第52話 (ライルハート視点)

「ふ、ふざけるな!そんなことをして、アイリスがどうなるかも分からないのか!お前の思いはその程度なのか!」


顔を青くしたアレスルージュは俺へと必死の形相でそう叫ぶ。

そこに込められているのは、恐怖だった。

アレスルージュの頭の中にあるのは、アイリス、自分の娘を利用して何とか生き残りたいということだけ。


その事実に俺は酷い不快感を覚える。

今すぐその口を、殺してでも閉じたい衝動に駆られながら、それでも俺は必死に耐えて口を開いた。


「いや、破滅するのはお前だけだよ」


「………は?」


戸惑いを見せるアレスルージュへと、俺は綺麗に折り畳んだ一枚の書類を突き出した。

それは、俺が公爵家の次期当主であると王家が認める旨が示された証明書の写しだった。


「今回の筋書きは、王子の公爵家を断罪ではない。公爵家内部だけの問題で全てを終わらす。──つまり、前当主の不正を次期当主が気づき、断罪したことにする。もちろんアイリスもあんたの不正を暴くのに協力したことにしてな」


「………っ!」


アレスルージュが、俺の言葉に同様を漏らすのがわかる。

それこそが俺が見つけたアイリスに被害を及ばせずに、アレスルージュを破滅させる方法だった。

あくまで、公爵家内部の人間がアレスルージュを断罪したという建前を作ることで、公爵家内部の問題として不正内容を隠す。


その意図を一拍のちに理解したアレスルージュは、焦燥を浮かべながら、ソレでも口を開いた。


「そんな強引な手が、通用する訳がない!」


その言葉は真理を付いていた。


確かに俺は遠くない未来、次期公爵家当主となっていただろうが、それでもまだ確定してない。

その上、次期当主を認めるには王家の許可だけではなく、その家の承認も必要となる。が、俺は公爵家の許可も得ていない。

そんな中、俺が次期当主を名乗るのは明らかに不自然だ。


問題はそれだけではない。

公爵家の当主が交代する程の不正があるのに、それを覆い隠す方が無理なのだ。

そもそも、アレスルージュの悪名は貴族社会に轟いており、こんな説明だけではほかの貴族達の興味を完全に避けることなんて出来ないだろう。

公爵家内での問題として片付けるには、あまりにも問題が多すぎるのだ。


それを理解し、アレスルージュはさらに言葉を重ねる。


「私を引きずり落とせば、どの道公爵家はなくなる!アイリスにも必ず被害は及ぶぞ!」


「何も問題は起きないさ。いや、俺が起こさないと言うべきか」


そのアレスルージュの言葉を俺は笑って否定する。

そして、そのまま言葉を重ねる。


「言っただろう。この時のために俺は数年間準備を整えてきたと」


言外に、そんなことはもう対処済みだとそう告げた俺に、アレスルージュは言葉に詰まることとなった。



 ◇◇◇


 少し修正に時間がかかり、今日から一日一話投稿となります。

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