第41話 (執事視点)

「私は、夢でも見ているのか………?」


瞬く間に小さくなっていくライルハート様の背中、それに私はそう呆然と呟くことしか出来なかった。

開け開かれた窓から感じる風、それが私に目の前の光景が疑いようもない現実だと知らせてくる。

にも関わらず、私は自分の目の前で起きたことを信じることはできなかった。


裏社会から姿を消していたと思っていた黒の狼の存在。

さらには、今まで王族としては落第点の能力しか有していなかったライルハート様が見せた、御伽噺にしか出てこないような大魔術。


それら全ての要素が、私が目の前の光景を現実だと認めるのを阻んでいた。


私は、いや、私たち公爵家の家臣達は決してライルハート様を蔑んでなどはいない。

たしかにライルハート様は、王族としては異端の存在で、貴族社会からは疎まれている。

だが直で接してきた私達は、ライルハート様が世間で言われるような昼行灯出ないことを知っていた。

それどころか、実は王太子様にも劣らない能力があり、過去に神童と噂されただけの存在だと私達は密かに話してしていた。


ライルハート様はヘタレではあるが、アイリス様を任せるに充分たる人物だと。


──だとしても、目の前の光景を予想出来るわけなど、あるはずがなかった。


「あ、あはは。私は夢でも見ているのか」


ライルハート様が、諜報能力も一流だと言われる伝説の暗殺組織を部下にしていて、その上本人は大魔導士だった?そんなこと誰が信じられるものか。そうだこれは夢に違いない。


そんな私を正気に戻したのは、遠慮がちな王太子様の声だった。


「……愚弟が説明もせずに申し訳ない。が、そろそろ私も事情を話して貰いたいのだが、良いだろうか?」


「……っ!は、はい!」


遅まきながら、王太子様にとんでもない醜態を晒していたことに気づい私の顔から血の気が引く。

とにかく今は、王太子様に全てを説明するのが先決だ。


そう判断した私は、恐る恐ると言った様子で、王太子様へと自分が聞いた当主様の企みを話し始めた。


「実は……」

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