殺戮オランウータンが多すぎる

流布島雷輝

第1話



「暇ですね。なんか猟奇的な殺人事件とか発生しませんですかね」


 探偵は暇を持て余してソファの上でごろごろしていた。

 すると、新聞記事に盛愚市で発生した猟奇的な怪事件の記事が彼女の目に留まった。

 老婆とその娘がアパートの部屋で猟奇的に殺害されたのだ。


「面白そうですね。刑事に推理を披露しに行きましょう」


 探偵は推理を披露しに警察署に出向くことにした。


「犯人は殺戮オランウータンです」


 新聞記事で事件を知った探偵が警察署に出向き、刑事に推理を披露した。

 特に推理を披露するような事件が起こっておらず、暇を持て余していた探偵は、推理が披露出来て満足げな顔をしている。


「いえ、そんなことはわかっているんです」


 犯行現場に残された毛。被害者の首を引きちぎる怪力。いずれも殺戮オランウータンが犯人であることを示している。

 故に刑事たちも殺戮オランウータンを真っ先に犯人として疑ったのであった。


「では、何が問題なの?」


 せっかく面白そうな事件が発生したというのに、犯人が分かっているのなら探偵の出る幕など存在しないではないか。

 そもそも犯人が分かっているのなら捜査を続ける必要がないのでは?

 疑問を探偵が刑事にぶつける。


「殺戮オランウータンが多すぎるんです」


 刑事によれば事件現場の近くにはたくさんの殺戮オランウータンが存在しているのだという。

 おかげでどの殺戮オランウータンが事件の犯人なのかわからないのだ。


「本当に?」

「本当です。疑うんなら貴女も一緒に来てください」


 そういうと刑事は探偵の手を引っ張って事件現場の近くまで連れていった。

 するとそこには人々を殺戮する無数の殺戮オランウータンがいた。


「なぜこんなにも殺戮オランウータンが……」


 尋常ではない光景を見て困惑する探偵。無理もない。

 殺戮オランウータンなぞ一匹いれば十分だ。にもかかわらず数えきれないほどの殺戮オランウータンがこの場には存在しているのだ。

 そして次々と人々を殺戮している。


「わかりません。一説にはどこかの金持ちがペットにするために船乗りに連れてこさせたとも言われていますが」

「何を考えてるんですか?そのお金持ちは」


 その時だった!

 一匹の殺戮オランウータンが探偵と刑事に襲い掛かってきた。

 何しろ殺戮オランウータンなのだ。人間を見て、興奮して突如襲い掛かってきても不思議ではない。


「ひぃ」


 怯える刑事。このまま彼も殺戮オランウータンに殺害されてしまうのか。


「私を舐めてもらっては困りますね」


 だが、刑事の反応とは対称に落ち着き払った探偵はバリツにより襲い掛かってきた殺戮オランウータンの拳を受け止めた。

 探偵が推理を披露後、突如逆上して襲い掛かってくる犯人に対抗するために鍛えあげたバリツにより、常人の数億倍の戦闘力を持っていることは常識だ。


「鍛えなおして、出直してきてください。もっとも」


 探偵が受け止めた殺戮オランウータンの拳をバリツの力により粉砕する。

 そして拳により殺戮オランウータンの顔面を破壊、顔面を失った殺戮オランウータンの身体は地面に崩れ落ちた。


「それができたら、ですけど」


 探偵は臨戦態勢を崩さない。

 殺戮オランウータンは一匹ではないからだ

 事実、仲間が倒されたことに気付いた殺戮オランウータンたちが一斉に探偵の方を見る。

 いつしか現場には雨が降っていた。


「予想外の事態に困惑していしまいましたが、事実を受け止めるしかありません。ならばやるべきことは一つです」


 殺戮オランウータンが多すぎる。

 そのことが事件の真相解明を阻害しているというのならば必要なこと。

 それは。


「犯人がわからないというのなら最後の一匹になるまで間引きすればよいのです」


 楽し気な笑みを浮かべながら、探偵は殺戮オランウータンたちに向き合う。

 最早、犯行が不可能なものを除外していって、最後に残されたものが真相なのだ。

 幸い殺戮オランウータンは人間ではない。殺人罪に問われることはないだろう。



 次々と飛び掛かってくる殺戮オランウータン。それをバリツしていく探偵。

 次々と町が殺戮オランウータンの死体で埋め尽くされていく。


 最後に残された殺戮オランウータンに刑事が手錠をかけ、警察署に連行していった。

 こうして事件は解決を迎えたのであった。

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