第7話 サプライズ
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広間の中央に
小さなシューを土台部分にたくさん貼り付けて、タワーのように積み上げたものだ。
最下層は二段の生ケーキで、色とりどりのマカロンを小さな白鳥に見立てた愛らしい飾りが、ぐるりと土台の円周を囲んでいる。
「ケーキは、パティシエの方に焼いていただいたんですけど……」
呆気に取られて見上げるカイルの隣で、セリーナは恥ずかしそうに俯いた。
「私はシューを絞ったのと、焼いて貼り付けたのと……飾り付けのフルーツと飴細工を、ちょこっと……」
「この飴細工もなのか?」
「はい……私のは、不恰好ですけど……っ」
貼り付けられた沢山のシューの合間に、ところどころ綺麗にカッティングされたフルーツが乗っている。
オレンジ、メロン、イチゴ……。
全体に散らばった星形をしたフルーツ。その隣には、艶やかに光る飴細工。
「フルーツを形に切って飾るのは、毎朝シェフさん達が用意してくださる朝ご飯から思いついたんです。シェフさんがカットした果物は、いつもとっても綺麗なんですけど……自分でやると結構難しくて」
飴細工は、繊細な蝶の形をしている。
今は二人で羽化させている、温室のフレイアを模したものだ。
「クロカンブッシュのシューは、祝福するゲストを表すものらしくて。今日は来賓の方々がいらっしゃらないので、その代わりに、殿下がたくさんの祝福を受けられますように、って……」
「なッ……」
カイルが絶句している間に、二人の周囲は大勢の侍女と侍従に囲まれていて——。
その輪の中にはアドルフとロイス、侍女と親しげに手を取り合って微笑む、ティアローズの姿、皇宮のシェフ達の姿も見られた。
「戴冠十周年、おめでとうございます。皇太子殿下!」
アドルフの声を合図に、大きな拍手と歓声が湧き上がる。
先の戦争のあと、非道だ、冷酷だと言われ始めてからは、極力社交を避けてきた。
それは、どこかで人の目を恐れていたからだ。
こんなふうに大勢の者達から戴冠記念を祝ってもらえるなど、思いもよらなかった。
胸を満たす喜びと、僅かな緊張と恥じらいから、カイルは所在なげに髪をかき上げる。鳴り止まない拍手と心からの笑顔は、変わらずに続いていた。
「おめでとうございます、皇太子様っ」
——目の前でひときわ輝く笑顔を見せる、彼の美しい妃に視線を移す。
「お前の……お陰だな」
*
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噴水脇のテラスで演奏を続ける宮廷楽隊の楽曲が、夜風に乗って静かに耳に届いた。
早々に下がらせた使用人たちは、今頃は別の広間で祝宴を楽しんでいるだろう——彼らにも分け与えられた、クロカンブッシュとともに。
ずっと立ち尽くめだったセリーナを気遣い、マイラが窓際に置かれたソファに座らせる。
「マイラ……あなたも、もう行っていいのよ?」
「お気遣い有難うございます。でも、殿下がお戻りになるまでは」
カイルはアドルフと共に、使用人の祝宴に顔を出すと言ってこの場を離れた。
『すぐに戻る』という言葉を残して。
「セリーナ様。侍女たちの、
マイラは、裏庭でフィオナを問い詰めた。
皇太子の着衣から漂った、フィオナの『香り』の真相についても……。
表には出さないが、セリーナもきっと案じているはずだ。
そして余計な心配をさせるのは、お腹の子にとっても良くないに違いない。
フィオナから聞いた話を、セリーナにははっきりと伝えるべきなのだ。
マイラが詰め寄った時、フィオナが言った言葉を胸の中でもう一度反芻する——。
『私は何度も、ご遠慮申し上げたのですが……殿下は、気にするなと仰って……神殿から皇城の入り口まで、私のおぼつかない足を支え、肩を貸してくださって』
「セリーナ様に、お伝えしておきたい事が……」
マイラが口を開いたその時、広間の扉が開かれた。
すぐに戻ると言った言葉通り、カイルが戻って来たのだ。
「マイラっ。あの噂なら、私、もう……」
セリーナだって、もう気にしていないと言えば嘘になる。
けれどもしも、本当の事を知りたいと思うならば……直接カイルに話を聞きたい。
「——待たせたな。マイラも、もう下がって良いぞ」
回廊を急いだのか、カイルの息が僅かに上がっている。
「………承知いたしました。その前に、レモン水をご用意いたしますね」
レモン水、それはセリーナが気分が悪くなった時のための気遣いだ。
マイラは軽く一礼をして、そそくさと壁際のテーブルへと向かって行く。
それを見届けると、カイルは礼服のポケットに手をやり、細いブルーのリボンを結んだ小さな包みを取り出した。
セリーナの手を取り、そっと握らせる。
「これ、は?」
「早く渡したくて、気が
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