第24話 冒険者ランクと魔法収納・前編

『こんにちわ、リロアです。

いろいろバタバタしたけど、とりあえず夜雲の冒険者登録試験(?)は合格ってことで、ギルドカードの発行してもらえるみたい。

 これでまずは冒険者組合ギルドに来た目的のうちの一つを達成したわけだけど、あとは色々と報告の類がたっぷり残っているんだよね。

 まぁ、この報告をするって言ってたら、先にドタバタが始まってしまって、えらく時間がかかってしまったわけですが・・・。

 とりあえずまずは、回収したギルドカードからお返ししていくべきですかね』


◆1 冒険者ランク

 夜雲のギルドカードの発行は従来の機器は使えないので、応接室で対応することになった。

 朝にフローラの報告がてら、組合ギルド旅団クランの話し合いがあった場所だ。レーナとフローラは朝にもこの場にいたので、結局また戻ってきたことになる。朝の話し合いからすぐに騒動が起こっていたため、先に使っていた飲み物のカップが4つまだテーブルに並んでいた。

 ユッカがカップを片付け、レーナが夜雲達に席を進めて手続きが始まった。

 リロアが並行して報告も行いたい旨を伝えたので、レーナが夜雲の冒険者登録の手続きをする横でユッカがリロアの対応を行うこととなった。

 その時何度か応接室の前を通りかかった組合ギルド職員に声をかけて、必要な書類と道具を持ってきてもらうようにお願いする。書類等を抱えて忙しく職員が応接室・受付・書庫と走り回るなか処理は進んでいった。


「随分と色々なことを根ほり葉ほりと聞かれたものでござる」


 さすがの夜雲も少しくたびれたように言葉を吐いた。


「街の人からの依頼で、お金を稼ぐという仕組みである以上、冒険者の方にも情報を担保に信用を得ていただかなければ成り立たないようにしているんです。冒険者がならず者の集団なんて言われていたのは昔の話にするためにも。」


 レーナはあちこちと書類に目を落としながら、夜雲の疑問に答えを返した。


「冒険者達の権利獲得のため、残された子供たちの補償のため、街の困りごとの解決のため、適正な相場での冒険者の派遣の仲介。国がやってくれないことを冒険者達が集まって自発的にやり始めたことが大きくなり、それが今の冒険者組合ギルドにつながっているんです。今、冒険者の皆さんが大手を振って街を歩けるのも、先輩方がそうやって少しづつ信頼を勝ち取っていった実績の上に成り立っています。」


そこまで言うとレーナは書類に落としていた視線を外して、夜雲をまっすぐ見据えると


「小次郎さんにもそのあたり十分理解していただいたうえで、規律ある行動していただけたらと思います。」


と、凛とした声で言った。


「し、承知したでござる。」


 後ろめたいことはないはずだが、その視線の強さに夜雲はすこしたじろぐ。

 レーナは、その返事を聞いてから一拍置き。


「特に小次郎さんの場合は事情があるとは言え、ギルドカードが通常の物とは異なっているんです。いくらカミリアこの街躊躇いなき刃ノントワイスソードの公認・後見があるとは言っても、あらぬ誤解を受けるかもしれません。本当に誤解であるならフォローは出来ますから、くれぐれも早まった行動はしないでくださいね。」

「肝に銘じよう」


 その返事を聞くとレーナはニコリと表情を崩して微笑む。

 そして、夜雲の目の前に一枚のカードを差し出した。


「これがあなたのギルドカードです。いくら躊躇いなき刃ノントワイスソードの後見があったとしても、実績の少なさと、その・・・保有されている魔力量の少なさから位階ランクはFランクからとなってしまいます。」

位階ルアンクというのは?」

位階ランクというのは、簡単に言えば冒険者の実力と実績を簡易的に見える化したものになります。数多くの依頼クエストをこなし実績を積みあげ、組合ギルドへの貢献度が高いと認められたり、強力な魔物討伐の達成したときなどに、位階上昇ランクアップが認められて、より多くの報酬を得ることが出来るようになります。」

「拙者の位階ルアンクはエッフといったでござったか?」

「Fランクは、基本的に冒険者登録した際に、最初に与えられるランクです。

簡単に説明すると・・・


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

●冒険者位階ランクについて

Aランク・・・数多くの依頼クエストをこなし、組合ギルドに多大な貢献をしている。依頼クエスト成功率、高難度クエストの達成率ともに高い数字を維持し続けている。個人としての戦闘力に申し分がないと判断され、受注できる依頼に制限がない。組合ギルドにより割増の報酬や一部消耗品の補填が受けられるなどの特典がある。しかし、冒険者としての立ち振る舞いにも高潔や清廉であることなど、冒険者の指標となるべく内面的な部分も求められるため、この位階ランクまでたどり着ける者、また維持できる者はそう多くない。

Bランク・・・十分な経験と実績を積み、戦闘力としてもオーガ等大型モンスターとの戦闘にも対応できる実力を持っている。ベテランと言われる冒険者達だが、このクラスへの昇格は状況判断力のある・なしが、大きな判断基準とされている。

 冒険者として、冷静に撤退時期を見極められるか、いわばリーダーとしての資質を求められる位階ランクとなる。

Cランク・・・一人前の冒険者言われるランク。基本的に標準的なものであれば依頼クエスト運搬キャリー護衛ガード収集ギャザーと内容を選ばずこなす能力を持つ。一般的な冒険者のランクとされるが、ここまで上がってこられるのは冒険者登録をした中でも一部である。

 冒険者として負傷の際の治療費の一部負担や、組合ギルド併設の簡易宿泊施への利用権利などその立場は手厚く保護されるが、一方でここより上のランクについては、街の防衛等を目的とした組合ギルドの緊急招集には必ず応じる義務が生じる。

Dランク・・・半人前ランク。冒険者登録をして、比較的簡単な依頼クエストをいくつかこなすことで、比較的簡単に昇格の機会を得ることが出来る。ただし、これ以上のランクへ上がろうとした場合、単独ソロ大型小鬼ホブゴブリンもしくは、それ相当の魔物討伐が出来ることが必須条件となるため、採取専門の冒険者「収集家コレクター」は、このランク止まりとなる。ただし、組合ギルドの緊急招集に応じる必要はない。

Eランク・・・駆け出しと呼ばれるランク。冒険者登録をしてから半年以上たてば、ここへ自動的に昇格する。ランクこそ上だが、組合ギルドの保護プログラムを受けられなくなると言うだけで、ほぼほぼFランクと違いはない。

Fランク・・・冒険者登録した際に一番最初に与えられる冒険者位階ランク。冒険者としての心構えの無料講習や各種訓練の割引など受けられる。冒険者の研修や試用期間と言った意味合いが強い。いくつか依頼をこなせば最短で3ヵ月、何もしなくても半年経てば、Eランクへ昇格すると言われる。最短でも三か月の期間を設けるのは、登録者の資質を見る意味合いが強い。


Gランク・・・特別位階ランク。ギルドカードの仕組みは、特殊な装置を通すか、本人の魔力を込めなければ見ることが出来ないという、強固な情報保護機構を持ちながら、非常に個人特定において優秀である。

 そのため冒険者以外でもギルドカードの所持を推奨して住民サービスと紐づけるなどの施策を行う国や地域が多い。いうなれば、冒険者以外の一般人が持つために存在する位階ランクである。また、冒険者を引退した場合もGランクとなる。

Sランク・・・特別位階ランク。実績と依頼達成をするだけでは到達できない位階ランク。その昇格条件は、時にドラゴンの単独討伐、もしくは戦術級タティクスクラスの魔力を持ち操るなど、実績より圧倒的戦闘力を有していることが条件となる。

 冒険者の地位向上のため、その心構えや立ち振る舞いなど対外的な印象にも注力する冒険者組合ギルドにおいて、多少の性格に難があっても、飛び級でこの位階ランクが与えられることがあるという。まさにAランクから順当な昇格とはならない飛び級的な事例がいくつかある。それはある意味で、組合ギルドの監視下に置く意味合いにも取れるため、名誉位階フォーナランクでありながら皮肉を込めて『組合の手綱』ギルドブライダルと呼ばれることもある。

 実際Sランクのギルドカードは他と全く違ったものとなり、その詳細はほとんど明かされていない黒塗りの箱ブラックボックスならぬ漆黒の札ブラックカードである。

――――――――――――――――――――――――――――――――――


・・・とまぁ、小次郎さんの場合も、今は冒険者として一番下のランクになりますが、Bランク以上冒険者が指導役として随伴同行してくれたり、駆け出しを狙った決闘を吹っ掛けられた時の助っ人の派遣、生存術等の訓練費用の割引など、この期間しか受けられないサービスプログラムがあります。あとは基本的には3ヵ月から半年生き残ることが出来たら、自動的に位階上昇ランクアップしるのが特徴といったところでしょうか。何事も初めてが初心者期間みたいなものです、おそらく小次郎さんの実力でしたら3ヵ月後にはEランクですよ」

「3ヵ月は、昇格出来ないという事でござるか」

「わざと高難度の依頼クエストから弾くことで、駆け出しの冒険者を守る意味合いがあるんです。登録できたことで気が大きくなって、無茶をする子も絶えませんから。あとは魔法の適性や能力、戦闘力はある程度試験棟で判断が出来ても、性格というか人柄というものは今日のような試験では判断できませんから。依頼クエストへの意欲とか、依頼人クライアントとの接し方とかを3ヵ月から半年かけて見させてもらうわけですよ」

「なるほど・・・でござる」


 逆を言えば、半年で落第点を言い渡される冒険者がいるということである。

組合ギルドはFからEへは何もしなくても昇格と言うが、本当に何もしない者は容赦なくギルドカードはGランクへ書き換えられる。すなわち引退に追い込まれ、冒険者としての適性無しの一般人とされるのである。

 なおGランクからFランクへの昇格は、BからA以上の高い壁があると言われ、これを乗り越えたものは、Sランクになったものより少ない。


夜雲は机の上に差し出された自分のギルドカードに目を落とす。


「先にリロア殿から見せてもらった物とは、幾分違うようでござるが」


 夜雲が差し出されたカードを手に取って見つめる。色々細かく情報が刻まれているようだ。何が書かれているかは、さっぱりわかないが、以前にリロアに見せてもらったものは何も書かれていなかったはずだ。


「現在、多くの地域で使われているギルドカードは、持ち主本人の魔力を込めることで、その情報が開示されるものになっています。これは偽造や他人のカードを使ったを防ぐための措置でもあります。しかし、小次郎さんはその魔力の少なさから、ギルドカードに記載された情報を呼び出すための魔力を込めることが出来ません。ですので最初から最低限の情報が記載されたものをお渡しする事になります」

「今のギルドカードになる以前は、みんなそうだったと聞いたことがあります」


 夜雲の隣に座っていたフローラが言う。彼女も当然ギルドカードを持っているが、やはりこの役雲のギルドカードは珍しいと思うようだ。


「以前はそうでしたね。ギルドカードも色々進化しているんですよ。これは見た目こそ昔の物ですが、現行のシステムに対応してますから、多くの冒険者組合ギルドでお金の引き出し預け入れなんかも出来ますよ。」

「あっ、私からの昨日の謝礼の分は・・・」

「この場で、預け入れの処理をすることも出来ますが、どうされますか?」


 フローラとレーナの視線が夜雲に注がれる。

 しかし夜雲は何を言っているのか理解が出来ていないようで、また隣に座っているリロアに視線を送った。


「お金を冒険者組合ギルドが預かってくれて別の地域の冒険者組合ギルドでもそのお金を受けとることが出来るから、かさ張る大金抱えて旅に出なくていいってこと。しょっちゅうあっちこち飛び回って、ほっとんど家にいない冒険者みたいな根無草連中にはありがたい仕組みよね」


 リロアはユッカとのやり取りのなか求められた書類にサインをしながら、視線を返すこともせず答えた。


「どうせ、探索先のダンジョンではお金なんて何の意味もないものですから、同じ重さの水を持っていく方がよほどいいです。途中で行商人と行違ったりすることもあるので、多少の路銀は持っておくべきかと思いますが」


 フローラが自身の経験から悟ったようなアドバイスを次いで話す。


「金は天下のまわりもの。言う通りなのでござろう。しかし拙者は、この世相に疎い。幾分かの路銀を手元にいただき、のこりはこのなるものの中に入れていただくことは出来るのでござるか」

「ええ、もちろん。フローラさんもそれでよろしいですよね」

「私は、恩人に御礼が出来れば。どのように使っていただいても構いません」

「フローラ殿、心遣い感謝いたす、ありがたく頂戴するでござる」


 自分の横に座るフローラに、両手を膝に置き頭を下げる夜雲。簡易的な形の礼ではあったが、ピシッと下げられた頭はしっかりと3秒間深いところで止まっていた。


「い、いえ・・・私はむしろ助けていただいた身。組合ギルド依頼クエストの受注という仕組みがあるため、このような形での御礼となってしまい大変恐れ入る次第です。本来であればあなたが直接受け取っていただくべき報酬だと考えています。どうかそのようにかしこまらず頭をお上げください」


 フローラも一瞬たじろいだが、しっかりとした返礼をする。見た目の若さに似つかわしくないような堂に入った所作だ。名家「白鷹ギャビン」ならではの教育のたまものなのだろうか、いや、もっと前から何回も繰り返しやっていたかのような。そんな違和感を、リロア・レーナ・ユッカの三人は感じた。


 夜雲は、フローラの言葉のあともゆっくりとひとつ数えてから頭をあげた。


「では10日ほどの宿への滞在費と、10日ほどの探索に必要な水・食糧を買い込めるだけのお金をお渡しして、残りはこちらでお預かりしておきます。もし別で入用になりましたら、いつでもカウンターでお声をおかけくださいね」


 レーナがササッと書類に文字を書き込む。


「しかし、余分な路銀を持ち歩かなくてもいいのであるなら、それはありがたい仕組みでござる。しかしリロア殿のあれ、何と言ったでござろう、魔法収納マゼックバックスでござったか、それを使えば大金とて持ち運びが出来るのではないか?」


 レーナ、フローラ、ユッカ。三人がギョッとして驚きの表情を見せる、一瞬、周囲の空気が氷ついた。

 リロアは一つ書類にサインを書き終えると、ペンを置いて夜雲に向き直った。

そして一つ呼吸をおいて話し始めた。


・・・続く

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