第39話 (ライルハート視点)
執事の話をききながら、馬車を最大速度で走らせ、王宮に辿り着いた俺は、急ぎ自室へと向かっていた。
執事と共に早足で廊下を歩く俺に、侍女達が不審げな目を向けてくるが、それを全て無視する。
隣にいる執事が、その顔に焦燥を浮かべて口を開いたのは、その最中だった。
「ら、ライルハート様、お願いです!今や、当主様を抑えられるのは貴方様しかいないのです!……だからどうか、私と共に公爵家に!」
執事の必死の懇願。
それに俺の胸が痛む。
実際、執事の話を聞いてからもなお、一目散に王宮を目指している俺の姿は、事情を知らなければ逃げているようにしか見えないだろう。
……といっても、事情を説明しようもにもそんな時間はなく、俺はただ同じ言葉を繰り返すしかできない。
「大丈夫だ。俺がアイリスを助ける」
「───っ!」
常に言い続けてきた言葉に、執事の顔は赤く染った。
そして限界を超えた怒りを発散するように、執事は俺を睨みつける。
俺が目的地、自分の自室に辿り着いたのはその時だった。
「貴方という方は!私は貴方を見損ない……」
「着いたぞ」
「……え?」
執事が混乱した声を出すが、俺は気にせず誰もいない、はずの自室へと声をかける。
「ネルバ。仕事だ」
部屋の天井から、突然黒い衣服を見にまとった気怠げな顔の男が現れたのは、次の瞬間のことだった。
「……なっ!?」
その男を前に、執事が呆然と声を上げ、後ずさる。
その執事の姿に、俺は密かに感心する。
戦闘の心得のない執事だと思っていたが、ネルバの独特な雰囲気を感じられるのは、案外鋭い感性を持っている。
そう感心する俺とは対照的に、ネルバは一切執事に注意を払うことなく、俺に口を開く。
「何ですかァ、王子様?あんたがそんな慌てているとは珍しい」
陰気かつ、気だるげなその様子は、雇い主に対する態度とは思えない。
けれどそれがこの男のいつもだと知る俺は、一切気にせずネルバへと簡潔に要件を伝える。
「公爵家ががアイリスに手を出した。作戦を決行する」
「──ハッ!そりゃあいい知らせだ!」
瞬間、男の顔が変化した。
気怠げな雰囲気が消え去り、貪欲な狼のような覇気を宿す。
「とうとうあの怪物と殺り合う気になったんですかい?こりゃあ見ものだ!」
「黙れ。給料を減らされたいか?」
嫌なことを目の前に突きつけてくる性格が腐りきった部下に、俺は思わず殺意を向ける。
そんな俺を嘲笑うように飄々とした態度で、ネルバは窓へと歩き出した。
「そりゃ勘弁ですわ」
そしてネルバは、窓の外へと身を翻し、俺の視界から姿を消した。
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