寺(三)
夜の街には霊体や妖怪、黒いモノなど
首都にはヒトや物などいろんなものが集まる。
東京にいる
街のあちこちで幽霊や黒い
環の家族が住む「
(いろんなものを引き寄せる東京なのに、23区内は古の
用心して妖力を消しているとしても妙だな……)
環はヒトがどれだけ被害に遭おうが気にしないが、
(やっぱり妖力の強い
都心をバイクで走り、街の様子を確認できたら郊外へと向かった。
今夜は青龍寺総本家から依頼があった排除対象の
(血のニオイがする。向こうからか)
ニオイが流れてくる場所へ向かうと団地になっていて、棟が並んでいる。バイクの速度を落としてニオイの濃くなるほうへ行くと、建物と建物の間にある空間で動くものが目にとまり、バイクを止めた。
中庭のような空間の暗がりに、ずるりずるりと音を出して動くモノがいる。遠くてよく見えないが、ニオイの元はこの塊からだ。
(依頼されていた
バイクから降りて
標的と定めた
近づくにつれて黒い靄に色が視えてきた。靄は黒ではなく、紺や茶に深緑の靄が混ざって動いている。
斑の靄に浮かぶ真っ白な顔は、一つひとつ表情が違う。唇を噛んだうらやましげな男、口を大きく開けて叫んでいるような女、目を大きく開いてにらみつける男、うつろな目で半開きの口をした女など、石こうで作ったデスマスクのように生々しい。
本家からの情報によれば、地震直後からこの近辺では自殺が急増している。なぜか
(面は自殺者の顔か。遺した負の感情を増幅して自殺を誘発してる。
念で似たような願望をもつ者を引き寄せて、自殺したら霊体を取りこむ。成長したのが
通常、自殺した霊体は死んだ場所にとどまるが、この
(もともとは核となっていた
もう元の
「はあ~……。ハズレかよ……」
遠くまでバイクを走らせて探し出した
夜の団地、四角いブロックのような味気ない建物が並ぶ一角で、環は右腕を突き出した。手のひらは
光はだんだんと大きくなっていき、やがてキツネの姿へと変わる。環の背から全身を現した白銀のキツネは、美しい毛皮をしているが常人には見えない存在だ。キツネは環の背からふわりと飛んで地面へ降りると、ふさふさとした尾をうれしそうに振りながら悠々と
再び断末魔が流れると、残った面は恐怖の表情へ変わった。「たっ、助けてくれぇー!!」「いやあぁ! 死にたくない!!」「嫌だー!」とあちこちから声がする。囚われている面は、キツネが目前に来ても怯えるだけで何もできない。
キツネが面をはがすたびに、ぶちぶちと切れる音がして絶叫が響き、ばりばりと砕く音になると苦しそうな声があがる。面は複数あり、その数だけ悲鳴と救いの声がするが、団地の住人に声は聞こえておらず、静かな夜があるだけだ。
キツネを繰り出した環はすでに関心が失せており、スマートフォンをいじりながらバイクを止めている場所へと向かっている。キツネが
翌朝。
団地を散歩していた年配の男性が、刈られた草地で人影を見つけた。寝転んでいるように見えたが、全然動かないから眠っているようだ。酔って寝てしまったのかと思い、起こしてあげようと近づいていくと、形状が
初めて遭遇した異様さに嫌な感じがしたが、放っておけずにさらに近づいていく。「あの~、大丈夫ですか?」と声をかけるけど反応はまったくない。声をかけ続けながら、おそるおそる足を進めたが、間近まできて体のねじれ具合から状況を悟り、悲鳴をあげて逃げていった。
数分後、救急車やパトカーなどが来て現場は騒然となった。高層階から飛び降りたと思われる男性の近くには、
野次馬の一人が現場の画像をネットにあげたせいで呪われた団地として話題をさらった。しばらく噂が立っていたが、この事件以降、連続していた自殺はぱったりなくなった。
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