第12話 真の悪役(仮)育成日記(2)SideA※
まず平民街で宿を借りる。屋敷で出来ないことを、ここで行おう。
ちなみに
そしてこれから俺は
いくら中身が大人とはいえ、13歳の姿のままウロウロすると、ややこしい連中に絡まれるだろう。
そんなやつらは魔法を使えば、蝿のように叩き潰せる。けど蝿も蚊もわざわざ潰す手間をかけずに済むならそのほうがいい。
「……えーっと、こんなもんか」
まず魔法で外見をいじる。
20歳くらいに見えるように調整。
服装もあまり小綺麗じゃないように。少し薄汚れたコートを羽織り、帽子を深くかぶる。
――こんな姿、ロゼには見せられないからなぁ。
革の手袋をはめて、鏡を確認。
「よし、どこから見ても平民。……ん、いや、ちょっと顔が良すぎるから、浮くか?」
なんて冗談を言って、心の底から道化になる。
全てはロゼとの幸せな生活のために――
「待ってくださいな、お嬢――ロゼ。
貴方のためなら幾らでも手を汚しましょう」
◆
組織のボス――攻略対象のヴィンセント。
ゲーム開始時は25歳。いまは5年前だから、20歳。
前の記憶通りなら、もう組織のボスとしての地位を継承している。
なるべくひと目につかないように、隠密スキルを使って、
泥臭い街の奥には、深い森がある。
そこを抜けた先に、淀んだ空気が漂う屋敷があった。
「毎回思うけど、なんか魔王の根城みたいっすねぇ……」
屋敷の入り口には、
「さて、どうやって入ろうかな」
ここまで順調に来ると、正直俺は楽しんでいた。
魔獣を魔法で薙ぎ払ってもいいし、隠密スキルですり抜けてもいい。
「……よし、きーめた」
俺はゴテゴテとしたゴシック調の門の横についているベルを鳴らした。
すると、屋敷の奥から執事服を着た男がでてきた。
かなり鍛えているのだろう。体格がかなり良い。
「……アポイントは?」
男は低い声で言った。
肉食獣のような瞳で俺をにらみつける。
――おーおー、こわいこわい。
「ないっすよ」
「ここがどこかわかってるのか?」
「ええ、もちろん」
俺の軽い雰囲気のせいで調子が狂うのか、執事は怪訝な顔を浮かべた。
「……用は?」
男はため息をついて尋ねてきた。
一瞬だが彼は油断をした。
俺は襟首を掴み、執事服の男の顔を土にへばりつけさせた。
グリグリと足で頭を踏む。
そして髪を掴み、男の顔を真正面から見て――
「お前のボスに用があるんだよ。雑魚はひっこんでろ」
と吐き捨てた。
屋敷の中は閑散としていた。
あまり手入れはされていないのだろう。
彫刻や壁画に、薄くホコリが積もっている。
「ひぇ~物は良さそうなのに。こんなに手入れされてなかったら台無しだなぁ」
門前まで来た男は拘束しておいた。
だからなぎ倒さずに、隠密スキルを使いながら気配を消し、堂々と入り口から屋敷へ入った。
「
俺は無駄な邪魔をされたくない。
めんどくさいことはお断りな主義だ。だから魔法を使い、屋敷中の部屋に鍵をかけた。
これで、屋敷にいる輩は部屋から出られなくなる。
俺が
記憶をたどり、屋敷の最奥に行く。
そこには、ヴィンセントの執務室がある。
俺は堂々とボス――ヴィンセント――の部屋のドアを開けた。
そこには、長い黒髪を一つに束ねた男がいた。瞳は血のように赤い。
記憶通り、ヴィンセントで間違いない。
「――誰だ?」
ヴィンセントは怪訝に思ったのだろう。
知らない男がいきなり屋敷に侵入してきたのだから。
「人に名前を聞く時は、まず自分から名乗れって、
俺がそう言うと、彼は眉間に皺を寄せた。
「……お前、一体……」
どうやらヴィンセントは名乗る気がないようだ。
このままだと、話が延々と続いてしまう。
――ロゼに夜には帰るって伝えてるし、ロゼとの約束は何が何でも守らないと。
「はじめまして、こんにちわ。俺はアッシュ――あ、偽名じゃなくて本名っすよ。ただのお転婆お嬢様の従者です」
ありのまま全部答えてやる。
偽る必要なんてない。
彼にはもうすぐ退場してもらうから。
「さて、それじゃ、てっとりばやく要件を伝えますね」
俺は風魔法を使って、彼を床に突っ伏させる。
あぁ、本当に権力者がみっともなく床にキスをしている姿は、何回見ても楽しい。
「お宅の組織をもらいにきました」
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