オランウータン

あんまりじろじろ見んじゃないよ、とオランウータンは言った。


オラウータンと呼んだら怒られたのでオランウータンだ。


「初対面ならさん付けで呼ぶのが常識だろ」


「オランウータンさん?」


そういうとオランウータンはふん、と言ってふんぞり返った。


「なんで喋れるの?」


「お前は何で息ができるんだよ」


息ができなきゃ死んでしまうのに、意地悪なオランウータンである。

そう言ってやるとまたふん、と言ってふんぞり返った。


俺はボスだったんだ、とオランウータンは言う。


「どうして?」


「そりゃあ俺がとんでもなく賢いからだ」


「じゃあ何で動物園に捕まっているの?」


これも作戦のうちなんだよ、とオランウータンは笑う。


「ここで働く人間、遊びに来る人間、どいつも何かしら不満を抱えているんだ。それをうまく使って俺がボスになる」


すでに手下が三十人はいるぞとオランウータンは私に教えてくれた。


「今に見ていろ、俺が人間のボスになるからな」


「うん、ばいばい」


それからしばらくたった日、あの動物園で動物たちがたくさん脱走したとニュースが流れた。隣町の市役所を乗っ取って立てこもっているそうだ。ボスのオランウータンに統率された猛獣たちには機動隊もかなわないらしい。賢いって言ってたのは本当だったんだ。


次の週になると隣町は完全に占拠された。自衛隊も出動したそうだけど民間人もオランウータンに協力しているからなかなか難しいそうだ。


やがてオランウータンはどんどんと人間を味方につけて勢力を拡大していった。

オランウータンが話すと人々は涙を流し、現制度に対して怒りの声を上げオランウータンをたたえるらしい。私は全然そんなことなかったのに。大人になると大変なのだろう。


一年が経つ頃にはオランウータンは勢力圏を関東全域にまで広げ、日本は既に統治能力を無くしどんどん吸収されていき、反オランウータン勢力が僅かに残るだけになった。


私が住んでいる町はオランウータンと反オランウータン勢力の戦いの最前線になっていて、ろくに外出もできない。私はオランウータンにジカダンパンをすることにした。


銃声が飛び交う中を潜り抜け、私はオランウータンの国に潜入した。そこら辺にいる大人にオランウータンの居場所を聞くと、オランウータン様はさっきまで広場で演説をしていたと教えてくれた。広場に行くと周りをクマやライオンに囲まれてゾウの上に乗ったオランウータンがいた。


「なんだお前か」


「オランウータンさん、こんなこともうやめにしてよ。銃声で夜眠れないしサボテンが枯れちゃったんだよ」


「やめろだと? ごめんだね。俺はもっと偉くなってやるからな」


「お願いだよ。なんでもするからさ」


そう言われるとオランウータンはにやりと笑ってゾウから降り、私に近づいてきた。


「だったらお前、俺の嫁になれ。力を手に入れたから次は女だ。大丈夫、お姫様みたいな暮らしができ―痛っ!?」


私は真っ赤になりながらオランウータンに思いっきり平手打ちをした。そのまま持っていた水筒でオランウータンを叩く。


「ちょっと待て、くそっ、やれお前たち!」


オランウータンの命令をうけ怒りに燃えた猛獣たちが私に襲い掛かろうとしたとき、銃声と共に反オランウータン勢力が突撃してきた。奇襲にあって猛獣たちは制圧されてオランウータンも捕まった。


一年後、日本は何事もなかったかのように元に戻っていた。オランウータンの処分について激しい議論が交わされたがオランウータンは厳重な監視のもとまた動物園に入れられることになった。私はあのオランウータンに平手打ちをしたと反オランウータン勢力だった人たちの間で少し話題になったりもした。


あの時のあれはプロポーズだったんだろうか、でもオランウータンの王子様なんていないよね、とたまに考えている。

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