天敵
前のめりになるほどあわてて走る男性がいる。後ろを気にして何度もふり返り、手をばたつかせて懸命に走っている。
都内の夜の公園で大人が全速力で走っているだけでも異様というのに、プラスしてスーツ姿だと怪しすぎる。逃げている男の後ろからはずむ声が響いた。
「
スーツの男性を追いかけている男は 青龍寺
はたから見れば、男二人が追いかけっこしている不気味な光景だ。変な構図にさらに妙なことが続く。
先を走るスーツの男性の顔や手の輪郭が崩れている。また着ている服は色がおかしく、グレー部分がじんわりと黒くにじんでおり、水に浸しているようにどんどん広がっていく。広がりにあわせるように、服だったところが体と同化を始めた。
ヒトの形状をしていたモノは、うごめく
地震で
政府は事態を予測していたので、すでに
環は公園に居ついた
「チッ、追いつけねえ。どこかに逃げこまれたら面倒だ」
環は走りながら右腕を突き出し、手のひらを
光るキツネは背中から徐々に姿を現していき、環の肩に前足をかけると思い切り飛び上がって全身をあらわにした。宙を舞ったキツネは、環の前に降り立つと走りだした。
現れたキツネはネコ科の
見届けた環は走るのをやめて、ポケットに手を突っこむとゆっくりと追い始めた。夜の公園では落ち葉が踏み荒らされる音や、枝が折れる音が聞こえている。しばらくして怒声が響き、
「あ~、遠くへ行くなよ」
ぶつくさと文句を言うだけで、環に急ぐ様子はない。
環は近づきながら御朱印帳を取りだし、ぱらぱらとページをめくっていく。手が止まり、はさんでいた和紙を引きだすと、虫の息となっている黒い
横たわる黒い
「変幻自在の
環はうれしそうに言い、手に持っていた和紙を
黒い塊だった
環が
もわもわと黒い雲のような塊が一つあって、塊の中に墨が薄くなっている部分がある。薄い部分には二つの目と大きな口が描かれ、ヒトの顔に似ている。目は虹彩をもち、開いた口はヒトと同じ歯並びをしているが、全体の比率からするとサイズが異様に大きい。真っ黒な入道雲の塊に目と口が生えている――。そんな形相をした
「なんだぁ、こいつは。あんまよくねーな。ただの黒い霧の
手を頭の後ろにやり、がっかりした息をついた。
環は青龍寺総本家から
東京地震で強力な
今夜も本家からの依頼で公園にいる
水墨画を手にして、こいつはコレクションに加えるのはやめておこうかと、こぼしながら夜の公園をあとにした。
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