第7話 お礼はお肉を所望する
『こんにちわ、リロア・リブロラです。
とりあえずと言うか、まさしく取るもの取ったし、改めて、町に向かいたいわけですが・・・。
まぁ女の一人旅が危険というのは、今しがたも身を持って知ったわけで・・・。
私も冒険者の端くれとして、多少なりとも魔法に覚えがある事にはあるのですが、『私の魔法の特質』もあって出来れば一人旅というのは避けたいわけで、出来れば前衛をこなせる人を連れたいのですが、男の人との二人旅というのもそれはそれでまた危険だなとも思うわけです。
・・・そもそもこのサムライ風な彼が付いてきてくれるかどうかって、ところからなのですが』
◆1 助けてくれた、お礼に
「改めて、助けてくれてありがとう。何か、お礼がしたいとは思っているんだけど、短い旅路の予定だったから、なにぶんお礼になりそうなものがなくて」
リロアは両手を広げて、男に向かって何も持ってないことアピールする。
「で、この先の町まで私を送ってくれたら、そこで何かお礼するから・・・その一緒に着いて来て、っわ!!?」
リロアが最後まで言い切るまでに、男はリロアの肩をつかんだ。
思わず、リロアから驚きの声が漏れた。
「に、にく・・・」
「えっ?」
「礼には肉を所望したい!干し肉でもよいのだが」
男は目をギラつかせながら、リロアの肩を揺らした。
「えっ、えっと携行食の干し肉ならあるけど、それでいいの?」
リロアは唖然としながら聞き直すと、男は素直にコクリと頷いた。
◆2 キャンプ地にて
「それなら町に行くより近いから」
と、リロアの提案で一端キャンプまで引き返すことにした。
そこはリロアとゴズたち4人で、昨晩拠点として野営した場所だった。
リロアは町で受けた依頼をこなすため、その場でゴズたちとパーティを組み出発した。
すんなり行けば、3日程度の行程だった。内容のわりに払いがいい。おいしい仕事だと思っていた。
行き釣りの
それは彼女にとって、都合のいいことだった。
しかし、2日目の朝に自分が「
荷物を残して森の奥へと逃げ出して、目の前の男に出会った。
キャンプ場は逃げ出したときの状態とほぼ変わっていなかった。
小さな鍋がかけられた焚火のあと、食い散らかしたであろうゴミ、寝床にしていたであろう簡素な敷物。
そして三人分の荷物があった。
リロアとジャゴとジンバのものだった。一緒にあるはずのゴズのモノはなかった。
ゴズもここに戻り、自分の荷物を持っていったのだ。
よく見れば、ジャゴとジンバの荷物は開けられ回復薬や包帯、食料など一部の中身が抜かれていた。
が、リロアの荷物に手が付けられた様子はなかった。
「何それ。ただの悪党に染まり切れない、冒険者はつらいね」
とリロアが苦笑交じりに独り言を吐いたのが、数刻前のことだった。
リロアは焚火にもう一度火をつけ、鍋に湯を張り、干し肉を入れてふやかし、手持ちのわずかな香辛料、それまでの道中で摘んでいた
男はよほど腹が減っていたのか、そのままでいいからとリロアを急かしたが、リロアは「命を助けてくれたお礼だから、あまり粗末なものはね」と取り合わず、やがて
やがて差し出された肉たっぷりのスープを、男は器まで飲み込んでしまうのではないかという勢いで平らげると「お代わり」を要求した。
「そんなに、お腹へってたの?」
リロアは空になった器にスープを注ぎながら聞いた。
「武士は食わねど・・・とはいうが、さすがに限界でな」
「ブシハクワネド」の意味がよくわからなかったが、リロアは聞き返すことをせずに、男にスープのおかわりを渡した。
器を受け取った男は、熱さ覚ましに数度息を吹きかけ、一口飲み込むと続けた。
「世話になっていた村を出てから、当てもなく歩いておったのだが、この森から抜けられなくてな。何日か彷徨っていたのだが、やがて、持たせてもらった食料がなくなった。その時はそんなに心配していなかったのでござるよ」
男は懐から、木の棒なようなものを2本取り出し食べていた。『箸』というそれを使い、器の中のキノコを器用につまむと、スープの中から引き揚げた。
「このキノコのように、世話になった村で食べられるキノコや、木の実などを教えてもらっていたから、食べるには困らないだろうと」
「世話になった村?」
リロアはこの異質な姿の男がどこから来たか、疑問に思っていたので、ここには食いついた。
「このような森に居を構える者たちだったな。たしか、イラーフの民と名乗って負ったでござるよ」
「イラーフの民?・・・聞いたことないな」
リロアは、記憶の引き出しを探ってみたが、そのような民の名前に憶えがなかった。
「そうでござるか。確かに村の外とは交流を持ちたがらぬ者たちだったが」
「ふ~ん、そんな人たちがいるんだね」
「村のものと、魔物の襲来に立ち向かう事もあった」
「森近くの村なら、魔獣が入り込んだり、ゴブリンとかの魔物との小競り合いみたいなのは、よくある話だね」
初めて聞く村とその人たちだったが、別にそこまでの興味はないのでリロアは適当に流した。
男は箸でつまんだキノコを口に運ぶと、しっかりと咀嚼してから飲みこんだ。
両手でしっかり器を支えて、背筋を伸ばしたまま口を器へ近づけるようなことをせず、スープを胃へと流し込む。その姿勢は凛として整然。
(ただの食事でも飽きさせないな)
リロアは、食事の様子を黙って見ていたがそんなことも思っていた。
「ただ、行けども行けども森を抜けることが出来なくてな。そのうち気が付いたのでござるよ」
「何に?」
「動物や魔獣といったものに、一切出会っていないこと」
「うそっ?そんな馬鹿な!」
この森は、木の実、キノコ、薬草といった恵みにあふれている。男でも飢え死にしない程度には、その恵みにありつけるほど。
恵みが豊かであれば、当然動物が集まってくる。そして、その動物を狙って、肉食の大型獣やゴブリン・オークといった人間に害をなす魔物も集まってくる。
そういった意味で言えば、この森は比較的危険な森なのだ。そんなに大きな森ではないとは言え、リロアもゴズたちと
「人というのは不思議でござるな、体が肉を求めているのが分かったでござるよ。どれだけ果実と茸で腹を満たそうとも、その欲求は抑えられなかった。兎や鹿、猪じゃなくてもよかった、蛇でも蛙でも肉厚の虫でも良かったが、ついぞ見かけることがなかった」
リロアは、男の言葉に周囲を見回した、たしかに意識をしてみると周囲に全く命の気配がしない。
鳥のさえずりは、はるか遠くからしか聞こえず、毎夜悩ましい羽虫すらその存在を感じないにように思える。
「それでも、眠ることが出来れば、多少気持ちが楽になった。しかしそれもなかなか寝付けなくなってきてな。そんな時でござるよ、お主に足蹴にされたのは」
そこまで言って、男は器のスープを飲み干した。
「ご、ごめん」
リロアはバツが悪そうに俯いた。
「いや。お主のおかげで久方ぶりに腹が満たされた。ありがたい。馳走になった」
男は、さっきの弔いと同じように、顔の前で両手を合わせ
「ご馳走様」
といった。そして男は立ち上がると、焚火のそばを離れ、適当な場所でリロアに背を向けて横になった。
「ということで、腹も満たされたので拙者は眠る。本当にしばらく眠れていなかったのだ。助けた礼としては、これで十分。町に行ってまでの礼は不要でござるから、拙者の事は気にせず行くがよいでござる」
「っちょ、ちょっと!」
言い終わるが早いか、リロアの呼び止めも聞こえていたのか聞こえていなかったのか定かではないが、あっという間に、男の呼吸は寝息へと変わっていた。
続く・・・
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