第27話
「ら、ライルハート様……」
ライルハート様の姿を見て、令息が漏らした声はかすれていた。
その目に浮かぶのは、隠すきれない驚愕。
先ほど私に掴みかかってきたときの狂気など、最早見つけることもできない。
だが今回ばかりは、その令息達の態度を責める気は起こらなかった。
……それ程までに、今この場にいるライルハート様の醸し出す雰囲気は、異常なものだったのだから。
「どうした。何故何も答えない?」
ライルハート様の言葉は、王族特有の威圧感を放っていた。
まさかに、王者の風格というべき威圧感を。
私はライルハート様がただの人間でないことを理解している故に驚きはしない。
だが、今までライルハート様をただの役立たずだとしか認識していなかった令息達が、冷静さを保てるわけがなかった。
「い、いえ、その、あくまで誤解で……」
「あ、あ、あくまで私達は、アイリス様にお願いをしていただけで……」
「そ、そうなのです!わ、私達は何も……」
みっともない程に取り乱し、言葉に詰まりながら、令息達は必死に言い訳を繰り返す。
こんな姿を見れば、誰であろうが不信感を覚えずにはいられないだろう姿。
にもかかわらず、ライルハート様は令息達の態度を見て、先程までの威圧感が嘘のように微笑んだ。
「そうか。どうやら、私の勘違いだったらしい。許してくれ」
あっさりと引き下がったライルハート様に、令息達の顔に驚愕が走る。
しかし、それはすぐに嘲りへと変化した。
「いえ、お気になさらないでください!」
「お気になさることなく、夜会をお楽しみください」
「私共は少し、アイリス様にお話がありますので……」
誤魔化せた、そう判断した令息達は、その顔を安堵で緩めながら、ライルハート様を広間に戻そうとする。
そこにはライルハート様に対する嘲りが込められていて、私は苛立ちを覚える。
けれど、それが爆発する前にライルハート様が口を開いた。
「今回はそれで許してやる」
「………え?」
次の瞬間、令息達の顔は嘲りを浮かべたその表情のまま凍りつくことになった。
そんな令息達と対照的に、変わらぬ表情でライルハート様は続ける。
「勘当する前に処罰を与えたら、貴様らの実家に影響する。だから今回だけ特別に許してやろう」
「な、何を……」
ライルハート様の表情が変わらなかった故に何かを勘違いしたのか、令息の一人が言い逃れしようと口を開く。
ライルハート様の目がぞっとするほど冷たい光を放ったのはその瞬間だった。
「つまらないことは考えるな。……それとも、今潰されたいのか?」
「ひっ!」
ライルハート様の言葉に、令息達は震えながら悲鳴を漏らす。
その姿を他の貴族が見れば、「昼行灯相手に怯えるなど情けない」なんていうかもしれない。
けれど、私は逆にその令息達の評価を少し上げる。
……過度に怯えるように見えるその姿は、ライルハート様から何かを感じれる感覚を持つことを示していたが故に。
そんな令息達へと、ライルハート様は表面上、表情だけは友好的に言葉を続けた。
「次、アリミナの口車に乗ることがあれば全力を持ってお前らを潰す。分かったな」
口調だけは平坦に、けれど溢れんばかりの殺意を込めたその言葉に、令息達は人形のように首を上下することしか出来なかった。
そんな令息達を冷めた目で一瞥した後、私の手を握って、ライルハート様はテラスを後にする。
テラスを後にする直前、私が最後に見たのは、青い顔で呆然と立ち尽くす令息達の姿だった……。
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