後悔か決心か

仲間たちと合流した私はいたって平静を装っていた。


「すまない、少し遅れてしまった。」


「君が遅れるなんて珍しいこともあるんだね。」


こんな時ばかりは落ち着いたポデルの声が安らぎを与えてくれた。


「準備に手間取ってな、

 それよりお前の言うとおりしっかりと準備しといたからな。」


「それはよかった、でも慢心はダメだよ?」


「分かってるよ。」


「そういえばマニプラール、今日はやけに大人しいな。

 いつもならとっくの昔に怒鳴り散らしているころだろうに。」


「……ほっといて。」


「ドール、何か知らないかい?」


「いや、知らないな。

 それより自分のことを棚に上げるようで悪いが

 時間もないことだし今日の依頼の説明にはいってもいいか?」


ポデルには悪いことをしていると思う。

しかし私と同様に、

いや、なまじこれまで悩んでこなかった分純粋な彼女は

思い悩んでいるのだろう。

そう思うと真実を話すことが出来なかった。


「まあ、構わないけど。」


「ありがとう、

 それじゃあ目的から、

今回潜入するのは“ガーディアン”の手が入っていると目されるグラン製鉄所だ。

前回とは規模が違うため恐らくより踏み込んだ情報も手に入るだろう。

しかし当然警戒されているだろうから侵入成功後にばれることも考えられる。

その場合は多少の戦闘は覚悟しなければならないと思っておいた方がいい。」


「一時撤退はできないのか?

 命あっての物種だろう。」


「確かにそうだが潜入できるのは失敗すれば警備が厳重になることを考えれば

 一度だけ、他の拠点を探そうにも次どこの研究所が狙われるか分からない

現状では被害が拡大するリスクが高すぎる。」


「僕たちの変わりはいるってのかい?」


「そうならないための準備じゃないか。

トラウマがあるのは分かるが頼む。」


そう、ポデルにはトラウマがある。

彼には姉がいる。正確にはいた、が正しいか。

私が仕事を取ってやるようになる前はその姉に

面倒を見てもらっていたそうだ。

しかし、同じ仕事で戦闘になった際、

激戦となり命からがら抜け出した時、その姿は見えなくなっていた。

それ以来姉が戻ることはなかった。

そして周りに気を配る余裕がなくなることを極端に嫌がるようになった。


「……分かった。でも絶対に無茶はしないって約束して!」


「約束する、それじゃあ行こうか。」



少し薄汚れた赤いフィアットに乗り込むと目的地に向かう、稼働している製鉄所ということもあり道のりは舗装された道路ばかりであったが数時間似たような風景が続き、

マニは眠ってしまっていた。

そして寝ぼけまなこを彼女がこするころ、私たちは目的地の駐車場に到着した。


「……私、寝ちゃってた。」


「遠かったからな、降りて風に当たるといい。」


「…うん。」


車から降り、見渡すと巨大な鉄の大筒が煙を噴き上げているのが目に入る。

その敷地は形容しがたいほど広大で言葉を失ってしまう。

しばらくして、


「ここに今から潜入しなければならないのか、、、」


「いつになく弱気ね、ドール。」


「…マニ。」



調子を取り戻したらしい彼女にそう声をかけられる。

彼女の存在を改めて自覚したことで自分の首元のネックレスに

自然と手が伸びる。

その赤と紫の結晶を見やると不思議と心の揺らぎが治まっていくのを感じる。

私は彼女を支えているつもりでその実、本当に支えていたのは彼女だったと

分からされた。


「ここまで来ちゃったんだから、もうやるしかないでしょ。」


何か吹っ切れたような表情のマニ。

その表情からはある種覚悟のようなものを感じた。


「そう…だな。」


彼女のおかげで決心することが出来た私は、背の丈の数倍はある冷たい門に

歩みを進めていく。




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