夏休みよ、もう一度!奇妙で愉快、ちょっと不思議な友情物語。

夏休み、という言葉に郷愁を覚えるようになってずいぶん長い時間か過ぎた。
もちろん大人になっても『夏休み』は存在するが、学生時代特有の長い長い休みにはまた格別な味わいがある。
せっかくの夏休みだ。大いに遊び回るも良し、勉強や部活に取り組んで充実した時間を過ごすのもいいだろう。だが、夏を謳歌する人々を横目に、日陰の校舎裏でぼんやりと立ち尽くしたことはないだろうか。宙ぶらりんな自分をあざ笑い、首をふってつまらない考えを追い出したことは?
この小説の主人公である男子高校生・若月はいたって平凡な、どちらかというと目立たないインドア派である。できるなら部屋でのんべんだらりと過ごしたいが、どうやら家庭がごたついて居心地が悪く、居場所を求めて用もないのに学校に通いつめることになった。
だが、ある日、校舎裏で偶然出くわした見覚えのない同級生によって、突然の非日常に引きずり込まれる。その男・三輪は、若月に「学校の七不思議を作ろう」と申し出る。
七不思議の調査ではない。共に作ろうというのだ。馬鹿げたアイデアだが、同時に、解き放たれたような爽快感がある。現実から切り離され、ぽっかりと空に浮かぶ浮島のような夏休みの校舎という舞台にふさわしい。
強引に引き回されるうちに、次第に若月も三輪と過ごす時間を楽しむようになる。彼らの行状を追うのはとても愉快だった。
遊びにつきあっているだけのつもりだった若月が、ふと日常から足を踏み外す瞬間の下りには背筋に怖気が走った。
もう一度夏休みを取り戻したくなる作品。