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 トイレを流す音で、やっとはっきり目が覚めた。起きて最初はトイレに入ると決まっている。だから、曖昧な意識のままここまで来れてしまう。今日は試合だが、朝やることは変わらない。




 緊張はしていない。これは良いことなのか悪いことなのか、捉え方が分からない。とにかく、少しスッキリした感情ではある。




 顔を洗う、ご飯を食べる、と朝の活動が始まる。そして欠伸をしたら会場に居た。いや、これはさすがに誇張しすぎた。だが、移動には特に何も無かったからどっちにしろ話さない。




 試合の準備を始める時間になる。しかしここであることに気がついた。ラケットが無い。ぼんやりとした記憶を辿るとそういえば入れていなかったような気がする。




 少し焦った。届けてもらおうか? いや、時間的には間に合わないだろう。仕方ないが人から借りるしかない。俺はまず顧問に忘れたことを伝えた。




「そうか、しょうがないな。誰かから借りて、やってくれ」




 そうして試合に入ることになった。




 結果は勝ちだった。劇的なことは何もなく、相手に失礼になるかもしれないが、表現するなら、普通の試合。俺は普通に勝った。そして、何事もなかったように学校に戻ってきた。




 しかし、解散後に顧問に呼び出された。




「いやね、勝ったけどさ。試合には問題無かったけどさ。違う所だよね。何で忘れられるんだろうって思うっていうか。厳しい部活じゃないよ、ここは。でも言いたくなったんだよね。君のこの先のために、みたいな。今日だけじゃないから。前から手を抜いてるのは分かってたから。駄目じゃん、ね」




 俺はイライラした。先生が正しいのは分かっている。完全に自分が悪い。でも、イライラした。




 家に帰っても暗い思考しかできなかった。また物語が浮かんでくる。キャラクターが理不尽に死んでいく。




 現実はあまりにも正しかった。それが嫌だった。殴る準備はできていても、理由は生まれない。たとえ理由ができたとしても、結局そうする度胸は無く動けない。脳内のこぶしが空を切る。




 突然、悪意が流れてきて、それ以外考えられなくなった。

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