第13話 真の悪役(仮)育成日記(3)SideA※

 この世界には魔法があり、同時に呪いもある。

 それを未熟な魔術師が使うと、反動で命を落としたり、自然災害を起こしかねない。

 なので、魔術師たちが集まる魔術協会は、呪いのことを公言しない。


 というのも全て繰り返しで得た知識だ。

 創造主であるロゼがペラペラと喋ってくれた。

 ちなみにロゼの魔力は異常だが、呪いの使い方は知らないようだ。


 俺は何度も繰り返しているうちに、王宮図書館の最奥にあった魔術本から、呪いの使い方を知った。


 呪いは様々だ。

【侵食】相手をじわじわ苦しめる病のような呪い。

【即死】その場で息息絶える。防御値の高い人物に使うと弾かれてしまう恐れがあり。

【服従】相手の意志を関係なく従えること。


 一例としてはこんな感じだ。小物の呪いから、禁術まで様々なものがある。


 俺はヴィンセントを拘束して、屋敷の地下に引き摺っていった。

 ヴィンセントの瞳は終始震えていた。

 相当が気になっているんだろう。



「さすが悪の組織の地下。拷問道具がいっぱいっすね」

 俺はそう言いながら、ヴィンセントを椅子に座らせた。

 椅子の腕置きには、銅でできた拘束具がついている。もちろんそれで両腕は使えないようにしている。足元には鎖。簡単に逃さないように。


「……なにを、するつもりだ」

 赤い血色の瞳が俺をにらみつける。


「いやぁ、色々ありまして、貴方の位置を譲ってもらいたいんっすよ」

「……これでも俺は闇の住人だ。簡単に口を割ると思うか?」

 仮にもプライドはあるらしい。それとも見通しが甘いだけなのか。


――じゃあ、しか無いよな。


「本当は魔法を使って苦しめるって手もあるんだけど、魔力がない人間でも行える手軽な方法でいってみましょうか。」


 俺はある機械を取り出す。


「あくまで俺はこの組織が欲しいだけっす。それには貴方の知識もいるし、従者たち、暗殺者たちが何処にいるかどうかも確認しないといけない」


 俺はヴィンセントの手元にある機械を取り付けた。


「――は?」

 驚いた表情でこちらを見るヴィンセント。

 もちろんこの屋敷は彼のものだ。だから彼が道具を把握していないわけがない。


「それじゃ、情報を吐くまで、サクッと爪を剥いていきましょうか」


 爪を1枚、2枚、3枚ほど剥いだところでも口を割らない。


 もう日が沈みかけている。ロゼの元に戻らないといけない。


 まだ情報は吐かない。流石に一日の拷問じゃ、まだ生ぬるいか。


 彼の拘束は解かず、そのまま少し頭を上に上げてもらう。


 足元には大きめの桶を用意する。

 ……どこ出身の拷問かは忘れたけれど、この拷問は単純なものだ。ただ、かなりきついらしい。


 水滴を額に垂らす、それだけだ。

 それだけだ。ぴちゃりと鳴る音、軽い刺激でも、無限に行えば地獄になる。

 

 あ、ちなみに舌は切ないように、口枷はつけている。


「これで明日の朝まで持つかなぁ~」

 

 そろそろ日が暮れる。

 お嬢のもとに戻らないといけない。




 屋敷に戻ると、ロゼは上機嫌だった。

 どうやら大好きなシュークリームを料理長に作ってもらったらしい。

 身なりも整っているから、脱走等はしてないだろう。


「あー、でも妃教育ってめんどくさいわ!

「本を頭に乗っけるやつですかい?」

「そんなレベルじゃないわ。あの教育者は鬼……鬼よ……!」


 ロゼの顔は真っ青だった。相当スパルタだったようだ。


「で、アッシュは昼から何処に?」

「実はですね……旦那様が熊肉を食べたいと言ってきたので、熊を狩ってきやした」

「うそつき! 今日は魚の日だったわ! もう、アッシュってば、いつも私のことばっか、いじめて……」

「お嬢が照れるから悪いんですぜ」

「う~~~~~~~~! ばかばか、ばかうんちむし!」


 おそらくロゼの中で一番悪い言葉が出てきたけど可愛いもんだ。


「でも、妃教育ってどうにかならないかしら。文献に目を通したり、マナーに気遣ったり、あーめんどくさーい」


 お嬢が机の上に突っ伏す。


「大丈夫ですぜ、お嬢。もう少しの辛抱っすよ」

「そうよね! お妃様にはヒロインがなってくれますもの!」


 ピカピカと目を輝かせるロゼ。

 俺の手は汚れているけれど、彼女にはいつまでも笑顔で居てほしい。

 だから俺は努力を惜しまない。


――ロゼを誰にも渡さないために。

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