準備か恋愛か
今日は依頼の準備している。
結局変装だけでは不安ということで、
護身用の拳銃や防弾チョッキを買いに来ているのだ。
もちろんそんな代物表の世界の商店街などには売ってるはずもないので、
そうゆう場所で、だ。
「あんたから買い物に誘って来るなんて珍しいじゃない。」
「ポデルのやつが心配だとか騒ぎやがるからこうやって買い物に来ているだけだ。
どうせあいつは防弾チョッキなんて着やしないんだから、騒ぐことないと思うんだが、
まあこれもあいつなりの思いやりなのかもな。」
「それでも、誘ってくれたのはうれしくないこともなかったわよ。」
「そうかい、
しかし裏世界のブローカーから拳銃やらなんやらを買いにいくのが
そんなに楽しみかねぇ。」
「(バカッ、、、)」
分かっている、分かっているが、私にはそうやってごまかすことしか
出来なかった。
それでも、これくらいは。
「手、握るか?」
「え?…いいの?」
「休日サービスだ。
大人しく握っとけ。」
「……うん。」
手を繋いでいるだけだというのに、私の心は酷く揺れ動いていた。
このまま素直になってもいいのではないだろうか、と。
それが間違っていることだとしても。
ただ、私の苦悩などつゆ知らず、
その吸い込まれるような両頬を紅色に染めるマニの顔は
葛藤する私の心を静めてくれる気がした。
そんな天国とも地獄ともつかないような時間は幸いというべきか
瞬く間に過ぎ去っていった。
「そろそろだな」
私たちは表の道から細い路地に入り、
一見民家のようにも見える少し錆びれたドアをノックした。
(コン、コン)
「はーい」
内から聞こえてきたのはこのような場所には似つかわしくない若い女性の声だった。
(ガチャリ、ギィ)
「あ、ドールさん!今日はどんなご用件ですか?」
元気そうな少しすすに汚れた少女が出迎えてくれる。
「アルマ、また店番やらされてるのか。」
「うーん、そうとも言えるしそうでないともいえるなぁ、
頼まれてるのは事実だけどこの仕事好きだしね。」
「そんなんじゃ嫁の貰い手がいなくなるぞ?」
「うるさいよ、これでも結構モテるんだぜ?」
実際そうだ選り好みしなければいくらでも相手などいるだろう。
「それで?今日は何の用なのかな?」
「ああ、今日は潜入調査用の手荷物検査に引っかからない武器と防具をな。」
「なるほどね、お父さーん、ドールさん来てるよ。」
彼女が店の奥に向かって叫ぶとしゃがれた声で返事が返ってきた。
のそのそと歩いて出てきた初老の男性は私の姿を見るやにっと笑って
軽口をたたいてきた。
「おう、ドール。まだくたばっちゃいなかったか。」
「お前より先に死ぬ予定は残念ながらないな。」
「おおそれは良かった、俺は一生お前から金を搾り取れるわけだな。」
「よく言いやがる。その分じゃ当分くたばらねえな。」
「おおよ」
「お父さんったら、ドールさんが倒れたって知ったときは
真夜中だってのに家を飛び出していこうとしてたくせに。」
「アルマ、それは言うんじゃない、、、」
「ほお、ずいぶんと大切に思ってくれてるじゃないですか。」
「ただの客としてだ、それより今日の要件は?」
「ああ、そうだった。
潜入調査をする予定なんだが持ち物検査に引っかからない
武器防具を用意しておきたくてな。
こんな事マドラにしか頼めないんだ。」
「持ち物検査に引っかからないとなると防具は厚みを持たせて内部に細工して布は防刃素材を使えばそこそこの耐久性を持たせられるだろうが武器は難しいな、仕込み刀くらいはどうにかなるが銃火器となると火薬のにおいでバレバレだ。」
「そこをどうにかならないのか?」
「そうだなぁ、ちと古風ではあるが仕込みキセルを改造するのはどうだ?」
「仕込みキセルっていうとタバコを吸う道具に短剣を仕込むっていう。」
「そうだ、だが今回は筒状の部分を銃身として拳銃もどきにしようと思う。
タバコを蒸かしていればにおいもばれずらいだろうしな。」
「ならそれで頼む。」
「りょーかい、それじゃあ防具の採寸からだな。」
「マニ、採寸に行くぞ、…ん?」
マニは私の服の裾を握ってうつむいていた。
そうなるのも無理もないのかもしれない。
いつも気丈にふるまってはいるがマニはまだ16歳なのだ。
普通なら学校に通っていてもおかしくない。
こんなアングラなところに連れてこられて畏縮しないわけがなかったのだ。
「大丈夫、私がついてる。」
「……うん。」
店の奥の更衣室で採寸が始まる。
もちろん私とマニは別々なのだが仕切りが二人の間を遮るまで
私の服の裾は伸びきったままだった。
「さあ、採寸するわよ。万歳して。」
「…はい。」
「うわぁ、きれいな肌!
透き通るようね。」
そんな会話が聞こえてくる。
意識しないようにしていたが嫌でも気になってくる。
「興味しんしんって感じだな。」
マドラのそんな声にドキッとする。
しかしこの気持ちはさらけ出すわけにはいかない。
私は平静を装っていた。
「いや、そんなことは無い。
ちょっと心配だっただけだ。」
「はあ、そうかい。
まあいい、こっちも始めるぞ、採寸。」
そうやって防具の準備はつつがなく進んでいった。
「今日は世話になったな」
「いいや、いいさ。
大切なお客様だからな。」
「完成はいつ頃になりそうなんだ?
出来るだけ早めにお願いしたいんだが。」
「そうだな、3日後には仕上がる予定だ。」
「ありがとう、それじゃあ3日後また来るよ。」
「マニプラールちゃんもまたおいでね。」
「うん。」
アルマとマニは思った以上に仲良くなっているようだ。
やはり女同士でしか分かり合えないこともあるのだろうか。
「それと、油断しないで頑張ってね!
ラ・イ・バ・ル・!」
最後の言葉は聞かなかったことにしたかった。
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