第10話 (ライルハート視点)
それから数分たっても、まだ俺は玄関で留まっていた。
もう既に日は暮れて、早く帰った方が良いことはわかっている。
だが、アイリスへの心配が俺を玄関に留まらせていた。
せめて最後に、一度だけアイリスと顔を合わせて無事かどうかを確かめなければ、帰る気にはなれない。
「ライルハート様が、こんなに凛々しい方だとは思いませんでしたわ」
……それをどう勘違いしたのか、アイリスの義妹は先程から盛んに俺に話しかけてきていた。
俺は思わず顔をしかめそうになるを堪え、あえて淡々と返答する。
「そうか」
「はい!本当に凛々しい方だと思います」
どれだけ興味なさそうに振る舞ったところで、アリミナが会話を続けることをやめることはなかった。
その理由が分からず、俺は内心ため息を漏らす。
アリミナの態度、それは兄上に媚びを売る令嬢達の態度と酷似していた。
見ていて痛々しいほど、下心が隠せていない。
しかし、アリミナが俺に媚びを売る理由が俺には分からなかった。
アリミナが俺に惚れるはずがないし、そもそもアイリスを敵に回す理由が分からないのだ。
「私、こんな方を婚約者にされたお姉様が羨ましいです」
だから、俺は常に話しかけてくるアリミナに対して不信感を覚えずにいられない。
アリミナの表情が変化したのは、ちょうどそのときだった。
「でも、お姉様なら当然ですよね。私みたいな平民と違って、お姉様は公爵令嬢ですから。……お姉様の言う通り、私も身分をわきまえないといけない、ですもんね」
その言葉は、一歩間違えればまるでアイリスがアリミナを虐めていると聞こえかねないものだった。
それに苛立ちを覚え、振り返る。
振り返った俺に対し、アリミナは疲れを滲ませた表情を浮かべていたが、直ぐにそれを笑みで覆い隠した。
「あ、すいません。誤解を招くような言い方でしたね。──でもお節介なお姉様が、私を心配してそう言ってくれているんだと思います」
「っ!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は今までの怒りを忘れ呆然とアリミナを見つめることとなった。
彼女から告げられた言葉を何度も脳内で反復し、ようやく俺は理解する。
自分が、アリミナを誤解していたことを。
今まで、俺はアリミナに対してアイリスを困らせる厄介な義妹、という認識しか抱いていなかった。
だが、それは大きな間違いだったのだ。
呆然とする俺に対し、蠱惑的な笑みを浮かべるアリミナ。
それは今まで、胡散臭さしか感じなかった表情だった。
だが、全てを理解した今、俺はアリミナの愛らしさを素直に感じることができる。
そして、今まで彼女のことを勘違いしていた自分を反省しながら、俺は口を開いた。
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