第3話 冷艶の刃

『こんにちわ、リロアです。

前回に引き続き修羅場継続中です!

何とか男の人が私を助けてくれるみたいで、少しだけ状況は好転したと思います。

ただ、この人が誰なのかハッキリしないですし、強いのかどうなのかも不明。

魔法の一つでも使えるならって思うんですが、この人魔抜けマヌケっぽいんですよね。悪いとは思いますが、囮にして逃げちゃった方がいいでしょうか。

でも、この人の武器があまりに綺麗で私は目が離せないでいます。』


◆1 武技スキル


 男が 腰の武器を抜いた。


 ただそれだけで周囲の温度が何度か下がったかのようだ。

重い空気がより一層張り詰める、いや凍り付いたかのようだ。

 森には変わらず暖かな陽光が差し込み、さわやかな風がリロアの赤髪と男のリボンを揺らしていた。

 男の周辺だけがどこか別の空間であるかのような空気をまとっていた。


(あぁ・・・なんて綺麗・・・)


 異様な空気の中で、男が抜いた武器から目が離せないでいた。

華美な装飾などない、ただシンプルな鉄の美しさと流麗な曲線に魅入られる。

 白とも青とも銀とも言い表せないその刀身が返す光は冷たく美しく艶やかで、まるで水滴を携えてその光を乱反射さているかのように、艶めかしく揺らめいているようだった。


 リロアは吸い込まれるような、その刀身にほぅとため息をつきそうになり、慌てて我に返った。

確かに思ったのだ、あれだけ美しいのなら


斬られてみたい・・・


と。


(いやいや、あり得ないでしょ!)


 とリロアは頭を振って、あり得ない誘惑を振り払い3人組の男の方を向き直った。

きっと、も自分と同じあり得ない思いを感じているのだろう。


 さっきまで悪態をつき汚らしい言葉を喚き散らしていたジャゴとジンバも押し黙り、ゴズは額に一筋の汗が流れていた。


(KATANAだ、サムライソードだ)


 どんな冒険者だって、盾崩れに身を窶したようなゴロツキだって知ってる。

寝耳物語に聞いた御伽噺で、脚色された英雄譚で、それは魔を祓い水を断ち炎を穿つ・・・冒険者を目指した少年心に憧れた武器。


 目の前に現れたそれは、その辺の武器屋に並ぶレプリカや、形だけの子供のおもちゃとは違う感じがヒシヒシと伝わってくる。

(間違いなく本物だ。)

 ゴズは直感的にそう思った。

 いや、本物は見たことがないし鑑定眼を持っているわけでもないから、実際本物かどうかはわからない。

が本物と思わせるような何かが男が抜いた武器から発せられているようで、目が離せない。


「あっ、兄貴!あれサムライソードだ!間違いねぇ、本物だ!いや本物かどうかは知らんけど、俺あれほしい!」

「ちょうど数も三本だ!俺たちでちょうど一本づつだ!なぁ兄貴、俺腰に差してるやつでいいぜ」

「じゃっじゃぁ、俺は今持ってるやつだ、この半月刀もちょうど替え時だと思

ってたんだ」


 ナイフを使う細身のジャゴと、半月刀を使う小柄なジンバはそれぞれ獲物を定めたようだ。


「俺は残りもんだってか、まぁいい。本物サムライソードと、そこの魔法使いと合わせりゃ十分な釣りが来るぜ。ただ、そこにヒラヒラ舞ってる愛らしいリボンはいらねぇ。それだけはお前に返してやるよ。お墓の中に入るときにはちゃんとそのボサボサ

頭に着けて寝んねするんだな!」


 ジャゴとジンバは大盾の男のジョークに大声を出して笑う。

 二人の笑い声に満足したかのように、大盾の男ゴズはニヤリと笑い、スラリと片手剣を構えなおしすと、自慢の大盾の後ろに半身を隠して戦闘態勢をとった。


「もう渡せなんて言わねぇよ。かぶれの剣士ソードマン。その赤髪の魔法使いサラマンドヘアーと関わったことを不幸に思うんだな」


「・・・」


 男は返答しなかった。

 抜いた刀をゴズの方へ突き出すと、手首を返して変形の片手下段の構えをとった。

 その所作の流れは緩やかで淀みがない。その刀身と同じように、見ていると吸い込まれそうになった。


「行くぜ!武技スキル、戦意高揚!士気高揚!常在鼓舞!」

ゴズは、叫ぶと同時に武技スキルを発言させた。

一瞬ゴズの体の周りがぼんやりと光る武技スキルの効果が視覚的に表れている証である。


〇戦意高揚:自身の恐怖心を薄れさせ、闘争心を滾らせる。効果:小 

〇士気高揚:周囲の仲間の恐怖心を薄れさせ、闘争心を滾らせる。リーダ専用の武技スキル。効果:小

〇常在鼓舞:戦意高揚と士気高揚の有効時間を延ばす効果がある。単独での使用では効果を発揮しない。効果時間:中


「面妖な、それはお主の嫌う魔法とやらではないのか?」

 刀を構えた男は、ピクリとも動くことなくゴズを見ている。

武技スキルと魔法は違うぜ!そんなことも知らねぇとは、汚らしいナリ通りの田舎者・・・いや魔抜けマヌケのお前さんには、難しい話かもな!」

 ゴズはカッと目と口を見開き、威嚇するポーズを見せた。


キンッキンッ!


 同時にリロアの耳元で金属音が2つなった。

ハッと彼女が音が鳴った方を見ると、男の刀の影と小型の投擲ナイフが二本地面に突き刺さるところが見えた。

 向こうでは、ジャゴが「っち」と舌打ちをしている。

どうやらジャゴのリロアを狙って放ったナイフを、目の前の男が刀を打ち落としてくれたようだ。

 リロアが反応できなかったのには1つ理由があった。

さっき、ゴズのカッと目と口を見開いたときに彼は武技スキル戦闘咆哮を発動していたのだ。


〇戦闘咆哮:相手の注意を自分に引き付けることで、自身に攻撃を集中させる。盾役タンクの代表的な武技スキル


 リロアはそれによって、ゴズから注意を逸らすことができず、ジャゴの投げナイフに全く反応が出来なかったのである。

 男がナイフを打ち落としてくれなかったら・・・。


「さすがに、こんな子供だましには引っかからんか。」


 ゴズは戦法が通用しなかったことにショックを受けている様子はなかったが

リロアはゾッとした。

 こんな子供だましで自分は今、死にそうになっていたのだ。

男たちが言うように、魔法使いは一人では無力だ。

「あ、ありがとう」

リロアは、男に一歩駆け寄ろうとしたが、今度はその男に突き飛ばされまた尻もちをついた。

「きゃっ!」

と思わず声が出る。

 次の瞬間、今自分が駆け寄ろうとしていた場所に、ジンバが半月刀を振り下ろしながら振ってきた。


ドンッ!


 ジンバの半月刀はちょうど尻もちをついたリロアの足の間に突き刺さり、その衣服の一部を割いた。

「ゲヒャ!」

 顔を上げるジンバと目が合う

「っひ!」

 そのどす黒い光を灯した目を見て、短い悲鳴がリロアの口を割いて出た。

「ゲヒャヒャ!!」

 下卑た笑いを発して、ジンバは跳躍する、後ろから男が刀で横薙ぎに切りつけたのだ。

 リロアから見れば、目の前のジンバの顔が消えたかと思った瞬間、目の前を鋭い銀光が走る形となった。

「ひぃ!」

 銀光は、リロアの髪先をかすめて、その赤髪が何本か宙に舞う。

ジンバは半月刀を抱えたまま、木の上まで跳躍し「ゲヒャゲヒャ」と笑っていた。


「そんな魔法使いお荷物抱えちゃ折角のサムライソードも形無しだな」

片手剣で、自分の肩アーマーをコンコンとたたきながら、やれやれとゴズが煽る。

「そんな事もないでござるよ」

「っハ、強がりを」


 ゴズの言葉に男は答えない。


「ッチ!透かしやがって!ジャゴ今度は外すなよ!」

 ジャゴは頷いて木の陰に身を隠す。

「ジンバもう一回だ!今度は男にお見舞いしてやれ」

 その声に反応するかのように、ゴズの横に影が降り立った。


 いや、落ちてきた。


 ゴズは木の上のジンバが降りてきたと思ったが、違和感を感じて目をやった。


 そこにあったのは、ジンバだったものの上半身だ。


 肩に担ぐように構えていた半月刀は握られたままで、その顔はいつもの「ゲヒャゲヒャ」と笑う表情がそのまま貼り付いていた。

 まるで切られたことに気が付いていないかのようだ。


「うっ、うおぉぉぉ!ジンバ!ジンバぁ!!」


 ゴズは絶叫した、絶叫しながらも決して、盾と剣は男の方向を向けたまま。長年の戦闘経験がうかがえる。

 しかし、その長年の戦闘経験をもってしても、あまりに突然で予想外の仲間の死に声を出さずにはいられなかった。


ドサッ


 ゴズの絶叫に交じって、何か音がした。


 ゴズはそれを木の上に残っていた、ジンバの下半身が落ちてきた音だろうと思った。

 だが、音の方向は明らかにジンバがいたあたりじゃない、まったく別の方向だ。

ゴズはジンバだったものから視線を外して男のいた方を見た。


 リロアを後ろに隠して立っていた男の姿がない。


 ゴズは一瞬前の景色を思い出す、男は確かにそこにいたはずだ。

ジンバの死に動揺したとは言え、視線を外したのは一瞬だった。

その一瞬で消えた。武技か魔法を使った?いやあいつは魔抜けだ。

そんなはずはないと、ゴズは思考を巡らせた。


 ふとゴズは、いまだに座り込んでいるリロアが、自分の方ではなく明後日の方向を向いているのに気が付いた。

(どこ見てやがる・・・?)

その視線を追ってみる。

その先に、男がいた。

刀を上から下へと振り下ろし、ついたばかりの血のりを払っているようだ。


 その足元には、一突きにされ胸元に赤い花を咲かせているジャゴの姿があった。

ゴズが聞いた音は、ジャゴが大地に倒れこんだ音だった。


「ッジャ、ジャゴ・・・!!」


 ゴズは、叫びたいのを今度は必死に抑えた。唇をかみしめるあまり血が滲んでくるのがわかった。

 長い付き合いでもないし、ロクでもない奴らだったが、自分にとっては悪いやつではなかった。長い付き合いになるだろうと思っていた。いつかはのたれ死にすることになるだろうはと思っていたが、今じゃないだろう!ゴズは思った。

 半身を失ったかのような、喪失感と悔しさと怒りと何が起きたのか理解が追い付かない感情の波でゴズは押しつぶされそうになった。


「って、てめぇ何をしやがった。ジャゴとジンバを・・・っこ、この!」


 あまりの感情の渦に、ゴズは言葉をうまく発せられない。

その様子をみて、逆に冷静さを取り戻していくのをリロアは感じていた。

 ゴズは浅く早く、リロアは深く長く、呼吸を整えて心の平静を取り戻していく。

 男はただ一人、息を荒げることなく、再びリロアの前に立ち、最初と同じように刀をゴズに向かって突きだすように構えては、手首を返して動きを止めた。


 その刀身は、リロアが初めて見た時と変わらず、冷たく艶やかで妖しくも艶めかしく揺れているようだった。



続く・・・

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