ヒトガタのツタの正体



(ギュイィィィ…ドン、ガガ、ガッ)


ツタのドリルは私の体を貫くことは無くコンクリートの塊に突き刺さっていた。

これはマニの能力“dominacion(ドミナシオン)の能力、無機物を操ることができる。

正し、その対象は自身の目の届く範囲に限られる。


「はぁ、あんたねぇ少しは避けるとかしなさいよ!」


「そんなこと言って、信頼してもらってるの嬉しいくせに、」


「そんなこと、、、ないわよ」


ほんのりと赤らんだ彼女の頬を見れば容易くその心境を推し量ることができた。

それと対照的なのは

機械音声じみた恐らく目の前の人の形のツタを操っているであろう人物の声だ。


「なっ… お前ら弱小能力者じゃなかったのカ⁉」


「ふふんっ、あんたなんか目じゃないのよ。」


いつもの悪い癖だ、マニはすぐに調子に乗るくせがある。

相手がどんな隠し玉を持っているかも分からないというのに。


「一応、な “サクディル”、…ん? てっきり焦りの感情が大きいと思ったが

驚きの感情と悲しみの感情が大きい?」


隠し玉があるのか、驚きの感情はマニが強能力者だったことに気づいたためだと

理解できる、が“悲しみ”?

だが今は目の前のツタの塊を倒すことに集中しなければ。


「マニ、あいつは恐らくまだ隠し玉を持っている、

 自分の身を守るキャパは残しとけよ。」

「そんなこと私にかかれば余裕よ、いくわよ、“ドミナシオン”」


周囲のコンクリートの塊が弾丸のように打ち出され、ツタの体を食い破っていく。

そして数秒後にはツタの塊は跡形もなく消え去っていた。

しかし直後、


「いヤー、驚いたヨ、まさかここまでとは

 やりたくなかったけど背に腹は代えられないしね。」


そう言い放ったと思った瞬間、ビルのフロアが動き出した、

いや正確にはビルを覆っていたツタが動かしているというべきか。


「まずい、マニ足元を固めろ!」


「え?」


最優先に排除すべき対象だと判断したのだろう。

私がそういったときにはもうすでにマニの足元は崩れ去っていた。


(ばっ)


「貸しだからな」


その瞬間超人的なスピードで手をとったのはポデルだった。


「…ありがと」


マニは心底嫌な顔をしていたが助けられたことには変わりないので

いやいやながらも感謝の言葉をつぶやいた。


そしてマニの能力で足場を手に入れた私たちは声の主がいるであろう

放送室に向かうことにした。


「もぉぉ、わざわざ人の形をとるもんだから

 本体じゃなくても重要な分体とかだと思ったじゃない!」


「どうやら侵入者のレベルを見定めるのが目的だったようだな。

 下手に能力を見せたせいで逃げられなければいいんだが。」


「そうなったら俺が捕まえてやるぜ!」


「おいポデル、能力の副作用で痩せて見た目変わってるとは言え

 その喋り方どうにかならんのか。」


「こっちのほうがそれっぽいだろ?」


「はぁ、もういいよ

 それより声の主を捕まえることが先決だ。」


くだぐだと喋りながらも私たちは放送室へとたどり着いた。


(ギィィ)


「なっ⁉」


扉を開けると目に飛び込んできたものは幼い少年の姿だった。


「あーあ、ここまで来られちゃったか。」


「なんで子供がこんなところに⁉」


「なんでって、僕も“ガーディアン”の一員だからさ。

 これでも組織の金策の一部をになってるんだよ?」


「どうしてこんなことを…」


「君たちならわかるんじゃないかな?

 強い能力を持つものがたどる運命を。」


「…っ」


マニが顔をしかめる。

「僕はもともと種が発芽する程度の能力者だった。

 でも成長するとともに能力も強大になり、今ではビル1つを

 能力下に収められるまでになった。

 そうしたらどうだい、能力にびびって誰も僕の周りに近づく者はいなくなった。

 さみしかったよ。

 それでねこのビルはもともと僕が住んでいた思い出のあるビルなんだ。

 だから壊したくなかった。

 でもそれ以上に僕のように能力のせいで孤立する人が増えて欲しくなかったんだ。」


「そんなことがあっただなんて、、、」


「しかし、それでも研究所を破壊して無関係な人を殺して何になる。」


「無関係?笑わせないでくれよ、

強能力者を食い物にするような研究をしていたくせに。

そのモルモットのような扱いが孤立させる原因の一つだとは

思わないのかい?」


「そんな研究あるはずが、、、」


「あるんだよ、実際に実験で死んだやつもいる。」


「なん…だと、」


「それじゃあ、僕はそろそろおいとまするとしますか。」


「何を言っている、出入り口は塞いでいるんだ、

 もっと詳しく話を聞かせてもらうぞ。」


「なんで、僕がこんな自分語りしてたと思う?」


「そんなの…」


「ここで時間稼ぎしてろって言われたからさ。」


(カツ…カツ…カツ)

「クレシー、助けに来たわよ。」


「だれだ、この女!?」


いきなり部屋に入ってきたのは高身長で妖艶な雰囲気を醸し出している女性であった。

体はマニと真反対であったが赤と紫の髪色と美しい顔立ちは通ずるものがあった。


「私の名前はプレディ、クレシ―は連れて行かせてもらうわね」


「そう簡単にいくかよ!」


ポデルが捕まえようと手を伸ばしたがその手はすんでのところで空を切る。

その直後には部屋を抜けられてしまっていた。

マニがコンクリートの塊を打ち出すも涼しい顔をして避けられてしまう。

まるで未来が見えているかのような…

能力には副作用が付き物だ、もしそんな強力な能力が存在するならば

一体どんな代償があるのだろうか。


辛うじて私の能力は届いたものの、読取れた感情は、懐かしさと苦しみだった。

あの涼しい顔の奥にいったい何を隠しているのだろう。


「何だったんだ。」


「分からない、しかし組織、いや“ガーディアン“の目的、そしてこれほどの拠点を

 すぐさま捨てることから、少なくともここと同等以上の施設を持っていることが分かった、ここに一人だったことから人員は少ないであろうこともな。」


「当初の目的は達成ってわけね!」


「そうなんだが私はどうもあの少年の言っていたことが気になってしまってな。

 このまま調査していくことが本当に正しいことなのか…。」


「まあ気にすんなって。」


「…っ、私には何が正しいかわからない、あの少年の言うことが真実なら

 実験を止めたいというのも正しい感情なのではないか?だが能力格差を

是正したいという感情もまた…。」


「大丈夫なの…?」


「ぐっ…、うわぁぁぁぁぁぁぁ」


「ドール⁉」


私の記憶はここで途切れている。

次に目を開いたときに飛び込んできたのは涙ぐんだマニの顔と、

窓の外を眺めるポデルの姿だった。


「大丈夫なの⁉」


「ああ、少し能力が暴走しただけだ。

 ところでここは?」


「よかったぁ、

ここは病院よ、いきなり倒れるから急いで救急搬送してもらったの。」


「そうだったのか、すまなかったな。」


正直に言うと能力に何かしらの異変が起こっているが正体もわからないし

無駄に心配をかけるだろうと思い、話さないことにした。



倒れてから3日後、復調した私は探偵業務、

というよりは何でも屋としての仕事に復帰していた。


「今日集まってもらったのはほかでもない、“ガーディアン”について話すためだ。」


「一応前回の依頼は達成したのよねえ?」


「ああ、そうだが依頼主から調査を継続して欲しいと言われてな。」


「前回は依頼料すごいもらってたけど今回もなのか?」

「ん?、まあそうだな。」


「やったぁ、またいっぱい飯が食えるぜ。」


「お前はいっつもそれだな、前回の依頼ではあんなにやせてたのにもう戻ってるじゃないか。」


「これは能力を使うための必要経費だ!」


「あんたねぇ、ただ食いたいだけでしょ、、、」


「はぁ、話がすすまんなぁ。話を戻すぞ。

 依頼を継続するにあたって次は前回より大きな資金源であろうグラン製鉄所を

 調査する。」


「前回より多数の人員が割かれている可能性が高いので強引な

 プランは取れない。」


「じゃあどうするんだよ。」


「変装だよ、都合のいいことにその製鉄所の制服は偽装しやすい構造をしている。」


「本当に大丈夫かなぁ。」


「作戦決行は1週間後、それまでに各々準備しておいてくれ。」


解散した後マニだけが座り込んで何やら考え事をしているようだった。


「どうした?作戦が不安か?」


「いや、違うの。前回、急に出てきたプレディって女いたじゃない、

 何かこう奥歯に物が挟まったようなもやもやがあって、、、」


「そうか、今後出会うことがあったら何か分かるかもな。」


「そうよね、この依頼進めていけば何か分かるかもしれないわよね。

 くよくよしてるなんて私らしくもない。

 次の依頼頑張りましょ!」



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