第2話 料理部


 篠宮さんと出会った翌日。本来の部活動の曜日でもあったので、俺は部員のグループチャットでみんなに入部希望者が現れたということを伝え、皆を部室に招集した。


「しゅう君、入部希望者ってまさか……」

「うん。知ってるかもしれないけど、篠宮さんだよ」

「篠宮凛でーす」


 俺の紹介に合わせて、篠宮さんが自己紹介をする。

 どうやら篠宮さんの噂は同級生の朋はおろか上級生である先輩方も知っているようで、三人は興味深い目で篠宮さんのことを見ていた。

 あと、なぜか俺のことも。


「えっと……私は村上朋です。噂はかねがね……」

「あはは、ありがとう……かな?悪い噂じゃないといいんだけど」

「僕もその噂は聞いているよ。新入生にとんでもない美人がいるってね。……ああ、僕は北島春雄。よろしく」

「よろしくお願いします、北島先輩」

「最後は私ね。料理部の部長をしてる今野圭よ。春雄君も知ってたみたいだけど、私も知ってるわ、その噂」

「うへぇ……今野先輩もですか」


 篠宮さんが今野先輩も、といったのは、北島先輩が二年生で今野先輩が三年生だからだ。

 うちの学校では学年ごとに上履きの色が異なっており、学年が一目でわかるようになっている。


「ついでに、押し寄せてくる男子をバッタバッタとフッてるってこともね」

「……!」


 今野先輩の言葉を聞いた篠宮さんが、顔を強張らせる。

 そして次の瞬間、いきなり例の話をぶち込んできた。


「でも、もう大丈夫です!」

「大丈夫?そんな話してたっけ?」

「あれ……?とにかく、私は浅川さんと付き合うことになったので!」

「……へぇ」


 ニヤリとこちらの見る今野先輩。

 突然の展開に俺も口を挟みたくなったが、ぐっとその気持ちをこらえた。

 元々、篠宮さんの提案上俺と付き合っているということは周囲にばらさなければならないのだ。それは昨日のうちに覚悟を済ませてきている。……というのは半分嘘で、覚悟しなければならないということはわかっているというだけだ。


「しゅう君、ほんとに?」


 俺のことも篠宮さんのこともまだ全然知らない先輩方はそうなんだという程度だったが、俺のことをよく知る朋は疑惑の目をこちらに向けていた。


「まあ、流れでな」

「流れ?」

「いや、その……」

「……じー」


 やたらと追及をしてくる朋。いったい何が引っかかるというのか。


「私を助けてくれたんだよ。ね、浅川くん?」

「助けた?いつ?」

「……ちょっと」


 篠宮さんがジト目でこちらを見てくる。

 どういうことかと周りを見ると朋は呆れた顔をしており、先輩方も俺のことを哀れんだ目で見ていた。


「……え?……え?」


 突然変わった雰囲気について行けず、そんな声しか出ない。そんな俺の代わりに、朋が口を開いた。


「しゅう君、察しが悪いから」

「……は?」

「……はぁ」


 俺の声と篠宮さんのため息が重なる。

 諦めたように項垂れた篠宮さんは、俺を置いてけぼりにこれまでの経緯をみんなへと説明し始めたのだった。

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学校一の美少女と、付き合う「フリ」をすることになりました。 @YA07

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