愛央もすごかったじゃん」

あお「まだまだだよっ。わたし慣れてないもん。恥ずかしいし」


たく「ってなことを当時話してたっけね」

あお「うん!今だと愛央もチアリーダーっぽいよね?」

たく「そうだべなぁ。あのあとすごい可愛すぎて愛央お前チア習ってみたら?って俺が提案したらマジで習ってさらにすんげぇ上手くなったし」

あお「あとあと、愛央このときまだわたしって言ってたよね!?」

たく「あほんとだ」

あい「たったー!!!」

たく「どしたどした」

あい「たったーのしゃしんみつけた!」

たく「えぇぇ!?あいちゃんすげぇ!」

あお「すごいねあいちゃん!」

あい「あい!」

たく「どれどれぇ?おっ、これはまたすごいな」

あお「なぁに?」

たく「愛央が俺の横に突っ立ってる。今と同じような感じのやつだな」


出てきたのはおそらく6年生のときの写真。あいちゃんは特定の人を好きになる傾向がある。俺とか、愛央とか、あとはバイト先の店長もとい近所のおじさんとかね。


あお「ねぇこのときのたっくん、顔赤くない!?」

たく「えーうそだぁ?ほんとか?いやガチだなおい。めっちゃ緊張してるじゃん」

あお「あいちゃん!これ誰かわかる?」

あい「きゅぴ?ねーねー!たったー!」

たく「さすがにわかるか」

あお「これ小6だけど5年生のときよりふさふさしてる。でも・・・懐かしいね。応援団2回やったけど、今じゃたっくんの応援団だから・・・」

たく「あんときすんごい恥ずがってたのに今じゃ愛央は本気になってんだもん」

あお「可愛く応援したらたっくんすっごい頑張るもん」

たく「だからって・・・」


愛央はこの7年でだいぶ俺によりつくようになった。それこそ昔はちょっと距離を取るときもあったけど、今では愛央がほぼ付きっきりで生活するようになった。それから少し経って、愛央がこう言った。


あお「ねぇねぇ、愛央昔の応援またやりたい!」

たく「誰にやるんだよ」

あお「たっくん♡」

たく「はぁ・・・やっぱりか」

あお「作りたいから買ってこようかな?」

たく「ホムセン行くなら俺今から行くぞ?」

あお「え!?なんで!?」

たく「シフト出しに行くから」

あお「じゃあ、白のスズランテープ買ってきて!」

たく「6年生の時みたいに応援したいから?」

あお「うん!」


俺は愛央の「いつも」の甘えを聞くと即座にスマホとシフトと財布を持ちバイト先へ向かった。そしてバイト先の社員さんに出して、愛央に頼まれたテープを買って家に帰ったのだ。


たく「ただいま」

あお「おかえり!」

たく「あいちゃーん」

あい「たったー!(´。>ω<)ぎゅー♡」

たく「おーよしよし。愛央、とり2個買っといた」

あお「ありがとう!」

あい「ねーね、てつだう!」

あお「やりたい?」

あい「あい!」

たく「色んな事経験しておくのもいいからなぁ」

あお「ぐるぐる巻こっ!あいちゃん!」

あい「あい!きゅぴらっぱ〜!」


あいちゃんと愛央はふたりで協力してぐるぐるぐるぐるグルコサミン、世田谷育ちのグルコサミン的な感じでぐるぐるスズランテープを巻き付けていた。


あい「きゅーぴ、きゅーぴ、きゅーぴ、きゅーぴー!」

あお「全部巻けたね!2つ買ってきてもらったから、もう一個も作っちゃおう!」

あい「あーいー!」

たく「おいおい、ちょっと手休めたほうがええべ。この前のレモンティーまた作ったから飲むべさ?」

あお「たっくんタイミングいい〜!」

たく「んでは」

あお「かんぱーい!」


休息がてらこの前のレモンティーをまた愛央に作ってあげた。今回はアイスレモンティーなのて冷たくて美味しいはずだ。


あい「あいたんも飲みたーい!」

たく「飲む?」

あい「あーいー!」

たく「はいどーぞ」

あい「あーちょ!」

たく「おいしいかな?」

あい「あい!」


愛央とあいちゃんはレモンティーを飲み終えると、ふたりでまた協力してぐるぐる巻いていた。そして2つ巻き終えると・・・


あお「たっくん!裂くよ!」

たく「お、早っ。んなら手伝いますか」

あお「たっくんの裂き方上手いんだよね」

たく「あそうなの?」

あお「小5のときに使ったポンポンもたっくんに裂いてもらったんだよ?」

たく「うっそぉ?ほんこん?」

あお「うん!あのときたっくんが夜中から起きてずーっと裂いてた。だから、愛央が応援団で可愛くなれたの!」

たく「あーなんかすんごい音してたけど、あれって俺が裂いたからか」

あお「だから今日もたっくんに裂いてほしくて」

たく「手伝ってほしい?」

あお「うん!愛央がその代わりに応援してあげるから!」

たく「じゃあ、がんばる」


見事口車に乗っかった俺は愛央が後ろで応援している中ひとりで約2時間愛央たちが巻いたものをひたすら裂き続けた。


あお「フレっ、フレっ、ふぁいとっ・・・って、あと少し!?」

たく「まだ15分くらいっしょ?」

あお「20分だよ!?」

たく「2時間かかってたあんたらのやつをたった20分で裂けるとか早すぎだろいくらなんでも」


さすがバイトで札を日々扱う男。余裕で裂き終わる。それを見た愛央はポンポンを輝かせていつもの5倍?いや、3000倍可愛く応援してた。


あお「がんばれーっ♡」

たく「あ・・・た・・・すこし・・・」

あお「もっともっと♡ふぁいと、ふぁいと〜♡」

たく「愛央、あーた声が甘すぎんだよ」

あお「このくらい可愛い声出すとたっくんすごい実力出すもん!」


愛央の応援はハイレベルすぎて俺は毎度惚れる。でもそんな中で甘ったれる暇はねぇ。

あお「完成?」

たく「できた」

あお「Fooooooooooooooo〜♡」

たく「めっちゃ振るじゃん・・・」

あお「腕は疲れるけど、輝くから!」

たく「負けてほしくないって気持ちもあるからかなり振るんでしょ?」

あお「うん」

たく「じゃあおいで」

あお「ん?」

たく「いつもありがとね。あおちゃん」

あお「たっくん・・・・愛央泣きそう」

たく「言わねーもんな普段こんなこと」

あお「うん」


作り終わったそのものを愛央にもたせてみた。元々愛央は白いチュールスカートを履いていたので、白がふわふわしてて超かわいい。


あお「かわいい?」

たく「うん」

あい「ねーねーしゅごいかわいい」

あお「ありがとっ。たっくん、はちまき持ってる?」

たく「机の中あるんじゃね?」

あお「みつけたよ!」

たく「貸して?」

あお「いいけど・・・あ、そういうこと!?」


俺がとっさに思いついたのは、はちまきを頭に巻くんじゃなくて、チアのリボンみたいにハーフアップを作ってアクセントを加えればいいんじゃねぇかって話。チアはポニテとリボンが相性大抜群だけど、ハーフアップでも可愛さがより引き立つからそれで結び目のところにはちまきをりぼん結びすればお嬢様っぽくて絶対いいはず。と思ったガキの戦略だ。


たく「ほーれ、あじょうだ?」

あお「すっごい愛央かわいい!」

たく「ふわっとするもんね。振ってみる?」

あお「うん!」


愛央は持ってみて、ふわっとするのをすごい好んでいた。そしていつものように振って、励ましていた。


あお「フレフレ!たっくん!フレフレ!あいちゃん!」

たく「おー、懐かし。ってかでっけーな、相変わらず」

あい「ねーねー、むかしやってたの?」

あお「うん!懐かしいね。たっくん!」

たく「作ろうと思えば作れるからね、でもなかなか難しい」

あお「巻くのと裂くのが大変よね」

たく「正直めんどいけど」

あお「でもすごいよ。愛央のためにここまでしてくれるのって、たっくんだけだよ!」


愛央はそう言った。確かに、俺は愛央のために色々やってる。だが愛央が俺に感謝していることが俺は不思議でならない。


あお「やって当たり前と思ってる?」

たく「んだ」

あお「それってすごいことなの!」

たく「はぁ?」


いやそらそうでしょ。何がすごいんだと。でも愛央はそんなアホの俺にしっかり説明してくれた。


あお「たとえばね、今たっくんが裂いてくれたりしたでしょ?あれってね、愛央にとってはすっごい大切なお願いだったの!」

たく「はぁ。ほんで?」

あお「たっくんって、どんなことでもすぐ実行してくれるからやって当たり前って思っちゃうのかも」

たく「だからか」

あお「大丈夫だよっ。愛央は感謝してるから!」


何かよくわからないけど、俺は愛央に納得しておいた。そうすることで、後で自分から気づくと思うから。

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