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 何が起こっただろう。何も起こっていない。そんな秋だった。気付けば十一月。一週間は加速していた。




 考えごとが多い季節だった。トイレの中に少し長く居すぎて

「大丈夫?」

 と母に言われたこともあった。そう聞かれる度腹が立ち、その一単語じゃ何を尋ねているのか分からないだろ、と思った。だが、その大丈夫の意味は理解できてしまう。そこまで馬鹿じゃないから前後の流れというのは考えられる。意味不明のことを理解できているのが俺は何故か不快なのだった。苛立ちを吐き出すことができないから、暫く体の中においておく。そして気がついたら飲み込んでいる。ゴミ箱が無い時のガムと一緒だ。




 ところで、何について思考していたかというと、引退式のことである。まだ一年生なのに馬鹿馬鹿しいが、スピーチで何を言うのかもう考え始めているのだった。結局、無駄だと文章を崩すから何も残らないのだが。




 俺はサラバと言いたかった。その相手は学校とか、そういう色々なものだ。逆の電車に乗れば家出はできる。でもやはり迷惑はかけたくない。ひねくれた俺でもそこはまだまともなのだった。家族、友だち、担任などを裏切ることはいけないことだと認識していた。




 このままじゃ駄目だと思っていた。いや、そんなこともないかもしれない。駄目だと思うなら変えようとするはずなのに今までの生活を続けようとしている。やはり何も分かっていないのかもしれない。実際には、その今までの生活というのもよく思い出せなかった。記憶は断片的にしか残っていない。




 それでも秋は終わる。十一月と十二月のどこかで季節が切り替わる。ぼんやりとした境目をいつの間にか跨いでいく。冬になったら何か変えようと、イメージが上手くできないのは俺のせいなのだろうか。

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