9 (最終話)

 どうしても好きになれない潰れた銀杏ぎんなんのにおいが鼻に届きだしたから、秋を知った。




 気温がいつまでも高く、夏が終わらないのかと半ば不安になっていたが、それが季節の変化を教えてくれた。そういう意味ではその不快感もありがたいもののように思えた。




 それからしばらくして、今度は冬が近くなっている。




 そう、季節は変わった。しかし、あの日の出来事は薄れなかった。理由は分からないが、俺にとって母の言葉はとにかく衝撃的だったのだ。




 あれから、考え方が少し変わった。勉強も部活も将来のためなのだと、繋がった。ひたすら頑張るしかない。頑張っていれば、きっといつか意味が生まれる。今はそう思う。




 以前の自分を『目の前のことをなぞっているだけ』と表すなら、今の俺は『時を前進している』と言える、自信をもって。




 小説家になるという一つの夢を、叶えようと思った。きっと、九回裏逆転サヨナラホームランを打ってやろう。







 そして、相変わらずカスタードクリームになりたい俺は、今日も世界をソウゾウしている。






 十一月十四日の夕方、背中を押すように、秋の虫の声が、鳴っていた。

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