第17話 (ライルハート視点)

「……いや、もう少し感情を露わにした方がいい気がするのだが。そもそもあのアイリス嬢が、それ如きでお前を嫌う訳が無いだろうが」


呆れ顔で、そう漏らした兄貴。

呆れを隠す気の無いその表情に、苛立ちを覚えた俺は、兄貴に届くくらいの声でボソリと口を開いた。


「アイリスを狙う男は多いから油断できねぇんだよ。……ちょうどすぐ側にも、アイリスに恋慕していた人間がいるしな」


「なっ!?」


その俺の言葉に、一瞬で兄貴の顔は真っ赤に染まる。

それは、何よりも雄弁に俺の言葉を肯定していて、俺は内心嘆息を漏らす。


そう、実のところアイリスはかなりモテる。

というのも、アイリスのお節介はとどまることを知らず、それに絆される異性は身分問わず多い。

義妹のアリミナが魅了の女と言われているが、俺は確実に遺伝なんじゃないかと俺は思っている。


まあ、同性のイメージに関しては、雲泥の差だが。

アイリスのお節介は性別関係なく、彼女の信者は同性もかなり多いのだ。


……だからこそ、俺は気をぬくことができない。


今婚約者だったとしても、必死に守り抜かなければその身分は奪われかねない。


「……ただでさえ俺は、情けない姿を晒してしまっているしな」


思い出すのは、もう十年以上前のこと。

俺がまだ、役立たずではなかった頃。


……その時期は、俺にとって拭いがたい汚点だった。


前世の知識も、特殊な能力も、そんなものは決して神の祝福ではない。

それどころか、それは俺たち凡人にとって、あまりにも身に余る呪いなのだと、今の俺は理解している。

しかし、その時の俺はそんなこと考えもしていなかった。


そんな俺の姿に、兄貴は小さく嘆息を漏らした。


「……お前は、いつも一人で抱え込み過ぎている」


その当時を知る数少ない人間からの言葉。

その中に、自分に対する気遣いを感じながら、それでも俺は笑うだけで言葉を返すことはなかった。


それだけで、俺の意図を汲んで兄貴がこれ以上、その話題について言及することはなかった。


「まあ、正直そんなことよりも私は、アイリス嬢の義妹の方が気になるんだが」


「ん?」


その代わり、次に兄貴が選んだ話題はアリミナのことだった。

言葉の意図がわからず、首をかしげる言葉に兄貴は言いづらそうに、けれどもはっきりとその言葉を口にした。


「アリミナ嬢は、お前を狙っていないか?」

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