「わたし」
壱月 稀莉
思い
突然だが、私には才能がない。
かといって好きなこと、得意なことがない訳ではない。
絵を描くことも好きだし、こうやって文を書くのも好きだ。
けれど、才能はない。
周りの人たちのように何か一つに秀でていることがなく、全て中途半端な人間である。
そんな私でも一丁前に、
『もっと皆の目を引くような絵を描きたい』
『もっと皆の心に響く文を書きたい』
と思ってしまうのだから、人間の心は不思議だ。
私は昔から、人と違うことがしたかった。
それが顕著に現れたのは、小学校三年生のときだ。
私はこの時、マンガ家を目指していた。
絵なんて描いたこともほとんどないのに、ほぼ好奇心で絵を描き始めた。
それからは楽しかった。
どんどん上達していく絵が、自分の想像していることを形にできることが、楽しくて仕方がなかった。
…この時、私はまだこの世界に才能が必要だと知らなかったから。
ある時、父に問われた。
「お前は将来、何になりたいのか。」
だから私は素直に答えた。
「マンガ家に…なってみたいの。」
初めて、家族にちゃんとした夢を告げた瞬間だった。
しかし、そんなことお構いなしに父の言葉は容赦なく私の心を抉った。
「そんな夢は諦めろ。何のために高い金払って英語を習わせていると思っているんだ。」
泣きそうだった。
一生懸命絵を練習した時間を無下にされたような気がして、私の夢を全て捨てられた気がして…悔しかった。
けれど、その数年後、私が言っていた将来の夢は『英語の教師になること』だった。
そして、あの一言を聞いて以来、私は自信を一切持てなくなった。
自分には才能がないことにも気が付いた。
努力しても無駄だと知った。
この時点で、私の心は一回死んでいたのだ。
否、心と言うより感情だろうか。
私は楽しい、嬉しいと思うことはあってもツラい、寂しいと思うことも、感動で泣くこともなかった。
涙のなの字も出てこないくらいだ。
挙句の果てに、自分がストレスを溜め込んでいることにも気が付かず。
私は体に力が入らなくなった。
一時的なものですぐに治ったが、あの時確かに私は壊れていた。
そして今も、私は壊れている。
一度壊れてしまったものを、元の状態に、完璧に治すことなど不可能。
私は壊れた心と体の悲鳴を無視して、今日もまた生きている。
こうやって言葉を綴っている。
先生に問われる。
「将来、何がしたいのか。」
分からない。私には秀でたものがない。
故に、何もかもができない気がするのだ。
私は、アニメーターになりたいのか?
いや、自分にそんな作業ができるはずがない。
私は、小説家になりたいのか?
いや、自分に人の心に残る文を書く才能はない。
私は、私は…
私は、何がしたい?
堂々巡りの思考。
結局、私にはできることなどないのだと知ったのはここ最近だ。
なら何のために私は生きているのか。
何のために、壊れて悲鳴を上げている心と体を無視して、必死に生きているのか。
次々と生まれてくる問い。
どれにだって答えることなど不可能なのに。
そんな問いを頭に思い浮かべながら、今日も私は文字を綴り、絵を描く。
何のためかは分からない。
ただ、意味があるとするならば、それは生きた証を残したいという気持ちだ。
私が筆を執っている間、私は確かに生きているのだと分かる。
誰かの目に留まらなくてもいい、心に刺さらなくてもいいだなんて思えないけれど。
一人でも、私を…私の作品を必要としてくれる人がいるならば。
私は、筆を執り続ける。
生きた証を残したいだけなのに、人に必要とされたい。
嗚呼、こんなにも矛盾しているだなんて。
しかしながら、これも私らしさなのだろうか。
ちぐはぐな想い、矛盾している想い。
中途半端な私にはお似合いだろう?
結局、何が伝えたいのか分からなくなってしまった。
まあ所詮、私が書く文章だ。
ちぐはぐ上等、矛盾していて何が悪い。
私は、私が今思ったことを綴る。
今この瞬間も生きている証を残すために。
「わたし」 壱月 稀莉 @ichi814amour
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