第48話

私の言葉の後、一瞬の静寂が部屋の中を支配することになった。

が、それを気にすることなく私は言葉を重ねる。


「ライルハート様、このような場所にまで足を運んで頂き、本当にありがとうございました。とても嬉しかったです」


崩れそうになる顔に、必死に笑顔を保って必死に私は言葉を紡ぐ。


「それで、私にはもう十分です。ライルハート様が、こうして私を助けに来てくれるほど愛してくれていた、その事実だけで私はもう満足です」


満足なんて、そんなこと有り得る訳が無かった。

先程まで、私は幸せの絶頂にあった。

幼い頃から憧れていたライルハート様の隣に、ようやく立つことに出来るようになるはずだった。


それらが全て、消え去って満足なんてできる訳がない。


だが、そんな自分の気持ちよりも、私には大切なことがあった。

父を睨みつけ、私は毅然と告げる。


「私はライルハート様の足枷になるつもりなんてありません。数年前みたいな後悔はもうごめんですわ」


「なっ!?」


その時になって、ようやく事態を飲み込んだ父が、焦りを顔に浮かべて叫ぶ。


「何をふざけたことを言っているアイリス!口を閉じろ!」


だが、そんな叫びなど最早今の私にとってなんの意味もなかった。

私は顔に笑みを浮かべ、最後の言葉を口にする。



「──だから、私諸共公爵家を潰して下さいライルハート様」



「……っ!」


視界の端、その顔を絶望に染める父の顔が見える。

ざまあみろ。父のその顔には、そんな思いしか湧かなかった。

けれどライルハート様もそんな顔をしているかもしれない、そう気づいた時私の胸に激しい痛みが走って、私は無言で顔を俯かせた。


結局、ライルハート様を傷つけることしかできない自分が、どうしようもなく情けなくて。


が、次の瞬間頭を撫でる不器用な手とともに、私の耳に届いたライルハート様の声は、想像もしていない優しい響きを持ったものだった。


「……本当にお前は馬鹿だな。アイリス」

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