青龍寺
寺(一)
「
(寺は朝からやることが多い……。だから家に居るのは嫌なんだよ)
依頼の発端は「放心状態で保護されるヒトが増えている」という警察内部の報告書だ。
東京地震以降、日本各地で奇妙な事件が発生している。事件の背景には、地震の際に封じられていた
ヒトに被害がなければ、
政府も裏でサポートする排除作戦は、
集めた情報は規則性があれば監視対象となり、
集約されていくデータからピックアップされたのが警察内部の報告書だった。ほかから入手していたデータとともに分析され、報告書どおり周辺では似たような事件が多い。監視対象に分類されたが、すぐにコンピューターは警戒対象へとレベルを上げた。
コンピューターから警戒対象の
(
睡魔と戦う環は、なんとか体を起こして布団から出るも、ふらふらして動きが鈍い。畳に足を引っかけて転びそうになったことで、意識が少しはっきりしてきた。
排除の依頼には「正体不明」とあったから、どんな大物なのかと期待していた。ところが
(本家の依頼だと、
依頼を受けて環が排除に向かうと、本家が裏で手を回し、わざわざ公園内を夜間通行禁止にする段取りができていた。事前の資料でヒトの魂を食らうタイプとわかっていたから、わざと
(式神に気づかれないように水墨画を
環の足取りはさっきより軽くなっており、顔は楽しそうに笑っている。洗面所に入り、顔を洗っていると蒐集した
(水墨画に変わればいい絵になるかと期待したけど、雲に目と口がついただけのつまんねえ
好みではなかった水墨画を思い出し、やや不機嫌になった環は洗顔を済ませて着替えると家の外へ出た。
青龍寺は23区内にあるわりに敷地が広い。境内にはカタカナの「コ」の字のように木造の建物が立ち、本堂を中心に、左右には1棟ずつ建物がある。左右の建物は僧侶たちが修練や宿舎として使う施設なのでそこそこ大きい。
境内は広いが訪れる墓はなく、檀家の姿もない寺の私有地となっていて、一般人は立ち入れないようになっている。また高い塀と木で囲まれており、外から様子を見ることができない造りだ。
孤立した寺は、本堂の裏手が居宅エリアになっており、平屋が環の育った家だ。大学進学を機にマンションで一人暮らしをしていたけど、一時的に寺に戻ってきている。一人暮らしのときは時間を自由に使えた。でも家だと、早朝にやらねばならないことがあるから環は不機嫌だ。
境内へ行くと鳥がさえずり朝日はやわらかく落ちていて清々しい。気持ちのいい朝なのに、環は太陽をにらんでため息をつき、門へ向かう。門に着くと塀に沿って歩き始めた。
「親父が結界の基礎を張ってるから、あとは強化するだけか」
塀のそばを歩いて寺を囲むように張っている結界の状態を確認した環は、スタート地点の門に戻るとしゃがんで地面に手を当てた。手に
環は壁に沿って呪術がかかるように
「結界は楽だけど……」
嫌そうな顔をして、用具入れへ向かうと中から竹ぼうきを取りだした。ずるずると引きずりながら端まで行くと掃き始める。境内では鳥の朝の合唱と、ほうきの音が聞こえている。
朝の清掃に見えるが、掃き掃除には重要な意味がある。ほうきには
寺内を清浄に保ち、結界を厳重にするのは青龍寺の
長く続く青龍寺は
呪術は、修行や経験を積めば体得でき、遠隔で行うことも可能なので一族の中でも術者は多い。ところが祓は、
環の育った家は青龍寺の中でも特別な存在だ。家族は
危険を伴う
「くそっ。
白い息をはき、環はぶつぶつ文句を言いながらも手際よく境内を清めていく。これから青龍寺の一日が始まる。
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