第21話
「今日は早く見つけられるといいけど」
夜会の会場に入ってから、まず私は小さく呟いた。
実は、夜会でライルハート様を見つけるのは婚約者である私にとっても至難の技だった。
というのも、夜会が好きでないライルハート様は取りた立てて地味な装いで、紛れてしまうのだ。
だが、今夜に限ってはその心配は杞憂だった。
「……ライルハート様」
何せ、珍しくも正装で夜会に来ていたライルハート様は、どの令息よりも目立っていたのだから。
いつもは、まるで整えられていないことで隠れている整った容貌が、正装に身を包んだことで十全に発揮されている。
他の令嬢達が、ライルハート様だと気づかず、好奇の視線を向けているのもここからではよくわかる。
正装のライルハート様を、私は数度見たことがある。
それでも破壊力は大きく、咄嗟ににやけそうになる口元を抑えて隠す。
さすがにこんな顔をライルハート様に見せるわけにはいかない。
せめて気を引き締めようとして、その前に私とライルハート様の目が合う。
そして、その瞬間ライルハート様は私の方へと歩き出した。
今までは自分がライルハート様の所にいっていたが故に、こうしてやってきてくれるのは初めてのことだった。
その喜びに口元がさらに緩み、私は内心嬉しい悲鳴と、悩ましい声を同時にあげる。
そんな複雑な感情を抱く私に気づかず、私の側までやってきたライルハート様は口を開いた。
「アイリス?」
「は、はい!」
まるで尋ねるかのようなニュアンスで告げられたライルハート様の言葉。
それに戸惑いを覚えながらも、私は何とか返事を返す。
「──っ!」
突然、ライルハート様が顔を背けたのは、そのときだった。
そのライルハート様の姿に私の心が急速に冷える。
もしかしてドレスが似合わなかった?
いや、手紙でからかったことを怒っていたり……。
そんな私を思考の渦から現実に戻したのは、ライルハート様の言葉だった。
「その、アイリス。とても似合っている。天使かと思った」
「──っ!」
普段滅多に言ってくれない褒め言葉に、私の顔は一気に朱に染まった。
気づけば、ライルハート様の横顔も、赤くなっている。
……その姿は、ライルハート様が勇気を出してくれたことを物語っていた。
「あ、ありがとうございます!そ、その、ライルハート様もとても素敵………です」
恥ずかしさと嬉しさのあまり、しりすぼみになった言葉。
それでも、ライルハート様の横顔はさらに赤く染まる。
「そ、それでは踊るか」
「そ、そうですね!」
会場の中央にある踊り場へと足を進める私たちの足取りは、どこかぎくしゃくしたものだった………。
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