第19話 (ライルハート視点)
そのあと、俺は兄貴と少し言葉を交わして自室へと戻った。
兄貴は公務で、あと少しで城を後にすることになっており、あれ以上留まることはできなかったのだ。
「……そうか、明日から兄貴は城からいなくなるのか」
そう呟いた俺は、自分がそのことを寂しく感じていることに気づき、苦笑する。
「我ながら、兄離れできていないな。……一時はもう近づかないとさえ思っていたのに」
貴族たちは、役立たずの俺と優秀な王太子の仲が悪いと思い込んでいる。
だが、それは貴族たちの思い込みでしかない。
俺と兄貴の仲は、かなりいい。
俺は別に王位などまるで狙ってなどいないのだから。
それどころか兄貴の陣営として動いているし、そのことを本人もしっている。
そもそも兄貴は、そのことを抜きにしても俺に対して最初から優しかった。
そんな兄貴の王位を狙う気など俺にあるわけがなく、それで十分だと思っていた。
……それだけで話がつくわけがなかったのに。
貴族達にとって、本人の意志などどうでもよかったのだ。
俺に詰め寄り、強引に王位を狙わせようとした奴もいる。
そんなことを想像していたなかったが故に、俺は全て後手に周った。
思い出す、気づくのがもう少しでも遅れていれば、全ては取り返しのつかないことになっていたと。
……兄貴に、償いきれないことをしてしまうところだった。
だからこそ、一時俺はもう兄貴にも顔を合わせないと覚悟を決めたときもあった。
そんなことをすれば、兄貴に迷惑をかけるだけだと。
そのときの俺を救ってくれたのがアイリスだった。
どうしようもなく情けなかった俺を見捨てなかったアイリス。
俺はそんな彼女に感謝し、そして恋をしている。
だからこそ、アイリスに何があろうと守りきると決めていて……あることに俺が気づいたのは、そう改めて覚悟を決めていたときだった。
「……最終的に、アイリスにどう接すればいいのか、兄貴に教えてもらってない」
衝撃の事実に気づき、俺の顔から血の気がひく。
もう、兄貴は城にもおらず、自分でどうにか考えなければならない。
その現実の前に、俺は呆然と口を動かす。
「嘘、だろ……」
夜会は、あと二日のところまで迫っていた……。
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