第47話

ようやく状況を理解した父の顔からは、血の気が引いていた。

けれど、それ以上にその顔に浮かぶのは屈辱の表情だった。

今まで父は、自分の失敗などまるで疑っていなかった。

故に、自分が嘲っていたライルハート様に追い詰められるという現実に、打ちのめされているのだろう。


だが、この状況になっても父は全てを諦めてはいなかった。


「……おい、私を見逃せ」


「は?」


突然の父の命乞いと言うには、あまりにも上からの言葉にライルハート様は不機嫌そうに顔をゆがめる。

だが、そんなライルハート様の反応を無視して父は言葉を続けた。


「公爵家が潰れれば、アイリスもただでは済まないぞ?」


「……っ!」


ライルハート様の顔に、激しい怒りが浮かぶ。

その反対に、父は希望を見つけたとでも言いたげに、醜悪な笑みを浮かべた。


「は、はは!そうか、そこまでアイリスが大事か!私への憎しみを、アイリスへの思いが上回るか!はは、馬鹿が!」


父が最悪の手段に気づいた。私は父の笑いに直ぐに気づいた。


「もう一度言う。アイリスを助けたければ私を見逃せ。──もし私を反逆罪で捕まえるのだとすれば、私はアイリスも共犯であったと証言する」


……その私の予想は、的中することになった。


これで私の運命は決まった。その事を悟って、私は俯いた。


ライルハート様が来た時、私は疑問を抱きながら、それでもそれ以上の喜びを感じていた。

ライルハート様なら、この状況を何とかしてくれるんじゃないか、そう無条件に思ってしまった程に。


だから、変わることの無い現実を目の前に突きつけられたことで、一度は希望を抱いてしまったからこそ、私はさらに打ちのめされることになった。

俯いて隠しておかなければならないほど、私の顔は歪んでいた。


だけど、それは一瞬のことだった。

すぐに私は、自分の絶望を笑顔の裏に隠し、顔を上げる。

本当は辛くて、苦しくて、今にも泣きだしてしまいたかった。


それでも、私はこうなった時の覚悟は決めていた。


「いえ、ライルハート様。父を見逃す必要なんてありません。私も一緒に糾弾してください」

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