第23話 (ライルハート視点)
「少し、飲み物を飲んできますね」
そう言って離れていったアイリス。
彼女の背中が遠くなってから、俺は深々と息を吐いた。
「ふぅ……」
兄貴に碌なアドバイスを抱けなかった後、俺は必死に今日の振る舞いを考えていた。
何とか、先日の失態を償うために。
なのに、ドレスに身を包んだアイリスを見た瞬間、頭の中が真っ白になった。
それ程に、今日のアイリスは美しかった。
その状態の中、俺の頭にかろうじて浮かんだのはかつて兄貴に言われた、もう少し素直になればいいのではないか、という言葉。
……次の瞬間、俺は馬鹿正直に天使なのだと口にしてしまっていた。
「はあ……」
あの時の羞恥を思い出し、俺は思わず嘆息を漏らす。
何であの時、あんな台詞を真っ正直に言ってしまったのか、今でも後悔せずにはいられない。
「……だが、綺麗だったな」
ただあの台詞は、俺の嘘偽りの思い出あったのは事実だった。
目を閉じれば、鮮明に今日のアイリスのドレス姿が思い浮かぶ。
それに、ドレスを着たアイリスに、目を奪われていたのは俺だけではなかった。
本人はまるで気づいていなかったが、アイリスは明らかに他の令息達からの注目を集めていた。
「もう少し、自分のことにも意識を向ければいいのに」
そう考えて、俺は小さく笑う。
……だがその笑みは、ある異常に勘付いた時消え去ることとなった。
「……遅いな」
飲み物を飲んでくると言ってここから去ったアイリスの帰りが、明らかに遅かった。
飲食しているところへと目をやるが、そこにもアイリスの姿はない。
「っ!」
そのことに俺は無視できないだけの不信感を覚え……アイリスによく似た声が響いたのは、その時でした。
「あら、ライルハート様。奇遇ですわね」
胸を支配する不信感を表情に出さないように気をつけながら、声の方向を見る。
そこにいたのは、怪しくも蠱惑的な笑みを浮かべたアイリスの義妹、アリミナの姿だった。
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