第7話

なおちゃんはとまどいながらもついていきました。

おばあさんの家は、歩いてほんの5分のところでした。

それはごく普通の家でした。

なおちゃんがとまどっていると、おばあさんが笑いながら言いました。

なんだい。思っていたのと違うかい?魔女の家みたいでなくて悪かったね。

なおちゃんが慌てて否定すると、

いいさ。本当のことだからね。さあ入った入った。

おばあさんはそう言って、なおちゃんの背中を押しました。

なおちゃんが通された部屋は、4畳半ほどの小さな部屋でした。そこには小さなテーブルと椅子が2脚置かれていました。

なおちゃんが椅子に座ると、早速おばあさんが話し始めました。

おばけのたまごというのはね。おばけの王様が人間を試そうとして世に放ったものでね、呪いがかかっているんだよ。

その呪いというのはね。好きな人の命をたった1回だけ救うことができる。ただそのかわりにその力を使った者は、たまごの中に吸いこまれてしまう。

そして命を救われた者が行方不明になった思い人のことを忘れなければ、目を覚ますことはない。

と言うものさ。

あれ、となおちゃんは思いました。

でも私、ヨシオ君のことを忘れていませんよ?

落ち着きな。この話には続きがあるんだよ。

10年間片時も忘れることなく、行方不明の思い人のことを待ち続けることができたなら、思い人はたまごの中で目を覚ます、というものだよ。

あんたは、本当に10年間行方不明の思い人のことを待ち続けていたのかい?

片時も忘れることなく?よそ見もしないで?

すごいもんだねえ。もうそれは小さな奇跡だよ。

でも、私の命はヨシオ君に助けられたから、ヨシオ君のことを待つのは少しもつらいとは思わなかったわ。

あんたのおかげで呪いが一つ解けたのさ。

たまごの中の思い人が目を覚ますんだよ。

ただしたまごの外には出られないけどね。

でもヨシオ君は目を覚ましません。

おばあさんがちょっと貸してごらん。

と言うので、なおちゃんは不思議なたまを手渡してしまいました。

するとおばあさんは、おばけのたまごを杖の頭で、コンコンと叩きながら言いました。

ほら寝ぼすけ、いつまで寝てるんだいと言いました。

するとのっぺりしたたまごの表面に、まっ黒な目玉が二つぱっちりと開きました。

たまごはしばらくの間周りをキョロキョロ見ていましたが、ふと、なおちゃんに目をとめました。

あれ、なおちゃん、大きくなったね。それにきれいになったね。

でもおかしいな、なんで目が覚めたんだろ。なおちゃんには、もう会えないはずだったのに。

おばあさんが言いました。

それは、このお嬢ちゃんのおかげさ。あんたのことを10年も思い続けていたからさ。

そっか。なおちゃん、ありがとね。また会えるなんて思っていなかったから、とても嬉しいよ。

なおちゃんは、おばあさんからたまごを受け取ると、胸に抱きしめました。

涙があとからあとから流れてきます。

ヨシオ君、ヨシオ君・・・、あとは言葉になりません。

おばあさんが言いました。

積もる話もあるだろうから、今日はこれでお帰り。

詳しい話は、また今度してやるからね。

おばあさん、ありがとう。

なおちゃんは、夢見心地で帰りました。

なおちゃんは部屋に入ると、たまご、いえもうヨシオ君ですね、に聞いてみました。

たまごの中は、どうなっているの?

ごめんね。たまごの中に吸いこまれた瞬間に、眠ってしまうみたいなんだ。

だから、何も覚えていないんだよ。

それよりも、なおちゃんのことを教えてよ。

なおちゃんは、ほほを赤らめながら言いました。

いつもおんなじことの繰り返しだよ。

特別なことなんて、一つもなかったわ。

なおちゃんは、本当はヨシオ君のことをどれほど心配したのかとが、毎日ヨシオ君のことばかり考えていたって言いたかったのですが、気恥ずかしくて言い出せませんでした。

その夜、なおちゃんの部屋は夜遅くまで灯りがついていました。

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