第16話 (ライルハート視点)
「……見られていたとは思っていなかった」
アイリスから返事があったその日、俺はベッドの上、そう項垂れていた。
そんな俺に対し、気遣うような、というか気味の悪いものを見るような声が響く。
「えっと、何があった……?というか、私の部屋のベッドを占拠しないで欲しいんだが……」
俺が顔を上げると、そこには困ったような顔をした兄、王太子アリクスタの姿があった。
俺は、ベッドを占拠しないで欲しい、という部分を無視し、口を開く。
「……アイリスに、アリミナと会話していたところを見られた」
「ああ、成る程。昨日言っていたアリミナ嬢との会話を見られたのか」
緩んだところをアイリスに見られたくない、そう俺が思っていることを知る兄貴は、その俺の説明だけで全てを理解して頷く。
だが、全てを理解したはずの兄貴の目に浮かんでいたのは、隠す気もない面倒という感情だった。
「まあ、分かったから自分の部屋に戻れ」
最早、俺の悩みに一欠片の興味も示さなくなった兄貴は、そう部屋の扉を指差す。
そんな態度に苛立ちを覚えたので、俺は手札を一枚切ることにした。
「先日、不正を隠蔽しようと、喚く辺境伯を黙らせてやったのは誰だっけ?」
「っ!」
「あの証拠見つけるのに、凄い時間がかかったんだけどな。そんな態度取られるなんてな……」
「……こいつ、本当にいい性格しているな」
睨みつけてきた兄貴に、満点の笑顔を返す。
兄貴は、諦めたように嘆息を漏らし、口を開いた。
「といっても、相談されても私に答えられることなんて無いんだが。……そもそも特に問題ないだろうに。というか何故、アイリス嬢に感情を隠すようなことをするんだ?」
「それは……」
兄貴の質問に、一瞬俺は即答することができなかった。
何故なら、それは俺にとってどうしようもない汚点だったのだから。
しかし、自分から相談させてもらっているこの状況、口を閉ざすのはあまりにも失礼だ。
そう判断して、渋々口を開く。
「……その、アイリスに情けないところを見せたくない。あんな、緩んだ表情を見られて幻滅されたくなかったんだ」
それは、かなり勇気を振り絞っての告白で……けれどその俺の話を聞いた兄貴の顔は、どうでも良さそうなものとなるのだった。
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