第26話

「そ、そんな!なあ、嘘だろう?長男である私をお父様が……!」


サーレリア様の婚約者、いや元婚約者だった貴族令息が呆然と私にそう尋ねてくる。

だが、嘘なわけがなかった。

当たり前だ。


……こんなことをしている人間を、次期当主にと考える貴族はいない。


さすがに自覚があったのか、他の令息達の中にも焦りが伝播していく。

その中に一人、私の言葉を鼻で笑った令息がいた。


「気にするな。はったりだ!偶然私を知っていたのをいいことに、騙そうとしているだけだ!」


「マーリク様、貴方も同じですわ。今すぐ実家に謝りに行った方がいいと思いますわよ。侯爵家との縁談を駄目にして、貴方のお父上が許してくれると本当に思っていたのですか?」


「なっ!」


……しかしそれも、私に名前を言い当てられるまでの話だった。


「他の方方も同じですよ」


厄介そうな人間が黙っている間に、私は他の令息の名前を告げていく。

それぞれ、実家がどうしようとしているかも付け加えて。


「そんな。私はどうすれば……!」


その結果私の前で量産されたのは、今さらながら事態を把握して、唖然とする令息達の姿だった。


今まで私が覚えていた、義妹に魅了された令息達への罪悪感か消え去ったのは、その時だった。


「……どうしようもない」


実の所、私が素直に令息達についてきた理由は、彼らに罪悪感を覚えていたからだった。

いくら愚かだといえ、アリミナは私の妹で家族。

彼女が問題を起こしたならば、姉である私が謝罪しなければならない。

そう考えていたが故に、彼らが実家から勘当されると聞いた時、私はこの令息達にも謝罪しなければならないと思っていた。


だが、この光景を見て私は考えを改める。


おそらく、彼らに関しては勘当は自業自得だろうと。

少しでも実家に足を運んでいれば、この程度の話簡単に聞くことはできただろう。

にもかかわらず知らないということは、彼らはアリミナに傾倒するあまり、実家にさえ足を運んでいなかったことを示している。


そんなもの、勘当されて当然だ。

彼らの婚約者から、令息達が決して優秀ではないことを聞いてはいたが、ここまで酷いとは思ってもいなかった。


「……嘘だ嘘だ」


自分の責任であるにもかかわらず、呆然とした態度をとる令息達。


「そ、そうだ!公爵家なら!」


……そんな彼らが、その目に希望を浮かべてこちらを向いたのは、次の瞬間のことだった。


「………は?」


まるで予想もしていなかった状況に、私の口から呆れた言葉が漏れる。


「お願いします!どうか実家に、話をつけて下さい!」


「い、いやそもそも、全てはあのアリミナのせいじゃないか!」


「責任取ってくれ!」


一度に押しかけてきた令息達に、私は何事かと目を見張る。

突然、何か霧が晴れたように叫び始めた彼らの姿に、私は違和感を覚えずにはいられなかった。


けれど、私が動揺を漏らしたのはその一瞬のことでしかなかった。

彼らがアリミナに絆されていたのは事実かもしれないが、ここまでことが大きくなったのは正直彼ら自身の自業自得でしかない。


だからこそ、私は令息達にそう告げようとして──ライルハート様の声が響いたのは、その時だった。


「………私の婚約者に、何をしている」

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