第11話 小さな冒険と今勇者
『こんにちわ、リロアです。
彼の名前は「
二人でいるときには「夜雲」って呼ぶかもしれないけど・・・ゴニョゴニョ
まぁ、私も赤い髪の正体隠して、「リロア・リブロラ」って冒険者用の名前を使って本名を隠しているわけで、このくらいの秘密の共有があってもいいかなぁと…。
ってことでもうすぐ街です』
◆1 酒とベッド
街に近づくにつれて、道はしっかりとして、時たま馬車や冒険者ともすれ違うことがあった。
太陽の位置はまだ高い、間違いなく夕暮れまでには街に到着出来るだろう。
街に入るのは、日が暮れるまでがいい。
何故ならば、夜だと街に入るための取り調べや手続きが圧倒的に面倒だからだ。翌朝まで、塀の外で待機を命じられることだってある。
ましてや、見た目が異質な上に、ギルドカードも持っていないどころか知らないという身元不明な男も一緒なのだ、入り口で時間がとられるのは覚悟しておかなければならない。
場合によっては野宿の可能性だってある。そんなのはごめんだとリロアの足取りは自然と早くなった。
街が見えた時から、口は料亭の酒とスープの口であり、体は宿屋のベッドと太陽の匂いがするシーツの体なのだ。
「もう少しで着くよ、急ごう夜雲」
リロアは後ろを夜雲を急かすべく振り返った。
しかし、夜雲は道をはずれた森の中の方向を見ている、じっと何かを探してるかのようだ。
「何?何かあるの?寄り道してる時間はないんだけっど」
リロアが言い終わる前に、夜雲は森の中へと飛び込んだ。黒い影が風を切るように、木々も枝も茂みもまるでないかの様に森の中へと吸い込まれていくかのようだった。
「ちょっと、あなた方向音痴っぽいんだから、そんな森の中進んだら・・・」
リロアの制止も届いたかわからないほどに、一瞬でその姿は小さくなっていた。
「もう何なの?!」
このまま街に一人向かうわけにもいかず、このまま放っては置けないと、後を追いかけようと茂みをかき分けたとき、リロアの耳に悲鳴にも似た「助けて」が聞こえてきた瞬間、彼女は茂みに肌と服をひっかけることも気にせず駆け始めた。
◆2 小さな冒険
ちょっとした冒険のつもりだった。将来冒険者になったときのための練習。
だから、少しだけ壁の外の世界を見てみたかった。
4人で集まった、初めての小さな冒険者の小さな冒険は、その最初で絶体絶命の危機を迎えていた。
2人の少年、その陰で怯える2人の少女は、ゴブリン達に囲まれていた。
―――――――――――――――
ある日友達とかくれんぼをして遊んでいたとき、街を囲む壁の周りで小さな穴を見つけた。大人は無理だが、子供は這えば抜けられるような横穴だ。
隠れ場所に選んだようん場所だから、一通りの多い場所から、あまりよく見える場所ではない。
サーニャは子供心に好奇心がくすぐられた。
かくれんぼをしていたのに、鬼であるハッシュに自分から声をかけた。
「ねぇ、穴がある!外に繋がっているかもしれないの!」
かくれんぼは即刻中止となり、問題の穴の場所に子供たちは集まった。
穴を見つけた少女、サーニャ。
強気でリーダー風を吹かせる、ハッシュ。
既に魔法を操る才覚を見せる少女、ミヒロ。
やさしく食いしん坊な、ダック。
同じ年に近くで生まれ、言葉が喋れるようになる前から付き合いのあった彼らは、将来冒険者になって、一緒に旅をする約束までしていた。
冒険に夢を見ている少年と少女達だった。
ただ冒険に出るのに、彼らはまだ幼かった。
街は城壁に守られ、出入りする門には当然門番がいる。簡単に外には出られない。
親に話しても外は危険だからと、取り合ってもくれない。
でも、街を歩く冒険者の姿が、光り輝く装備と佇まいが。
サーニャの宿、その
物語で語られる英雄たちの活躍が。
少年少女たちを、壁の外へと駆り立てていた。
「明日、ここから出てみよう」
ハッシュが言った。
「でも…外は危険だって」
と言ったのはダックだ。
「近くなら、だっ大丈夫なはずよ」
根拠もなく言ったのはミヒロ。不安より好奇心が勝ったようだ。
「お母さんに怒られないかな?」
外より内の心配をしたのは、サーニャ。
「すぐ帰ればいいだろ。みんなだって見てみたいだろ」
すぐ帰ればいい、ハッシュのその言葉に少年たちの決心は固まった。
その夜、サーニャは小さなカバンに、宝物を詰めた。
皆と一緒に拾った綺麗な小石、水を入れただけのポーションの空き瓶。
冒険に出るんだ、ハッシュは期待に胸躍らせる。
稽古につかう木剣を抱いて布団にくるまった。
ミヒロは自分が皆を守ると意気込んだ。
意識を集中して放った風魔法は、カーテンを揺らした。
もし道に迷ってもいいようにと
ダックは、皆に分けられるくらいのお菓子を準備した。
すぐ帰る、危険なことは何もない、大人たちが言うほど壁の外は危険なわけじゃない。夜の暗さで大きくなる不安を、好奇心で塗りつぶした。
―――――――――――――――
◆3 白鷹
「来るな!来るな!!」
ハッシュは、必死に木剣を前に突き出して叫んでいた。
横穴を抜けた先、壁の向こうの世界は、拍子抜けする世界だった。
変らない空の色と、なんの変哲もない景色。
壁を越えたらただそれだけで、大人に近づけるとどこかで考えていた。
(違う、こんなはずじゃない!)
壁の向こうに、夢を見ていた少年は、自分の期待を裏切られたくない思いから
「もうちょっと、向こうに行ってみようぜ」
と言ってしまった。
そして、危険を引き込んだ。
「ミヒロ、お前の魔法で何とかしろよ!」
「無理よ!無理!!私の魔法じゃ通用しない、絶対に無理!」
「ミヒロちゃん、泣かないで立って!逃げ
サーニャはしゃがみ込むサーニャの腕を引っ張って立たせようとするも、泣きじゃくるミヒロは頭を振って動こうとしない。
少年たちを囲んでいるのは、ゴブリンだ。
子供の身長くらいしかない魔物。緑色の肌に、頭髪のない頭に、爛々と光ると光る黄色く大きな瞳。鼻と耳は不格好にとがって、耳まで裂けた口には不揃いな歯と牙が並んでいる。一言でいえばその容貌は醜悪であり、見れば不快感を覚えた。
魔物の中でも特に低俗とされ、一匹であれば冒険者ではなくても大人一人で対処は出来る程度の強さしかない。
しかし、奴らは道具を使い、子供程度の知能があり、狡猾で残忍だ。
ハッシュは、腕を精一杯伸ばし木剣を少しでも遠くへと突き出した。木剣の先までが自分のエリアだ、入ってくるなと必死に強がっているのだ。
今にも、腰が抜けてその場にへたり込みそうになる、剣も捨てて逃げ出したかったが、後ろの女の子二人が。自分の横で、お菓子を詰め込んだ大きなカバンを盾に女の子を守ろうとするダックがそれを許してくれない。
ゴブリンたちはそんなハッシュ達を遠巻きしてに様子をうかがっていた。
警戒して距離をとっているわけではないのは分かった。
どのゴブリンも、ニヤニヤと笑っているかの様だ。
明らかに馬鹿にしているのだ、恐怖に慄く少年たちを見て楽しんでいるのだ。
木剣を持つてが震える、足に力が入らない、目にも涙が浮かんでくるのが分かった。
「助けて・・・助けて―!!」
ハッシュは叫んだ。
街から遠くないとは言っても、穴の場所は門番が詰めている場所から離れていた、ましてやここは森の中、声が届くはずもないことはみんな分かっていた。
4人の中のリーダー格で、負けん気が強くて、いつも強気なハッシュが、宛てのない誰かに助けを求めた。ただそれが、少年たちの心を折った。
ミヒロを気丈に励ましていたサーニャもその場にへたり込み、大粒の涙を流して泣き始めた。
ミヒロはサーニャに対して一瞬顔を向けたが、何か掛ける言葉があるはずもなく、顔を伏せてうなだれた。
ダックもその場に力なくへたり込んだ。
「お母さん、ごめんなさい」
ダックの言葉に、ハッシュの目元にたまっていた涙が堰を切ったようにあふれ出してきた。
後悔とか恐怖とか期待とか帰りたいとか、色々な感情がぐちゃぐちゃになってわけが分からなくなって、赤子に戻ったように大声を出して泣いた。
泣いちゃだめだと分かっているのに、止められなかった。
ここで死ぬんだと思った。もう家にも帰れず、母ちゃんのご飯も食べれないんだと思うと余計に涙があふれてきた。
いよいよゴブリンたちは一歩また一歩と彼らとの距離を詰め始めた。
ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながらハッシュの木剣を払いのけよう腕を伸ばした、その時だった。
影が舞った。
一筋の銀光を閃くと、ゴブリンの腕が弾け飛んだ。
影は少年の前に躍り出る。
きらりと光る細身の刃と鷹を意匠が施された柄、細身の体には白く輝く軽鎧。
そして黒く長い髪をなびかせて、少年たちを庇う様に降り立った影
「バニラお姉ちゃん!!」
ミヒロが叫ぶ!
「
・・・続く
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